死んだ私と狂ったあなた、過剰の愛

つばさ

死んだ私と狂ったあなた、過剰の愛

 私は死んだらしい。どこかふわふわしてて、痛くなくって、苦しくもないから。嘘、ちょっと苦しい。彼が毎日、私に愛を囁くから。

「今日はここまで本を読んだんだ。恋愛小説、読んだことなかったけど、案外おもろいよ。君はどこが好きだった? 愛を囁くところ? 案外君って、ロマンチストだったんだね。そんな君に毎日告白してるんだけど、どうかな? 気に入ってくれてる? 今日も好きだよ、これからもずっと好き」

 過剰摂取だよ。愛の過剰摂取だよ。あの日、話してくれただけで嬉しかったって言ったよね? なのに何でそんなに好きっていうの。バカ。私にはもうそんな資格ないのに。

「今日は雪が降ってる! 雪だるま作って遊びたいな。君は寒いのは好き? 僕は好き。春夏秋冬好き。君と過ごせるなら、全部好きだって言えるよ」

 何を言ってるの。もう過ごせないじゃん、前向いてよ。

「おはよ、今日もいい天気だね、好きだよ」

 ついになんの脈絡もなく好きだよっていうようになったね。あなたって。ほんとにそう。いつだって私を飛び越えてくるの。初めて話しかけてくれた、あの時だってそう。いっぱい、いっぱいだったんだから。


「ねえ、なんの本読んでるの?」

 え、もしかして私に話しかけてる? 後ろを振り返っても誰もいない。私みたいだ! どうしよう、なんて返そう。そもそも私のこの本、恋愛小説だ。

「恋愛小説だから恥ずかしいかな……」

「そうなんだ、もっと難しい本読んでるのかと思った。俺でも読める?」

「どうだろ、男の人が気にいるか……」

「じゃあ、おすすめ今度教えてよ」

 今度、今度もあるんだ。

「あ、あの、話かけてくれて、ありがとう」

 どう、しよ。変なこと言っちゃったかも。でも、クラスの人気者の彼が、話かけてくれるなんて思わなかったから。誰にだって優しくて、それでいて私にもやさしくしてくれるんだ。これで最後でもいい、嬉しいって気持ち、伝えたかった。

 そしたら彼の顔が真っ赤になった。

「めっちゃ嬉しい、話しかけただけで感謝されるんならこれからどんどん話しかけるわ」

 過剰だ。私には過剰すぎる。もう私には受け取りきれないから、これ以上はやめて欲しい。


「今日は雨だね、雨の日、苦手だったよね、頭痛くないといいけど。雨の日も好き。好きだよ」

 まだこの人は終わらない。死んだ私にずっと愛を囁くんだから。もうキャパオーバーだよ。本当に好きなの? 信じられないよ。同情じゃないの、罪悪感からじゃないの。なんで、あの時も告白したの。私、死んじゃったんだよ。あなたに見合う私になれなかったんだよ。


「好きです! 付き合ってください」

「まだ、待ってもらえる? 私、あなたに見合う私になりたいの。もうちょっと、待って欲しい」

 彼の、寂しそうな顔は初めて見た。

 

「色気ついちゃって。なんなの?」

「お母さんには関係ないでしょ」

「どうでもいいけど今日彼氏くるから。あんたは部屋の中で出てくるんじゃないわよ」

「もうお母さんの言いなりにならないから。今の時代スマホも持ってないなんて私だけだよ。ちゃんと育児してよ」

「なに? どうしちゃったわけ? 口答えするの? 早く部屋に入りなさい、入りなさいってば」

「お母さんの汚い仰ぎ声なんて聞きたくない、外でやってよ。お母さんが外に出てって」

 この後はあんまり思い出したくない。家に入ってきた男の人に殴られて、無理やり部屋に入れられた。この後じっとしとけば部屋から出れたと思う。でももう今すぐ家から出たかった。彼に会いたくなった。彼の家も、どこかもわからなかったのに。だから窓から飛び降りた。不思議と死ぬとは思わなかった。これで、逃げれるのだという幸福感すらあった。結果、私は死んだらしい。


「今日は気分がいいよ! 天気もいいし、外にでて遊びたい気分。でも君はインドア派かな。読書好きだしね。読書が好きなぐらいしか知らないけど……。今日も、好きだよ」

 バカな人。私はアウトドアに憧れてたよ。外に出られなかっただけなの。読書しか居場所がなかっただけ。もう告白、やめていいよ。やめなよ。罪悪感だけでしょ? 告白した次の日に死んじゃったから、勘違いしてるんだよ。私のこと、なにも知らないくせに。好きって言わないでよ。


「今日も好きだよ。君の声が聞きたいよ。話をしたい。あの日、どんな気持ちで飛び降りたの? 本当のこと知りたいよ。好きだから。好きだから、返事をして欲しい、俺を、信じて」

 無理なこと言わないで。死んだんだから。信じられない。どうして私のことが好きなの? 苦しい、あなたの話ずっと聞いてると苦しすぎるよ。辛すぎる。

 苦しい、苦しい、愛おしい。好き、嫌い、やめてほしい。意味もわからないのに涙が出てくる。

 過剰だよ、過剰すぎるよ。ただ、話しかけてくれただけで嬉しかったのに。

「信じて」

 彼がまた言った。私は、もう、首を横にふらなかった。

 信じたい、信じたい、信じたい。愛したい、愛されたい。

「好き、です」

 彼は、私の目を見て、涙をこぼした。

「返事をしてくれて、ありがとう、俺も好きだよ」

 

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