その客達

なかむら恵美

第1話


眩暈がした。理解できない。

同じ目鼻立ちのカップルが、椅子に座る。

背格好から何から何まで、クリソツ。ソックリそのままだ。

男性客の2人が、同時に肩を2、3回廻すのに驚いた。

次の瞬間、女性客の2人が、軽く耳の辺りを掻いていた。

 (・・・・・・・)

仕事を忘れ、暫し、見入る。

「ほら、困ったちゃんになっている。戸惑ってるじゃないの、村岡さん」

<村岡>

制服の名札を目敏く見つけた、女性客の1人が苦笑した。

「4人で出かけると、こうなのよ、いつも」

もう一人の女性客も、苦笑する。

「申し訳ございません。お客様方は、もしかして、、、」


「そっ、双子。双子同士で結婚するんです、僕達」

「別々にやってもいいんだけど、来てくれる人達を思うと、一緒に。合同結婚式

ってのもありかな、と思って」

(は、あ)

心での本音を隠しつつ、

「それはそれは、お揃いで当店をご利用頂きましてありがとうございます」

社長も泣いて喜びます、つけ加えるのも忘れない。

「そう、そう。2回も結婚式だけの為に、わざわざ遠方から、ってのも、ねぇ?」

「高齢者も多いし」

4人の中で、響きあう。

同じ目鼻立ちが、同じに動く。誰が喋っているのか、分からない。


ブライダル業界に勤め始めて、約5年。

他社からスカウトされて、この会社に勤め始めて2年が経とうとしているけれど、

こんなケースは、初めてだ。


共に転勤族の家に育ち、幼少時から年に2年に一回、転々とした。

全国規模である。

「初めて知ったのは、小学1年の時。遊びに行ったら、そっくりなのがいて驚いた」

女性客の思い出だ。

転々とする先々で、そう遠くない距離に何故か住む。

「歩いて10分程度とか、電車で2駅とかね。<ウチは今度、どこそこに>って言うと、<ウチもなんです>って。親父も不思議がっていた」

男性客が、重ね言う。

「けど、悪まで単なるお友達。幼馴染の延長でした、中学までは」

高校にあがる頃から序々に、序々にと「異性」を意識。

気がついたら自然と、方向性が出来ていたという。

「どうせだったら、同じ会場が好いかと思って」

「重ね重ね、ありがとうございます」今度は会長にご登場を願う。

会長も大泣きして喜びます、つけ加えるのを忘れない。


「早速なんですが」

六曜に料理、衣装諸々、会場について等々。

(多少は揉めてくれるだろう)

少々ばかりに期待しつつ、パンフレットを差し出してゆく。

客の意志を尊重はするけど、巧くゆかない場合も多い。

そういう場合、巧い具合に取り持つのも、仕事の1つ。醍醐味だ。

以前の職場でこの点、かなりわたしは気を使い、優秀だと褒められた。

噂を聞きつけた会長が、自分の知り合いの2,3組をわざとわたしに担当させた。

知らずにいつもの通りにやっていたら、「是非に」と直々声が掛かった。

現在に至っている。


ところ甘い。甘かった。

遺伝子100%の双子が2組は、悪までも考える事が一緒なのだ。

「あ~っ、料理のコースはこれでいい?」

「いいねぇ、美味そうじゃん!」

「日取りはどうしよう?別に大安に拘らなくてもいいと思うんだけど」

「賛成、賛成。そうしよう!」

4人でサクサク決めてゆく。もはやわたしの出番はない。

(凄い遺伝子、恐るべし!)

これから先もこうなのかしら、きっとこうなの、そうなのね。

妙に納得しながら、4人の会話をわたしはただ、ひたすらに聞いていた。


                                 <了>

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その客達 なかむら恵美 @003025

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