二コラ物語
Γケイジ
第1話二コラ物語
神父は古い本を読み上げました 。
あるところにニコラという少女が居ました。
彼女には家族が居ない、だから教会で育てられました。
ですが彼女には二つの秘密がありました。
彼女の秘密、それは彼女の母はイワナというその国で
雷帝と恐れられた皇帝だったのです。
もう一つの秘密は悪魔の子供だったのです。
少女ニコラは何も知りません、ですが何時か母親に
会いたいと思って聖歌隊で聖歌を歌います。
彼女は誰よりも勤勉で優しい少女でした。
神父イリューシンは幼いが良く出来た彼女を見習う
ように皆に言いました。
この国ではほんの少し前、革命が起きました。
雷帝イワナは追放され行方知れず。
この冬の国は本当に混迷の時期を迎えていました。
ニコラは混乱し飢えに苦しむ人々の為に炊き出しを
しました。
人々は少女のやさしさに荒んだ心を癒しました。
神父は知っていました。
ニコラが雷帝の子供であること、
そしてその雷帝そのものが魅了の悪魔であることを。
ですが民衆は科学と理性の時代になり
雷帝は処刑されてしまったのです。
だからニコラは母親に会うことは出来ません。
それを知らないニコラは信仰と優しさを信念に懸命に生きます。
ある日いつも教会に来ていた氷龍ノルンがニコラを
連れ去ってしまいます。
それはニコラに小さな角と悪魔の翼が生えたから。
教会に居たら殺されてしまうと思った、
友達を救いたいただその一心で連れ出しましてしまいました。
教会は混乱に陥りました、誰からも愛されていた
みんなの娘が突如姿を消したのですから。
ノルンは凍った樹の妖精、たまたま龍のような翼と
尻尾を持っていました。樹氷に似てとても美しい。
人々は深い森の中、とてもとても寒い極寒の時に彼女を見たと言います。
神父は願いました、ニコラが何者であろうと生き延び平和にあることを。
神父は夜の教会でただ祈り続ける事しか出来ませんでした。それを見た皆は同じように祈りました
ニコラは角が生えても翼が生えても自分は変わらないと信じていました。
だから街に帰ろうとした、みんなが待っているから。
でもノルンは彼女を氷の洞窟に閉じ込めました。
実際にそうなったらただでは済まないから。
ニコラは氷に写った自分の姿を聖書に出て来た悪魔に姿を重ねました。
少しの時間が経ち彼女は自分は人を傷つける悪魔だから仕方が無いんだと言い聞かせました。
革命政府は様々な民族を統一しました。
そしてやせこけた黒パンを国民に一切れ配りました。
ある日教会の仲間、少年ヤコブレフは門限を守らず
ふらふらと彷徨っていました。
その時小さな洞窟にニコラの姿を見つけました。
入口は大きな氷柱で塞がれていて彼の力ではどうする事も出来ない。
それでもヤコブレフは呼びかけました。
ですがニコラは初めて否定的なことを言いました。
「来ないで!私は悪魔の子だからもうみんなの元には帰れないの!」
ヤコブレフはそれから何度も洞窟を訪れ金づちで
殴ったり焚火を焚いたりして何とか氷を解かそうとしました。
政府は言いました、森を切り開き化学肥料で小麦を作ろう。
そうすれば5年後にはパンをお腹いっぱい食べられる。10年後には家畜の肉を
食べられる。
誰もが苦しみながら森の木を切りました。
教会の少年少女も駆り出されました。
仕事をよく抜け出すヤコブレフは政府の役人に大目玉を喰らいました。
そして銃を持った恐ろしい兵士2人が見張るようになりました。
ノルンはヤコブレフにニコラは救えないと思っていました、
何故なら彼はあまりに何も知らなさすぎるから。
それでいて彼は彼女の魅了の力の虜になっていると思っていたのです。
熱心に脱走するヤコブレフに感心した見張りの老兵
スホイは相方の新兵ペドロを従えこっそりと後をついていきました。
そして二人は閉じ込められた悪魔の少女を見つけます。
ヤコブレフは見つかっている事にも気が付かず木を
切るための斧で氷柱を叩いていました。
見かねたスホイは手りゅう弾で氷柱を吹き飛ばします。ペドロはスホイの行動に慌てて逃げ出します。
逃げ帰った新兵のペドロは役人に言いました。
悪魔の子供が居たこと、老兵スホイがそれを閉じ込めていた檻から出したこと。
しかし役人は鼻で笑いました。
「雷帝イワナに子供は居ない故に気にすることも無い。」
次の日、政府は全ての宗教を解体する事を告知しました。神も、悪魔も居ない。
数字とそれが導くものが正義であると。
老兵スホイは秘密の回廊を使ってヤコブレフと逃げます、追って来るのはノルン。
彼女は彼女が作り上げた秩序を壊されたことに激怒していました。
このままニコラが氷の中で眠っていれば誰も傷つかない筈だったのだから。
現にニコラは壊れた氷室の中に閉じこもっている。
ヤコブレフはもう少しの所で助けられなかったのだ。
それでもヤコブレフは諦めなかった。
毎日配給される少しの黒パンと冷めたスープをニコラに届けました。
ノルンは止めたかった、ニコラが次の雷帝になる前に。
だからヤコブレフも氷室に閉じ込めました。
彼は人間だからニコラよりずっと弱い。
長くは氷室の中で生きられない。
「ヤコブレフが死んだらここから出られる。」
ノルンは酷い言葉だと知りながら言いました。
彼女は最早本物の氷龍でした。
その頃、老兵スホイは神父の元を訪ねていました。
老兵スホイはかつて雷帝イワナの尖兵でした。
彼もまた雷帝に魅入られた者でした。
神父はスホイの事を良く知っていました、
なにせ赤子を抱いて息を切らして教会に来た若き日の
彼をその目で見ているのですから。
スホイは祈りました、そして言いました。
「悪魔の尖兵が神に祈るなど・・・」
神父イリューシンも祈りました。
「神は見ている。」
氷室にヤコブレフが閉じ込められてから3日が
経ちました。ヤコブレフは凍えてもう動けません。
ニコラはぎゅっと抱きしめて彼を温めようとします。だけど彼の身体はずっとずっと冷たい。
そしてそれを見たノルンは氷柱を溶かしました。
ニコラは自分よりも大きなヤコブレフを抱えて教会まで走りました。
ノルンはそれを見てあまりに愚かに思えました。
ヤコブレフを捨てれば自分だけでも生きていけるというのに。
教会まではあまりに遠かった。
ニコラは休むことなく三日三晩走り続けました。
ノルンは吹雪を止めた、何故ならそれでも友人の
ニコラを想っていたから。けれど全てが遅すぎました。
十字架を降ろした教会に帰ってきたころには二人は息絶えていました。
神父イリューシンは小さな葬式を執り行いました。
老兵スホイはある少年少女の物語として書き綴りました。
誰か達が祈りました、祈りは月光に照らされました。
次の日、どこからともなく聖歌が聞こえてきます。
今日はクリスマスでした。
その声はだんだんと盛り上がり街中を包みました。
沢山の人々がニコラの事を覚えていたのです。
今は何処に居るのかも分からないけれど彼女のように純真無垢に歌い続けました。
その時、老兵スホイと神父イリューシンは奇跡をその目にします。
ヤコブレフとニコラの亡骸をなんとも温かな不思議な光が包んでいるではありませんか。
少しの時間が流れて春が来ました。
少女ニコラは街中を堂々と歩きます。
だってこの世には神も悪魔も居ないのだから。
少年ヤコブレフは軍人になりました。
強くなってそして守るために。
氷龍ノルンは眠ります。
流れ出した川は止まらないのだから。
老兵スホイは雷帝イワナを想います。
貴女の望むままに娘は生きている。
神父イリューシンは祈ります。
「神は天にあり、世は全て事も無しに」
神父が本を読み終わるとステンドグラスに優しい光が差していました。
おわり
二コラ物語 Γケイジ @13210987
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます