シンデレラストーリー 「ロボ・コンの逆襲」

@machi313

第1話

 鏑木正一はどうしてもロボ・コンに出場したかった。特に、今年の優勝賞品は、予約開始五分で売り切れたと言われる幻のゲーミングPCギャラリア葛葉モデルである。

 しかし、社長から出るなと厳命されている。どうやら、御曹司を披露目も兼ねて出場させる腹づもりらしい。各所に根回しも済んでいて、優勝は確実なのだそうだ。持ち回りの八百長で、十年先まで優勝者はほぼ確定しているらしい、という噂もある。

「くたばれ社長!」鏑木は毒づいた。

「だからロボ・コンが今ひとつぱっとしねえんだよ。なあ?」

「ソウダネ」と、フギンとムニンが頷いた。

 フギンとムニンは鏑木が精魂込めて作ったカラス型使い魔ロボットである。非常に有能なのだが、酷使しすぎると鏑木の言葉を逆手にとってとんでもない悪戯を仕掛けてくるのが玉に瑕だ。


「よし、おまえら今からでも出場可能な会社で、買収できるところを探せ!」

命じると、二羽はすぐにいくつかの町工場をピックアップしてきた。その中から、じいさんが一人で経営している虹猫ファクトリーという会社を選んで買収した。

「当日はいてくれるだけでいい。名義だけ貸してくれ、十万払う」と鏑木が言うと、じいさんは二つ返事で承諾した。


 ロボ・コンは目玉焼き百個の早作り勝負、障害物競走、ロボに内蔵された玉飛ばし競争の三番勝負である。

 御曹司は、呑気なことに、鏑木に出場ロボットの相談をしてくるので、どの程度の性能にすれば勝てるかまるわかりである。適当に相談に答えつつ、鏑木はフギンとムニンに手伝わせてロボットを仕上げた。

「会場をあっと言わせてやろうぜ。」と鏑木が言うと、フギンとムニンはカカカ、と笑って同意した。

 ロボ・コンまであと十日。ラストスパートである。フギンとムニンに発破をかけながら、鏑木は作業に集中した。

「よし、勝てるぞ……これなら勝てる。くくく、ざまあみやがれ!」

 鏑木のマッドな笑い声が夜な夜な響く。フギンとムニンは顔を見合わせて苦笑し、何ごとか囁き合いながらロボットをちょいちょいといじった。


 そして、当日。

 鏑木の作成したロボットは、驚くべき正確さで目玉焼きを作り、皿に盛っていく。圧倒的な速さで一種目目を終え、暫定一位。鏑木は傍らのフギンとムニンをねぎらった。一方の御曹司ロボも、二着で目玉焼きを仕上げる。

 そして二種目目。鏑木ロボはすいすいとぬかるみを避け、ポールを迂回して進む。ゴール目前。

 御曹司ロボは焦ったのか、鏑木ロボに体当たりを仕掛けてきた。すると、鏑木ロボはわざと御曹司ロボを待ち構え、体当たりを食らう直前で御曹司ロボを躱した。

 御曹司ロボはまっすぐ障害物のぬかるみに突っ込んで横転し、車輪を空転させた。ざまあ、と小声で鏑木がつぶやいたまさにその時、会場から「くたばれ社長! ざまあみやがれ!」と大声がした。紛れもなく鏑木の声だった。

 見ると、カカカカ、とフギンとムニンが大笑いしている。どうやら悪戯でロボに悪口爆弾を仕掛けていたらしい。


「ダッテ、ゴ主人様、会場ヲアット言ワセテヤロウゼッテ言ッタモンネ。」


……やばい、働かせすぎたか。


 フギンとムニンの笑い声に注目が集まり出したので、鏑木は慌ててフギンとムニンをひっつかみ、会場を後にした。その時、鏑木ロボが一位でゴールしたらしく、背後に歓声が響く。

「ユウショウ、ユウショウ!」と鏑木に掴まれたまま二羽がはしゃいだ。


 翌日、鏑木は社長室に呼び出された。

 あの後、虹猫ファクトリーのじいさんには残された鏑木ロボを操作できず、鏑木ロボは三種目目の不戦敗で失格になったらしい。しかし、圧倒的な能力を見せつけた鏑木ロボに注目が集まり、表彰式はぱっとしなかった。その上、御曹司は結局ぬかるみから抜け出せず、二種目目で最下位となったことが響いて優勝を逃したのだそうだ。

「自業自得じゃねえか」と思わず鏑木がつぶやくと、「何か言ったか?」と社長が凄んだ。

「おかしいと思わないか? それに、俺にくたばれって言ったあの声は……」

 社長は憤然と詰め寄ったが、何のことでしょう、と鏑木は空とぼけた。


 そのとき、社長室に来客が通された。その顔を見て、社長は目を白黒させて叫んだ。

「あなたは……飲食系業務用機器最大手『パワーウォッシュ』の会長……!」

 当社最大の取引先でもある。どうやら、昨日、お忍びで観戦していたらしい。

「実は、昨日のヒーローをスカウトしに来たんですよ。」と彼はにこやかに言った。

「いろいろな人に聞いて回ったのだが、あんな悪態をつくのはこの会社の鏑木さんしかいないと言うのでね。」

「多分何かの間違いですよ。」と鏑木は言った。

 すると、彼は鞄から何かを取り出した。

「これを、虹猫ファクトリーの社長から譲り受けましてね。どうやら、彼には操作がわからないらしいのだが。」


 社長室の中央、長いガラステーブルに置かれたのは昨日活躍した鏑木ロボだった。

「あっ、それは」と鏑木が言いかけたとき、フギンとムニンが鏑木の前に出てきて羽を交差させ、中指を立てるような奇妙な仕草をした。要するにそれが発動のトリガーで、その途端、鏑木ロボに内蔵されていた鉄球が飛び出し、社長室のガラス窓を派手に叩き割り、綺麗な放物線を描いて外に飛んでいった。


 あああ、と鏑木が慌てふためいて窓に駆け寄った後ろで、

「か、ぶ、ら、きぃぃいい!!!」と社長の怒鳴り声が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シンデレラストーリー 「ロボ・コンの逆襲」 @machi313

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画