最終話:そして、さよなら。

夕焼けを見ていた舞と悠真ルシルが言った。


「ちょっとふたりに話がある・・・」

「私さ、もう大丈夫じゃないかも・・・」


「大丈夫じゃないって?」


「・・・雫・・・最近、おまえ耳鳴りがしなくなっただろ?」


「そう言われてみれば・・・忘れてた」


「それってルシルと悠真のおかげかな?」

「舞にとって、それは喜ばしいことなんだけど・・・」

「私にとってはそれは、もう人間界いられなくなるってことかな・・・」


「何言ってるの?・・・え、どういうこと?」


「私は悪夢の世界から来たんだから」

「ずっとこの世界にいるわけにはいかない・・・」


「舞が悲しい思い出を引きづってる間は私はここにいることができてたみたい 」 「舞から悲しみが薄れて悪い夢を見なくなったら私がいる場所はここにいる

意味がなくなるんだとた思う・・・たぶんね」


「私がここに、いつまでもいると言うことは、舞はまだ本当に幸せには

なれてないってことになるんだ」


「そんなことない・・・ルシルがいたから私たちは自分の気持ちを

伝えなることができたんだよ」

「ルシルがいたから勇気ももらえたし幸せになれたんだよ」


悠真も舞と同じことを思っていた。


「でも言っておくけど、今の幸せはこれから起こる不幸の前兆かもな」

「幸せが大きければ大きいほど、それを無くした時のショックは 半端ないか

らな・・・そういうのを悪魔は虎視眈々と狙ってるんだよ」


「だから、最初に幸せって餌をばらまいておいて罠にかかったら 不幸ごと食っ

ちゃおうって魂胆?」

「本来、私は悪魔だろ・・・人の不幸を糧にして生きてる」

「私の存在はふたりに悪い影響を及ぼすかもしれない」 「だから、おまえらの為にも私はここにいないほうがいいんだと思う」


「なんでそんなことになっちゃうの?」


「さっきも言ったけど多分、私が取り付いた舞の心がクリアになったから、

だから私が消える・・・それだけのことさ・・・」

「それでいいんだと思う」


「ほら・・・」


そう言ってルシルは自分の手を舞と悠真に見せた。


「なに?ルシルの手がどうかしたの?」


「よ〜く見なよ・・・舞」


「え?・・・もしかして手が透けてる?・・・」


ルシルは夕日に自分の手をかざして見せた。


「太陽が透けて見えるだろ・・・ね、消えかけてるんだよ、私」


「止められないの?」


「止められなくもない・・・これは自然の成り行きだから・・・」


「え?どうすればいいの?」


「舞が悲しみのどん底に落ちれば・・・消えないかもな」


「そんな〜」


「今のは冗談だけどな・・・」

「私も舞の悲しい顔は見たくないからさ」

「私は舞が気にいったあまり反対のことをやっちゃったみたいだな」

「それは舞、おまえが幸せになるってことだよ」


「本来とは真逆のことだけど、でもこれでいいんだ」

「私はこのまま消えるよ・・・それが一番いい」


「消えたらルシルはどうなっちゃうの?」


「舞が最初にやってきたナイトメアタウン、悪夢の町へ帰るだけだよ」

「だから私のことは心配はいらない」

「もうふたりには会えないと思うとちょっと寂しいけどな」


「嫌だよ・・・そんなの・・・帰らないで、ルシル」


「舞・・・たぶん、これはルシルでもどうにもならないことなんだよ」


悠真が言った。


「そう言うことだな・・・」

「それに私には悪夢の世界に持って帰る土産話しができたし」


「土産って?」


「ふたりに出会えたこと・・・ふたりトとの思い出は私の宝物だよ」


舞のほほに涙がこぼれ落ちた。


「舞・・・泣かない・・・笑顔だよ・・・笑って見送ってよ」

「いつまでも仲良くね、おふたりさん」

「もう、そろそろこの体、保ってるの限界みたい」

「じゃ、行くわ・・・舞、悠真ありがとう」

「悠真、舞を悲しませちゃダメだぞ」

「ふたりが不幸になったら、また私が現れるからな」

「・・・いつまでも仲良く・・・・じゃ〜な、元気で・・・」


舞は思わずルシルに抱きついた。


「行かないで・・・行かないでよ」


ルシルは舞をだ決めたまま、ゆっくり静かに静かにともしびのように

消えて行った。


「ルシル・・・」


舞と悠真、ふたりにとってはルシルは、大きな存在だった。

悪魔なのにルシルは舞と悠真を結びつけたキュピット。

ルシルがいなかったら・・・それを言い出すとキリがないことなんだけど。


舞はまだ赤く染まっている遠い空を見ながら今頃ルシルは悪夢の世界に戻って、

何もなかったように自由にやって行くのかなって思った。


ルシルは同じことが、もう一度起きるとは限らないと言った。


舞とルシルが出会いは、それは偶然だったのか、それとも奇跡だったのか?・・・

本当はこれはあるはずのない出来事だったのかもしれない。


世の中には信じられない出来事がまだまだあるようだ。

そののち舞と悠真の前にルシルが現れることは二度となかった。

そして舞が悲しみに囚われることも・・・悪夢を見ることもなくなった。


おしまい。

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悪夢から、こんにちは。〜彼女は恋のキューピット〜 猫の尻尾 @amanotenshi

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