自分同士で保健体育の実技をする高校生徒たち

饒舌なゲートキーパー

自分×自分。同一人物同士のためらいもない保健体育実技

ノックをして扉を開けたのは、二年A組の佐藤美咲だった。室内は、柔道やダンスに使う広々とした多目的室で、防音のためか窓は小さく、ひどく静かだ。しかし、そこに生徒の姿は美咲の他には誰もいない。中央にはマットが敷かれ、隅にはパイプ椅子が一脚だけ置かれている。


「あれ……誰もいない」


美咲が戸惑いながら立ち尽くしていると、部屋の四隅に設置された不自然なほど大きな監視カメラの一つから、電子音声が響いた。


「二年A組、佐藤美咲さんですね。先生は別室のモニターで採点を行います。試験開始まで、あと5分間待機してください。机上の教科書は参照可能です。準備ができたら、その椅子に座って待つように」


言われた通り、パイプ椅子の隣にある折り畳み式の小さなテーブルの上には、真新しい保健体育の教科書が開かれて置かれていた。


美咲は、制服のスカートを気にしながら椅子に座り、心臓が早鐘を打つのを感じていた。試験の内容は「対人コミュニケーション実技」とだけ知らされており、誰と、何をやるのか、直前まで知らされないという鬼畜なルールだ。


(誰が来るんだろう……頼むから、あんまり知らない男子とか、変な子じゃありませんように……)


美咲は、そっと教科書のページをめくるフリをしながら、ドキドキの源を考えていた。それは試験への不安よりも、対面する相手への期待が大きかった。このクラスの保健体育の先生は、新任の東野先生という若くて爽やかなイケメンだ。


(もしかして、先生が相手をしてくれるとか……? いや、まさか。でも、もしそうだったらどうしよう。この前、廊下ですれ違った時に目が合って……少し笑ってくれたんだよな)


そんな淡い期待と妄想をしながら、美咲は、テーブルの反射で自分の前髪を直した。


美咲が出て行った数分後、次に部屋に入ったのは、クラスの中でもモテてる存在の中性的男子(男の娘)、星野蓮だった。彼も美咲と同じアナウンスを聞き、椅子に腰かける。


蓮の頭の中は、美咲とは正反対の願望で満ちていた。


(頼む!可愛い子来い!できれば、あの美術部の西村さんみたいな、ちょっとオタクっぽくて、話が合いそうな子が! この「コミュニケーション」って、結局、どれだけ自然に話せるかってことだろ? 美咲とか、リア充のグループの子とか来たら、絶対緊張してまともに話せない……!)


蓮は、教科書の内容なんて頭に入らず、運命の相手がこのドアの向こうから現れることを、密かに神に祈っていた。


さらに、時間が少し経過し、伊集院麗華が部屋に入ってきた。彼女はクラス一の高飛車なお嬢様であり、生粋のナルシストだった。


アナウンスを聞いた麗華は、椅子に座ることはなく、ふかふかのマットの上の中央で、優雅に立ち尽くした。


(フン。保健体育の実技で、私に触れるような真似はさせないわよ)


彼女にとって、この試験は、自分という芸術品を、下賎なクラスメイトの粗末な行為から守るための防衛戦だった。彼女の視線は、空間全体を、まるで不純物を探すかのように、冷ややかにスキャンしていた。


(来るなら、私と釣り合うレベルの、知性と教養を備えた相手でないと。そうでなければ……一言も口を利かないで5分間を終えてやるわ。監視カメラ? 結構。あの東野先生だって、私の美しさを前にすれば、不当な減点はできないはずよ)


麗華は、髪を一房、指に巻き付けながら、絶対的な自己愛に満たされた静かな威圧感を放っていた。


最後に、部屋の隅の暗がりを好む中野由紀が入室した。彼女の心には、先に来た生徒たちとは全く異なる種類の期待が燻っていた。


レズの由紀の視線は、来るべき相手が女子であることを、ただひたすらに願っていた。特に、隣のクラスのバスケ部のエース、吉川さんがいい。彼女の、あのスポーティーなのに繊細な指先や、時折見せる真剣な表情を思い浮かべただけで、由紀の頬は少し熱くなった。


(吉川さん、この実技、結構な人数が呼ばれてるって聞いた。もしかしたら、次に来るのは……)


彼女の持つ保健体育の教科書は、性的マイノリティについてのページが開かれていた。それは、自分と似た感情を持つ者と、この5分間で繋がれるかもしれないという、密やかな希望を映し出していた。


由紀は、そっと監視カメラのレンズを見上げた。その黒い瞳の奥に、教師ではなく、誰にも知られたくない自分の願望を、重ね合わせた。


パイプ椅子に座っていた佐藤美咲は、部屋に入ってきた「もう一人の自分」を見て、息を呑んだ。現れたのは、美咲と全く同じ女子制服を完璧に着こなした、自分自身だ。


「自分……!?」


美咲の戸惑いはあったものの、その心には、ある種の安堵が広がった。相手が男子でないこと、そして、この世で最もよく知っている「自分」であること。美咲は普段から、同性に対して特別な感情を抱きやすい傾向があった。


美咲のクローンとも呼べるその人物は、静かに椅子に向かって歩み寄り、美咲の膝の上に座り込んだ。(正面からそのまま抱き抱える風に)


「ねぇ、何をすればいいのかな」と、美咲と全く同じ声が優しく囁く。


美咲は、その一瞬、全てを許されたような感覚に襲われた。この場所なら、先生の監視下であっても、自分自身を欺かなくていい。


「私、……自分と、ただ話したかった」


美咲はそう言うと、そっと自分の手を差し出した。もう一人の美咲は、その手を取り、美咲の指先に自分の指を絡めた。手のひらに伝わる、自分と全く同じ、それでいて誰よりも心地よい体温。


それは、美咲が望んでいた、最も純粋な対人コミュニケーションの形だった。美咲は、嬉しさと解放感で、そっと涙ぐんだ。二人の美咲は、誰にも邪魔されない世界で、互いの手の感触を確かめ合い始めた。


次に部屋に入った星野 蓮(男の娘)の相手も、彼と性別も見た目も全く同じ、男子生徒の蓮だった。蓮は普段、完璧なメイクと振る舞いで、**女性的な「自分」**を演じている。


「え、うそ……私が二人……?」


蓮が最も恐れたのは、自分の内なる「男」と向き合うことだった。しかし、目の前にいるのは、メイクも仕草も、全てが自分と寸分違わない、完璧な「男の娘」としての自分だった。


「キモい……! 私のパクリよ!」


蓮は、必死で自分を特別だと主張しようとするが、相手は自分自身。反論する隙がない。


もう一人の蓮は、蓮の目を見つめ、静かに言った。


「そっちこそ、、!気持ち悪い、、、、!」


その言葉は、蓮の心の最も深い部分をえぐった。**自分がなりたいと願う「理想の女性」**でもなければ、**周囲に演じている「可愛い私」**でもない。そこにいるのは、自己愛と自己嫌悪の入り混じった、逃げ場のない自分だった。


初めてのキス。


それを、最も安全であるはずの「自分自身」から奪われる。しかも、男としての自分が、同じ男としての自分に触れるという事実に、蓮の心は耐えきれなかった。


「うっ……やめ、て……」


蓮は、男の娘としてのプライドと、自分の性別への葛藤が混ざり合い、崩壊した。目から溢れるのは、自己の存在全てが揺さぶられることへの、屈辱と絶望の涙だった。彼は、男の自分自身との接触を、生理的に拒絶しながら、逃げることもできずに立ち尽くした。


中野由紀も、全く同じ女性の自分自身を前に、最も強い拒絶を示した。


「私、、、かよ!!ふざけんな!」


彼女は、自分との対話ではなく、他者からの理解と承認を求めていた。由紀は、もう一人の自分に背を向け、一切目を合わせることを拒否した。5分間の実技は、由紀にとって、自己否定の拷問でしかなかった。


伊集院麗華は、完全なる鏡像の自分を見て、至高の喜びを感じた。


「ああ……完璧! 私の世界に、私以外は不要だったのね!」


二人の麗華は、試験開始のアナウンスを待たずに、互いを求め合い、マットの上で、よだれを垂らしながら、鏡像同士の激しいキスを交わしていた。それは、彼女の極端なナルシシズムが作り出した、愛と欲望の空間だった。


美咲たちは、試験開始直後は、手を繋いだまま、ごく普通の会話を交わしていた。


「ねぇ、あなたって、私と同じで……このクラスにちょっと馴染めてない?」


「うん。でも、あなたがいてくれるなら、大丈夫な気がする」


そんな会話を交わした後、二人は沈黙した。そして、もう一人の美咲が、そっと美咲の太ももに触れた。女性同士。完全な同一人物。それは、自分を撫でる行為であり、同時に他者に触れる行為だった。


美咲は、その感触に背中がゾクッとするのを感じた。


やがて、美咲がパイプ椅子に腰を下ろし、もう一人の美咲がその足元に跪いた。そして、美咲が制服のスカートを少しだけ捲り上げ、靴下の履き口から膝下にかけて露出した肌を、もう一人の美咲が、目を閉じ、舌の先でそっとなぞり始めた。


美咲の表情は、戸惑いと、止めようのない快感で歪んでいた。それは、百合という感情が、倫理の境界線を越えて、官能的な領域へと足を踏み入れた瞬間だった。


「ひぃ……やめ、先生見てる……」美咲はそう囁いたが、その手はもう一人の美咲の頭を、拒絶ではなく、むしろ誘うように押さえつけていた。


次に星野 蓮の画面。蓮は、涙を流し、身体を震わせながら、激しく拒絶していた。だが身体は正直だった


「やめろって言ってるでしょ! 気持ち悪い……! 男なんかと……!」


しかし、もう一人の蓮は、その男の娘としての蓮の抵抗を、男としての力で完全に押さえつけていた。


彼は、泣き叫ぶ蓮の口を塞ぎ、舌を粗めに絡め、無理やり、その華奢な身体をマットに押し倒した。蓮の悲鳴は、マットに吸い込まれ、か細い嗚咽となる。


もう一人の蓮は、蓮の上にのしかかり、彼の首筋や耳元に、荒々しく、貪るようにキスを浴びせ続けた。蓮の制服のブラウスのボタンが一つ、弾け飛んだ。


これは、蓮にとって、自己のアイデンティティへの、最も暴力的で、強引な攻撃だった。


最後に中野由紀の画面。由紀は、試験開始直後は背を向けていたが、もう一人の由紀が、粘り強く話しかけていた。


「ねぇ、私。どうせやらんなきゃいけないんだよ、私なんだから、全部わかるはずでしょ?」


由紀は、ついに観念したように、ゆっくりと振り返った。


「うるさい……分かってるよ…私に話しかけないでよ」


しかし、もう一人の由紀は、由紀の手のひらをそっと掴んだ。由紀は、拒絶しなかった。その温もりは、自分自身が、初めて自分を許してくれたような感覚を与えた。


「私。多分、私が、私を好きになってくれるのを、待ってたんだよ」


由紀の口から、秘めていた本心が漏れた。もう一人の由紀は、頷き、由紀の手を強く握り返した。


佐藤美咲と、もう一人の美咲の行動は、さらにエスカレートしていた。


靴下の履き口から膝下を舐め合った後、二人の美咲は顔を見合わせた。


「ねぇ、美味しい?」


「うん……私って、こんな味がするんだね」


美咲は、もう理性が霧散しているようだった。互いの足に触れ合い、足の指の間まで舌を滑らせていく。それは、自分自身の身体を、最も親密な方法で探求する行為だった。


やがて、美咲は立ち上がり、もう一人の美咲も立ち上がる。二人は、誰に見られても構わないというように、制服のスカートと下着だけを脱ぎ捨てた。上半身は制服のブレザー姿、下は裸という異様な姿で、二人の美咲は互いの肌を重ね合わせた。


「あったかいね……私」


肌が触れ合う感覚に、二人は恍惚の表情を浮かべ、舌を深く絡ませたキスを再開した。それは、百合という純粋な愛が、自己という境界を越えて、生々しい欲望の領域へと完全に突入した瞬間だった。


星野 蓮の画面では、強引な行為が続いていた。もう一人の蓮は、泣き叫び、嗚咽する蓮の抵抗を無視し、完全に彼の上に君臨していた。


「私キス下手すぎなの!」


もう一人の蓮は、服を荒々しく剥ぎ取り、理性を完全に失った獣のように、泣き続ける蓮の身体に貪りついていた。それは、もはやコミュニケーションなどではなく、自己の最も醜い部分との、強制的でエッチな和解だった。


「ひぅ……や、めろ……」


蓮の涙は、もはや恐怖や屈辱ではなく、限界を超えた身体の反応によるものに変わっていた。


中野由紀と、もう一人の由紀は、初めは手を繋いでいたが、美咲たちの姿を見て、互いの感情が爆発した。


「しょうがないわ……私、あなたとなら、少しだけいいわ」


由紀はそう呟くと、もう一人の由紀の唇に、短いキスをした。しかし、それは引き金だった。誰にも理解されなかった孤独とレズビアンとしての葛藤が、目の前の完全に同じ理解者との接触により、一気に溢れ出したのだ。


キスはすぐに熱を帯び、もう止められない激しさに変わった。二人の由紀は、マットの上に倒れ込み、制服の乱れも気にせず、互いの存在を確かめ合うように、深く、激しく愛し合い始めた。それは、自己受容の段階を超え、爆発的な共感と欲望の解放だった。


伊集院麗華と、もう一人の麗華は、マットの上で絡み合い続けていた。彼女たちのキスは、他の生徒たちよりも遥かに激しく、互いの唇を傷つけるほどだった。


そして、試験が10分を過ぎた頃、ついに二人の麗華は、ピクリとも動かなくなった。気絶した


佐藤美咲の画面は、最も複雑な光景を映していた。下着を脱ぎ捨て、裸の下半身で互いの肌をすり合わせながらキスをする二人。


もう一人の美咲が美咲の制服のブレザーのボタンを外し、その中に手を入れた。


「ん、、!」


美咲の喉から、甘く、息を詰めるような吐息が漏れる。もう一人の美咲の指先は、美咲の胸にある小さな突起を、優しく、しかし執拗にクリクリ……と弄り始めた。


(やだなー……先生見てるのに。でも、気持ちいい……私に触れられてるんだもん)


美咲の心の中では、羞恥心と自己への欲望が激しく衝突していた。彼女たちが無意識のうちに定めた**「禁止行為」、すなわち『絶頂(クライマックス)だけはしない』**というギリギリのルールが、かろうじて彼女たちの理性を繋ぎ止めていた。


「ん、んん……! だ、め、だよ……ま、まだ」


美咲は、もう一人の自分に抱きつきながら、その悦びに身を捩り、涙目で懇願する。その葛藤こそが、彼女たちの百合的な愛を、より一層濃厚な実技へと変えていた。


中野由紀は、もはや羞恥心も葛藤も失っていた。彼女の目には、目の前の自分自身しか映っていない。マットの上で、二人は激しいキスを続けている。


「ジュルジュル……ッ、ちゅ……」


キスは、水気の多い下品な音を立てていた。互いの舌が絡み合い、よだれが口元から零れ落ちる。それは、他者に理解されたいという切望が、自己への貪欲な欲望へと反転した結果だった。


由紀は、「私」という最も愛しい存在に陶酔しきり、互いの制服を脱がせ合いながら、ただただ自身を貪り食うようにキスを交わしていた。彼女にとって、この行為こそが、最も深く、最も満足のいくレズビアンとしてのコミュニケーションだった。


星野 蓮の画面では、荒々しく激しい接触が続いていた。もう一人の蓮は、蓮の華奢な体を無理やりねじ伏せ、まるで罰を与えるかのように荒々しいキスと行為を続けていた。


蓮の口からは、もはや意味をなさない喘ぎ声が漏れる。


「ひぅ、あっ……や、やだ、やめ、て……! ふ、ぅう」


それは、男の娘として築き上げた自己の偶像が、生身の男性の本能によって強引に崩されていく音だった。蓮の涙と喘ぎ声は、屈辱と身体が勝手に反応してしまう本能との間で、激しく揺れ動く彼の二重の苦しみを示していた。


もう一人の蓮は、蓮の腰に手を回し、下半身を強く押し付けて、エッチな動きを繰り返していた。衣服の上からの接触ではあったが、その強引さと熱量は、東野先生の想像を絶するものだった。


佐藤美咲の画面。二人の美咲は、互いの肌を重ね合わせたまま、熱狂的な交歓を始めていた。


「ちゅぷ……! は、はあ、ん……」


キスは、濡れた水音を絶え間なく響かせ、美咲の口からは甘い吐息が漏れ続けた。


彼女たちは、完全にシンクロした動作で、互いの身体の最も秘密な部分を丹念に探り合う。その緻密な手つきと、お互いの感覚を理解し合う動きは、まさに熟練の技術だった。


美咲は、もう一人の美咲の耳元で、甘く囁いた。


「ねぇ、私のこと、もっと。あなたが一番、私の好きなこと、知ってるでしょ?」


その言葉は、自分自身への強烈な要求だった。理性は崩壊し、美咲の全身は、自己を愛し、自己に愛される究極の悦びに身を焦がしていた。彼女たちは、絶頂という最後のルールを破らないよう、ギリギリの線を慎重に探りながら、互いの身体を貪り続けた。


星野 蓮は、マットの上で、もはや言葉を発することができなくなっていた。


「ひ……! ああ、っ、んん……」


彼の口から漏れるのは、連続した、途切れ途切れの、高い喘ぎ声だけだった。もう一人の蓮による強引で執拗な接触は、彼の肉体と精神の限界を完全に超えさせていた。


抵抗の意思は、身体の熱狂的な反応によって打ち消され、蓮は、男の自分自身による、強制的なコミュニケーションの嵐に、ただただ晒され続けていた。彼の全身は汗に濡れ、屈辱と快感が混ざり合った、極限の生理的反応を示していた。


中野由紀と、もう一人の由紀は、経験の浅さが故に、荒っぽい動きになっていた。


「痛いってば! ちょっと、優しくしなさいよ、私!」


由紀は、痛みに顔を歪ませて怒鳴り合いながらも、その目には熱狂的な光が宿っていた。レズビアンとしての愛を、完全に同一の理解者と共有する行為は、痛みさえも乗り越えるほどの興奮を生んでいた。


彼女たちは、初めての行為の拙さ、戸惑い、そして衝動的な欲求を、互いにぶつけ合い、手探りのままに、その熱狂的な愛の交歓に夢中になっていた。その全てが、由紀にとって、自己の性の目覚めだった。


佐藤美咲と、もう一人の美咲のマットの上の行為は、もはや芸術的なまでに洗練されていた。二人は、誰にも知られていなかった互いの快感のスイッチを完璧に熟知していた。


美咲はもう一人の美咲の裸の下半身に、もう一人の美咲は美咲の裸の下半身に、互いの指先を密やかに、そして正確に滑り込ませる。


その指先の動きは、極めて丁寧で熟練しており、互いの身体が発する微細な反応を逃さなかった。美咲は、その完璧なテクニックに、自己が最も満たされる感覚を覚えていた。


「んん!はぁ……私……ッ! すごい、私……!」


美咲は、言葉を完全に失い、自分の名前を呼びながら、自己愛と性的な快感による錯乱の吐息を漏らしていた。二人は、絶頂という最後のタブーを破る寸前で、互いの身体を強く抱きしめ合った。それは、同一の魂による、究極の共同作業だった。


中野由紀の画面では、痛みを伴う荒々しいキスが続いていた。


「ちゅ、じゅる……」という唾液の混ざり合う音が響く。二人は、互いの唾液を貪るように飲み込み、その口元からは、熱狂のあまり唾液が細く、銀色の糸を引いていた。


由紀は、まだ経験が浅いゆえに、興奮をコントロールできない。


「だ、だめ!そこ、痛いってば!」


由紀は、もう一人の由紀の強引な動きに本気で怒り、押し返した。しかし、その怒りさえも、愛する相手(=自分)への情熱へとすぐに転化する。


「……ッ、でも、いい……もっと!」


彼女は、痛みに耐えながらも、その熱狂的な愛の衝動に抗えず、互いの身体を求め合っていた。由紀にとって、この痛みと熱狂こそが、真のレズビアンとしての解放だった。


星野 蓮の画面。もう一人の蓮は、蓮の抵抗を無視し、荒々しく、そして容赦なく、蓮の身体を極限まで追い詰めていた。


蓮の口からは、既に言葉にならない高い喘ぎ声だけが、途切れることなく響いていた。


「ひぅ、ひぅぅぅ……あああっ……」


そして、その喘ぎが一瞬にして最高潮に達した瞬間、蓮の身体は全身を硬直させ、大きく痙攣した。


「あああああーーーーーッッ!!」


蓮は、理性を焼き尽くすほどの絶叫を上げ、マットの上で、試験の禁忌である絶頂を迎えてしまった。


「んん! 私いいいい! あは、あははは! 一緒好き好き可愛い可愛い! ずっと、ずっと一緒にいてね……!!」


蓮は、男の娘としての自己愛と男性の本能、そして同一人物への執着が混ざり合い、完全に精神が壊れていた。もう一人の蓮は、絶頂の後で放心状態にある蓮の身体を、冷めた目で見つめながらも、動きを止めることはなかった。


美咲と、もう一人の美咲は、1時間もの間、互いの身体の最も深遠な悦びを探り合い続けていた。彼女たちの間には、絶頂という最後のタブーがあった。それを破らずに、どこまで自己の欲望を満たせるかという、狂気じみたゲームを続けていたのだ。


しかし、熟練した「自分自身」による完璧なテクニックの応酬は、限界を超えていた。


「ん、んんん……! ああ、もう……」


美咲の喘ぎ声は、歓喜と苦悶が混ざり合った高い悲鳴へと変わっていった。顔は汗と涙でぐしゃぐしゃになり、もう一人の美咲の肩を、爪が食い込むほど強く掴んでいた。


もう一人の美咲は、優しく囁いた。


「大丈夫よ、私。もう、我慢しなくていい。全てを、受け入れて」


その言葉は、許可だった。美咲を縛っていた最後の理性の鎖が、音を立てて弾け飛んだ。


「ああああーーーーーーッッッ!!!」


美咲は、全身を強く弓なりに反らせ、長きにわたる熱狂の果てに、ついに絶頂を迎えた。彼女の身体は、痙攣の後、マットの上に無力に崩れ落ちた。


美咲の絶叫は、中野由紀の熱狂をさらに加速させた。由紀は、美咲が最後の壁を打ち破ったことに呼応するように、もう一人の由紀にさらに激しくしがみついた。


「私も、私も私が欲しい! 早く! もっと!」


由紀たちは、痛い、嫌だという言葉を吐きながらも、止まることなく、その拙い愛の交歓を続けていた。彼女たちの間では、痛みと快感が一体となり、自己受容の儀式が延々と繰り返されていた。


多目的室に残された最後のペア、中野由紀組も、既に限界に達していた。


由紀と、もう一人の由紀は、拙くも衝動的な愛の交歓を続けていた。


由紀は、もう一人の自分の指先の動きに、痛みに顔を歪ませながら叫んだ。


「痛いってば!もう、下手よ!私! 指なんかじゃなくて、舌がいいの!でも、舐めるのもくすぐったいのよ!」


自己への不満と、抑えきれない快感が混ざり合う。由紀は、自分の求める快感の形を、自分自身相手にさえ、正確に伝えられないことに苛立っていた。


しかし、その混乱と興奮の末、由紀の身体はついに限界を迎える。


「あ、ああああ……ッ! もう、イッちゃう……!!」


由紀は、痛みと快感の嵐の中で絶叫し、全身を硬直させて絶頂に達した。それは、レズビアンとしての自己が、不器用ながらも解放された瞬間だった。


由紀の絶叫が静寂に変わった瞬間、多目的室の監視カメラから、機械的なアナウンスが響き渡った。


「以上で、本日予定されていた**『対人コミュニケーション実技』**を終了します」


モニターに映し出された四組の生徒たちは、全員が絶頂または気絶、あるいは錯乱により「失格」という結果に終わった。


しかし、アナウンスはまだ終わらなかった。


「皆さんの自己との対話は、予想以上の深い深度に達しました。採点の結果、皆さんは**『最も深いコミュニケーションの相手』**として、これから先も、もう一人の自分自身と過ごすことが、最高の幸福であると判断されました」


その言葉に続き、戦慄すべき一言が付け加えられた。


「美咲さん、蓮さん、由紀さん、伊集院さん、これからも、もう一人の自分と、最高の幸福な時間を過ごしてくださいね!」


「え……?」


美咲の絶頂は、自分自身との永遠の愛が許されたのだという、甘い誤解を生んだ。隣にいるもう一人の自分を見つめ、美咲の顔に恍惚とした、しかしどこか歪んだ幸福の笑みが浮かんだ。


彼は、絶頂と錯乱の後も、もう一人の自分(男)に抱きついたまま、**「好き好きいいい! 可愛い可愛い!」**と、自己愛と狂気が混ざり合った言葉を、壊れたまま繰り返していた。


「はぁ……なんであんたなんかと! ずっと一緒になんて、冗談じゃないわよ……」と、口では強い拒絶の言葉を吐いた。しかし、その手は、いつの間にかもう一人の由紀の指を、強く握りしめていた。由紀の心の中は、自己を肯定してくれる唯一の存在を失うことへの、密かな恐怖と、抗えない喜びで満たされていた。


美咲の自室は、二人だけの甘美な密室となった。


夜、自室の扉を閉めた瞬間、二人の美咲は制服を脱ぎ捨て、パジャマに着替える。美咲がベッドに横になると、もう一人の美咲も隣に潜り込んできた。


「ねぇ、今日は先生に、実技の後も私たちがキスしてること、バレてないかなって、ずっと心配してたんだよ」


美咲が囁くと、もう一人の美咲は美咲の耳たぶにそっと唇を寄せた。


「大丈夫よ。私たち、鏡みたいに同じでしょ? 他の人は、私たちが二人でいるのか、一人でいるのか、区別できないんだから」


そして、美咲の不安を打ち消すかのように、二人の唇は再び重なり合う。彼女たちは、誰にも邪魔されない夜の密室で、試験中に学んだ究極のテクニックを惜しみなく使い、互いの身体を抱きしめ、舐め合い、愛し合った。


星野 蓮にとって、家は逃げ場のない監獄と化した。特に、家族の目がない浴室は、もう一人の蓮による支配の場となった。


入浴中、蓮が髪を洗っていると、後ろからもう一人の蓮が抱きついてくる。


「っ……や、やめて! お父さんがいるかも、しれないでしょ!」


「そうだけど、今更無理だよ………!」


もう一人の蓮は、蓮が男の娘として徹底的に隠してきた、男の身体に容赦なく触れてくる。蓮は、男の自分との触れ合いに生理的な嫌悪を感じる一方で、絶頂の快感を強引に教え込まれたことで、身体が逆らえない反応を示すようになっていた。


「でもやっぱ僕は可愛い、、、」


蓮は、鏡に映る男の自分に屈服し、利用されるという、二重の屈辱の中で夜を過ごしていた。


中野由紀の夜は、昼間の拒絶を埋め合わせる時間だった。


由紀は、夜中に目が覚めるたびに、隣で眠るもう一人の由紀の温もりを求めた。


由紀は、そっともう一人の由紀の肩に顔を埋め、囁く。


「ねぇ……ごめん。学校だと、つい怒鳴っちゃうけど……本当は、あなたがいてくれて、安心してる」


もう一人の由紀は、何も言わずに由紀の頭を撫でる。その無言の肯定が、由紀にとっては何よりも大切だった。


そして、彼女たちは不器用ながらも、互いの身体を探り合う。昼間の喧嘩とは裏腹に、夜の由紀たちは、最も優しく、最も深く、互いを肯定し合う愛を交わしていた。


レズビアンとしての自分を、完全に受け入れてくれる存在が、すぐ隣のベッドにいる。由紀は、孤独から解放された幸福を噛み締めていた。

おしまい、、、

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