萌え豚信長

村上空気

萌え豚信長

 織田信長は萌え豚だった。

 ぶひぃ。


 できる男は変化をおそれない。旧来の権威を打破し、新しい価値を躊躇なく取り入れるものだ。

 まさに信長がそうだった。

 彼は推し変をおそれない。


「信長さま、その侍女はいかがされたのですか? 髪がピンク色ではないし……その眼帯は一体?」


「くっくっく。サルよ、いつまでもツンデレでもあるまい」


「!?」


「時代は動いておるのだぞ。これは厨二病コスじゃ!」



 ツンデレもヤンデレも百合も、そして厨二病も――誰よりも強く庇護したのが信長だった。


 加えて、布教活動にも熱心だった。


 翌週には「厨二にあらずんば人にあらず」が織田家の合言葉となった。人びとは競ってゴスロリ・ファッションで着飾った。


「これは佐久間どの。眼帯がよくお似合いだ」


「柴田どのこそ、ほぉ、腰にぶら下げているのは本物の頭蓋骨ですな? じつにワイルド!」


 そこに現れたのが信長。

 彼は両肩に頭蓋骨を乗せていた。右から頭蓋骨、信長の頭、頭蓋骨、である。

 もはや厨二病なのか首狩族なのかわからない。


「おお! なんと斬新な!」


 すると信長は、


「ふっふっふ……。今日からわしを第六天魔王と呼ぶがいい!」


 信長のもとに滞在していたルイス・フロイスが


「悪魔の所業だ!」


 と叫んで母国へ逃げ帰ったのはこの頃である。



 とにもかくにも、信長は萌えの庇護者だった。

 だから、超弩級のツンデレ信者・光秀が「推し変、許すまじ!」と信長を討った時、全国百万の萌え豚は泣いた。ぶひぃ。


 「ツンデレ愛好家を滅せよ!」と血気はやる者もいた。

 だがよく考えろ。信長さまがそんなことを望むと思うか?


 萌え豚たちは信長の冥福を祈った。

 南無阿弥萌仏。

 南無阿弥萌仏。

 そして萌市萌座で栄えた城下町で、萌えグッズを買い漁ったのだった。


 ――信長死すとも萌えは死なず、である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

萌え豚信長 村上空気 @murakami-kuuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画