最終話

 食料品や水が入ったペットボトルを詰めこんだかごを乱暴に置き、貴金属のネックレスや高級腕時計などをレジの上に叩きつけた。


「今までのつけだ、取っとけ」

 

 制服を着た人影がレジのトレーに置かれた物品を見下ろし、渦巻く口で言った。

「あぁるぁしっぁあ」

 

 よし、受け取った。このやり取りが、どう改竄されるのかはわからない。なかったことにされるのか、何らかの形で売上に計上されるのかもしれない。

 どちらにせよ自己満足に過ぎず、しかも親不孝だ。母や父が身に着けていた品々を家からかき集めてきたのだから。

 

 ごめんなさい。今から世界を救いに行くから、どうか不肖ふしょうの娘を許してください。

 

 変わり果てた両親に別れを告げた。長旅に役立ちそうな荷物を集めて、小学生の頃から使っていたリュックサックに詰めこんだ。未だに自分の体格に合うのが、少々虚しかった。

 どういう環境であれ、無事で済むなら後は現地調達になるだろう。テレビや新聞だけではうかがい知れない。どれほどの人外魔境になっているのか、見当もつかなかった。

 

 一ヶ月のあいだ、悩み通した。自分にできることはないのか、必死に考えた。結局、当たって砕けるしかないと結論づけた。

 

 だから今、旅支度をして駅へと向かっている。

 

 いつまで聴けるかわからないから、できる限りiPodを充電してきた。自らを鼓舞こぶするため、宇多田ヒカルの「蹴っ飛ばせ!」を大音量で流した。少しでも勇気が欲しかった。

 音漏れしているであろうイヤホンを耳に嵌めて、古ぼけた駅舎の前に立った。相変わらず活気がなく、得体の知れない世界への入り口に思えた。

 心が竦みそうになる。

 

 もしかしたら外の世界では私の体質が通じず、簡単にあれらの餌食になってしまうかもしれない。大体、世界規模で侵略されている現状を、ただの不良少女がどう打開するというのか。頭を振って、弱気を振り払った。

 

 自分に何かできるとも思えない。ただ、変えられるのもおそらく私だけだ。


「行ってきます。お父さん、お母さん」

 最後に呟く。


「――栞」

 

 意を決して、駅舎へと足を踏み入れた。

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電車の呼び声 二ノ前はじめ@ninomaehajime @ninomaehajime

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