第一回放送:古典部シリーズ

「さて、記念すべき第一回。最初に紹介する作品は角川文庫より『古典部シリーズ』です。ずいぶん前ですが『氷菓』というタイトルでアニメ化もしているので知っている人も多いかもしれませんね」

「あ、私知ってますよ。『えるたそ〜』でしょ?」

「そうですね。『えるたそ』こと『千反田える』は本作、『古典部シリーズ』のメインヒロインです」

「『わたし、気になります』!」

「実はこの作品、元は第五回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞受賞作で、角川スニーカー文庫から刊行された米澤穂信のデビュー作となっています」

「え、スニーカー文庫なんですか? あのラノベの?」

「はい。と言っても扉絵も挿絵もありませんでしたし、後輩さんが想像するようなラノベとは少し違うかもしれませんけどね」

「へー」

「他にラノベレーベルから一般文芸レーベルに移った作品としては、例えば有川浩の『自衛隊三部作』の第一作『塩の街』なんかが有名かもしれません。あの作品も元は電撃文庫出身です」

「ああ、あの作品もなんですね」

「話を戻しますが、米澤穂信は少し前に『黒牢城』で第166回直木三十五賞を受賞したことでも話題になりましたね」

「直木三十五賞? 直木賞じゃなくて?」

「直木賞の正式名称が直木三十五賞っていうんですよ」

「へー。なんで三十五なんだろ」

「それは故、直木三十五が誕生日ごとにペンネームを変えていたことで有名な作家で、……ってそんなことはいいんですよ!」

「あはは」

「たびたび脱線していますが『古典部シリーズ』。先ほど後輩さんも言っていましたが、『えるたそ』こと『千反田える』の台詞『わたし、気になります』でも非常に有名ですよね」

「オタク心を鷲掴みですね! 私もあの大きなきらきら〜って瞳で言われてみたい!」

「あはは。僕も言われてみたいですね」

「言ってあげましょうか?」

「え?」

「え?」

「……こほん、それでですね」

「あー! 誤魔化した!」

「いやいや。誤魔化してないですから。それで『古典部シリーズ』ですが、ジャンルはミステリ。ところで後輩さん、『ミステリ』と聞くとどんなイメージを持っていますか?」

「えーっと、謎解き! 密室で殺人事件が起こって名探偵がカッコよく解き明かすーみたいな感じ」

「満点の回答ありがとうございます。ところでこの『古典部シリーズ』ですが大きな特徴がありまして、なんと『人の死なないミステリ』なんです」

「え、でも死なないとつまんなくないですか? 絵面が地味というか。私、サメ映画とか好きなんですよね。やっぱりフィクションなんだからド派手にスプラッタとか」

「こほん、後輩さん、やめておきましょう。今は昼休み。食事中ですよ」

「あ……」

「とまあ、『人の死なないミステリ』な『古典部シリーズ』ですが、決してつまらなくありません。むしろ非常に面白いです。角川スニーカー文庫版『氷菓』の初版発行は平成十三年。実に二十年以上前ですが、古くさくもありません。例えば主人公の『折木奉太郎』は『やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に』という省エネ主義を標榜しています。コスパタイパ重視の現代的な考え方にどこか通じるところがありますね」

「時代を先取りしている感じがありますね」

「ええ。優れた文学作品には普遍性があるということでしょう」

「あ、なんか賢ぶろうとしてる」

「あのね、後輩さん。一応僕、先輩なんですよ?」

「えへ」

「この『古典部シリーズ』は派手な場面こそ少ないものの、謎解きの見事さはもちろん、その謎の真相を知ることで、綺麗ごとだけでは済まされない青春のほろ苦さを体験する青春小説的な面白さもあります。『青春ミステリ』と呼ばれているジャンルの火付け役なんですね」

「へー。『氷菓』が登場する前はこういうジャンルってあんまりなかったんですか?」

「そんなことはないですよ? 日常の謎という意味では、例えば北村薫の『空飛ぶ馬』に代表される『円紫さんと私』シリーズなんかが有名ですね。とは言っても、僕はこのシリーズを読んだことがないので語れないんですけど。しかしこの『古典部シリーズ』で『青春ミステリ』が一般層にまで広まったのは間違いないでしょう」

「なるほどなるほど〜」

「それでこの『古典部シリーズ』の主人公『折木奉太郎』は省エネ主義。本来、名探偵って柄じゃないんですよ」

「あ、そういえばそうですね。探偵って嬉々として事件を解きがちなサイコパスイメージがあるのに意外かもです」

「ちょっと言い過ぎな気はしますが、そうですよね。ではなぜこの『折木奉太郎』が事件を解く羽目になるのか。ここで鍵となるのが先ほど後輩さんが言っていた『千反田える』の台詞」

「『わたし、気になります』!」

「そう。『千反田える』は気になったことを解決させずにいられない好奇心の塊。むしろ固辞する方が現代的に言えば『コスパが悪い』と判断し、重い腰を上げるんですね。二人が所属する『古典部』の部誌の名前が『氷菓』なのですが、このネーミングの謎を解くのが『古典部シリーズ』第一作『氷菓』のメインストーリーとなります」

「誰かさんと違って美少女に頼まれたから鼻の下を伸ばしてほいほい従うってわけじゃないんですね」

「誰かさんとは? まさか僕のことじゃないですよね? ……まあ、いいでしょう。ですがそれだけだと一緒に居続ける理由にはなりませんよね。徐々に変化していく二人の関係性もこのシリーズの一つの焦点でしょう。他にも『折木奉太郎』の友人、自称『データベース』の『福部里志』と彼に想いを寄せる少女『伊原摩耶花』の二人の関係性もなかなか面白いですね」

「ちなみに先輩は私になにか主義に反する面倒くさいことをお願いされたらどうします?」

「えっと……そうですね、内容にもよりますが、とりあえず検討して、できる範囲でやろうとしてみるのではないでしょうか」

「なんでですか?」

「なんでって言われても……」

「だって面倒くさいことなんですよ? わざわざ聞いてあげる理由なんてなくないですか?」

「それはその……というわけで、話を戻しますが」

「あ! また誤魔化した!」

「『古典部シリーズ』は謎解きはもちろんのこと、青春小説が好きな方にもオススメの作品となっています。書店で入手してもいいですし、当校の図書室でも借りられますので、ぜひ読んでみてください」

「は〜い。あ、文芸部員は新入部員を募集中でーすっ。入部を迷ってる方、それと『古典部シリーズ』について語らいたい方も、この『むっつりメガネ』こと先輩がお相手しますので、ぜひ気軽に遊びにきてくださいね!」

「なんですか? その『むっつりメガネって』」

「ぴったりじゃないですか?」

「……後輩さん、このあと時間ありますか? 一度じっくり話し合う必要があるみたいだ」

「きゃー♡」

「それでは文芸部ラジオ(仮)の第一回放送はここまでです。ご視聴ありがとうございました」

「あ、普通のお便り――ふつおたや、今日の放送の感想、それとこんなコーナーやってほしい、などのご意見やご希望も募集しています! 文芸部宛にメールで送ってくださいね」

「それではまた次回放送でお会いしましょう。さようなら」

「さようなら〜」



 ◆◇◆◇◆あとがきとご挨拶◇◆◇◆◇


 というわけで勢いではじめてみました。

 月に何度か更新できればいいなーって感じのゆるい連載のつもりです。

 よろしければブクマにいれて見守ってやってください。


 あ、後輩も言ってましたが、ふつおたや感想、コーナーなんかも随時募集中です。めっちゃ見切り発車で何も考えてないんです。マジです。

 ここのコメント欄にでもお気軽に書き込んでくださいね!


 何もなければ読んで面白かった本なんかを紹介していく感じになると思います。


 これから『文芸部ラジオ(仮)』をよろしくお願いします!

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文芸部ラジオ(仮) 金石みずき @mizuki_kanaiwa

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