文芸部ラジオ(仮)

金石みずき

プロローグ

「廃部?」

「ああ。知っての通り、当校ではこの夏で三年生は部活を引退する。そして放送部員――いや、正確には放送同好会員は三年生が一人だけ。事実上の廃部だ」

「はぁ。それはわかりますけど、なぜそれを僕に?」

「放送同好会が廃部になるとどうなる?」

「『どうなる?』って言われても……そうですね、放送する人がいなくなりますかね」

「そうだな。困るよな?」

「そうですかね?」

「お昼休みに音楽一つ鳴らないのは寂しくないか?」

「あれ、みんな聞いてるんですか?」

「それに連絡事項とかを俺たちが流しに行かなきゃならないだろ」

「そっちが本音ですよね」

「職員室から放送室は遠いんだよ。それに教師に休み時間なんて概念はないんだよ。食事くらい静かに摂らせてくれてもいいだろ」

「いや、知りませんけど。大変ですね、としか」

「それでな。放送同好会の代わりを、お前たち文芸部に頼みたいんだ」

「はぁ!? なんで僕らが!?」

「文芸部室は放送室の隣だ。近いだろ」

「そんなのなんの関係も」

「引き受けてくれるなら放送同好会の予算の一部を図書購入費にあててもいい。文芸部を贔屓しているように見せるわけにはいかんから物自体は図書室に置くことになるが、選書は任せる。どうだ?」

「確かに魅力的な話ではありますね」

「それに今の文芸部はお前と一年の二人だけだろう。遠からず同好会に格下げされるぞ。そうなれば予算は確実に減らされる。悪くない条件だと思うが」

「……引き受けましょう」



「あ、先輩。おかえりなさーい。もー、またくたびれましたよ。それで呼び出しってなんだったんですか?」

「廃部になる放送同好会の代わりに放送を任されることになった。昼休みとかにやってるやつ」

「はぁ!? なんで私たちが!?」

「仕方ないだろ。予算を人質にとられちゃったら」

「予算?」

「ああ。ざっくり言えば、図書室に入れる本の選書を一部任せてくれる代わりに引き受けろってさ。おまけに近々人数不足で同好会に格下げされて予算が減るっていう脅しつきだ」

「あー、やだやだ。汚い大人の世界って感じ」

「ただ、このまま思い通りに操られるのも面白くないよな」

「へぇ? 先輩、なにかするつもりですか?」

「まあせっかくの機会だからな――ラジオをやろう」

「…………ラジオ?」



「今日からお昼休みに不定期に放送室をお借りしてお送りします、文芸部ラジオ(仮)かっこかりです。パーソナリティを務めます、『先輩』です。よろしくお願いします」

「『後輩』です。よろしくお願いしまーす」

「お上の都合で僕ら文芸部が放送をやらされることになったのですが、ただ言いなりになるのも面白くない。せっかくだからこの機会を利用してやりたい。というわけで、文芸部の活動をアピールしつつ、ついでに部員獲得を狙うつもりでラジオを始めてみようということになりました」

「わー。パチパチ」

「目標は年度末までに一人でも新規入部ということで」

「頑張りましょう! でも先輩、ラジオって言っても一体何を話すんですか? 私たち、別に面白い話とかできないですけど」

「そうですね。いろいろ考えてはみたんですが、まずは文芸部のラジオということで、本の紹介をメインに発信してみようと思います」

「メインってことは他にもやるんですね」

「そこは思いついたらってところでしょうか。とりあえず見切り発車でやってみようかと」

「さすが先輩。手が早いですね」

「後輩さん、語弊のある言い方はやめてくださいね。えー、うちの学校では毎日、朝読書の時間があるじゃないですか」

「ありますね〜」

「多分僕が読書を趣味にしていると知られているからだと思うんですが、ときどき何を読んだらいいかとオススメを訊きに来る人がいるんですよね。だから需要はあるんじゃないかと思いまして」

「確かに本って読んでみないとどんな話かわからないですからね。ちなみに訊きにくるのって男子ですか? 女子ですか?」

「え、その話なにか関係あります?」

「……ないですけど!」

「ですので、まずは読みやすい本を中心に紹介しつつ、反応を見てまた考えようかと思っています。最初は僕が担当しますが、後輩さんも紹介したい本があればぜひ教えてくださいね」

「は〜い」

「それでは早速ですが第一回放送、始めてみましょう」

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