第7話 旅立ち
バルコニーから見下ろすと、街の全景が広がっていた。パレードの準備で賑わう中央広場。その噴水の前には、王様と勇者一行の姿がある。
真面目そうな黒髪の男、筋肉自慢っぽい大男、黒縁眼鏡のインテリ風、三つ編みのお淑やかな少女。見た感じ、全員日本人だ。
俺と同じように異世界に来たのに、あっちは歓迎され、こっちは実験台扱いで捨てられた。
無性に腹が立つ。
くそったれ、と心の中で毒づくと、アリアがニヤリと頷いた。
「準備は万端! ショーの開幕よ!」
勝手についてきたオルカナには、宝物庫からかっぱらった鎧や斧を持たせた。妙に似合っているあたり、さすがは騎士だ。
「つーか、王国の騎士が国王の邪魔していいのかよ」
一応聞くと、オルカナはあっさり答える。
「問題ない。ショータ様と出会った以上、奴との関係は終了だ」
後半、呼び方がひどくなってるぞ。
オルカナいわく、宝物庫の武具は本来勇者たちに授ける予定だったらしい。それを俺たちが先にかっぱらったのだ。
ざまぁみろってんだ。
アリアに杖を渡し、俺は十字架をアクセサリー代わりに首にかける。
アリアが杖を掲げると、俺たち三人の姿が街の中央に大きく映し出された。
ざわめく群衆。驚く勇者たち。青筋を浮かべて怒り狂う王様。
インテリ勇者が魔法で映像を消そうとしたが、すかさず『能力の効果を無効化しますか?』のアナウンス。もちろん無効だ。
「どうして、僕の力が……!?」
インテリ勇者が顔を真っ青にする。
王様は震えながら睨みつけてきた。
「貴様ら……ただで済むと思うなよ」
その言葉に、俺もアリアも笑いを堪えきれなかった。
「ざまぁないわね! 今まで私をこき使ったくせに、後悔するといいわ!」
続けざまに街中に響き渡る。
「あんたにイラついて、私腹肥やしたのは謝るけど……全部あんたのせいよ!」
街の空気が変わった。人々の視線が王様へと向く。
「こ、これには訳が……!」
必死に言い訳を始めた王様を、オルカナがピシャリと遮った。
「私も貴様に仕えるつもりはない。強き殿方も見つけたしな!」
群衆からどよめきが起こる。オルカナを慕う声も上がった。
俺は最後に、王様と勇者たちを見下ろして、盛大にバカにしてやる。
中指を立て、バカにした笑顔で。
「城の宝はもらった! 勇者様たちより先に魔王を倒してやる。じゃあな、ばーか!」
俺の声が街中にこだました。
★
街の外へ、アリアの魔法で脱出した俺たちは、笑いながら城のそばの草原を歩いている。
「もう最高ね! 王様のあの顔ったら!」
「へへっ、いい気味だぜ!」
笑い合いながらも、心の中は引き締まっていた。
今までのは、ほんの序章。
これからが本番だ。
魔王を倒して、日本に帰るために。
仲間は、最強の魔法使いと、龍神族の王国最強の女騎士がいる。
オルカナがにこにこと俺を見ている。
……まぁ、なんとかなるだろう。
いや、なんとかしてみせる。
俺は空に拳を突き上げた。
あの日、城から捨てられた俺はもういない。
王様への仕返しは済んだ。ここから先は、俺が選んだ旅だ——
異世界に召喚されたけど、勇者を召喚するための実験だって!? 〜追放された少年は元の世界に戻るために魔王を倒す旅に出る〜 赤松 勇輝 @akamatsuyuki
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