第6話 王国最強の女騎士

「……なんでこの女が私の方に来るのよ!」


 アリアの叫びが聞こえる。


 元気そうな声にホッとしつつ、王座の間へ飛び込む。


 そこでは、アリアと白い鎧を纏った金髪碧眼の女騎士が剣戟を交わしていた。おそらく、こいつがオルカナだ。


 アリアはバリアを張り必死に防御しているが、オルカナは涼しい顔で剣を振るっている。


「強者の気配を感じて来てみれば……なんと、先日追放されたアリアではないか。盗みに入るとは、落ちたものだな」

「うるさい! 私が作った物を取り返しに来ただけよ!」


 オルカナの一撃でアリアのバリアが砕け、アリアは尻餅をつく。


 ツカツカと近づくオルカナ。


 このままだとマズい。


 だが、俺の『無効化』は俺自身を通じてしか使えない。攻撃手段がない——いや、剣がある。


 宝物庫で手に入れた銀色の剣。抜き放つと、剣が発光し電撃を放ち始めた。


「うわっ、なんだコレ!?」

『剣の効力を無効化しますか?』


 アナウンスが響いたが、今はそのままでいい。


「ショータ! 剣を振って!」


 アリアに叫ばれ、反射的に剣を振る。


 電撃がオルカナに飛ぶ——


「むっ」


 ——だが、オルカナは一閃、電撃を斬り払った。


 しかし、意識はこちらに向いた。


 オルカナと目が合うと『視線を無効化しますか』というアナウンスが聞こえる。先ほどから感じていた気配は、オルカナの視線だったのか。


 オルカナを睨みつけると、なぜか頬を染め、もじもじと俺を見つめ返してくる。


「よ、よもや……あなたのような殿方が賊とは! だが、強者の気配……! 一戦交えてくれないか」

「はっ!? ……って、いきなりかよ!」


 すぐさま飛びかかってくるオルカナ。


 だが、俺の無効化の力は物理的な力にも作用する。剣による攻撃をすべて無効化すれば、俺に一撃も通らない。


 やがて疲れたのか、オルカナは膝をつき、両頬を手で押さえながら身悶えた。


 やばい。ものすごく面倒くさい予感がする。



「もう! 死ぬかと思ったじゃない!」


 アリアに叩かれながらも、俺は宝物庫で手に入れた剣を見せる。


「こっちは首尾よくやったぜ。お前は?」


 アリアも、水晶玉を掲げた。


「私だって。ほら、これが召喚魔法に必要な魔道具よ!」


 これで必要なものは揃った。後は宣戦布告して旅立つだけだ。


「待ってくれないか!」


 後ろからオルカナの声。振り返ると、目を潤ませ、もじもじした様子のオルカナ。


「名前を教えてほしい」


 ……まあ、名前くらいはいいだろう。


「南翔太だ。じゃあな!」

「はうっ!」


 変な声を上げて崩れ落ちるオルカナを無視し、アリアと駆け出す。


 だが、オルカナは並走してきた。


「旦那様!」

「はぁ!?」


 突然の呼びかけに絶句する俺。


「私は龍神族の末裔。強き殿方と結ばれるため、王国最強の騎士を目指した。そして、あなたに出会ったのだ!」


 説明を求める俺に、アリアは肩をすくめる。


「龍と人間のハーフ、ってとこかしらね」


 実演とばかりに、オルカナは口から炎を吐いた。


「信じた! 信じたから、笑顔で火を吹かないでくれ!」

「先日召喚された勇者たちには失望したが……ショータ様には、底知れぬ強さを感じる!」


 興奮気味に語るオルカナに、俺は必死に否定する。


「俺は強くない! 戦うつもりもない! これから王様に仕返しして、日本に帰るんだ!」


 しかしオルカナはにっこり微笑んだ。


「では、私も同行しよう」

「なんでそうなるんだよ!」


 アリアは笑いを堪えながら俺の肩を叩く。


「王国最強の女騎士が味方についてくれるなら、楽できるかもね」

「他人事みたいに言うな!」


 旅立つ前から、俺の頭痛は止まらなかった。

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