第5話 城への潜入

 翌朝。勇者たちの旅立ちパレード当日。まだ早朝だというのに、城下町は賑やかだ。


 だが、それ以上に俺の気持ちは落ち着かない。何せ、今日限りでこの街を離れるのだから。


 条件はひとつ。魔王の強大な魔力を手に入れること。


 三ヶ月間、身寄りのない俺を支えてくれたアトラと別れるのは、正直つらい。


 アトラは泣きながら俺を抱きしめた。腕の力が強すぎて、体がミシミシ鳴るほどだったけど。


「……が、頑張ってくるよ」


 必死に笑って答えると、アトラはじっと見つめてくる。


「でも、素敵な目になったわね。出会った頃は荒んだ目をしていたのに。今は……生き生きしているわ!」


 日本に帰る希望が見えた。もう一度、未来を取り戻せるかもしれないという期待。


 アトラは俺の額をツンとつつき、優しく言った。


「危険な旅になると思うけど、ショーちゃんなら大丈夫。気をつけて、いってらっしゃい!」

「……行ってきます」


 久しぶりに口にする『行ってきます』に、胸が熱くなる。


「ちょっと、いつまで待たせるつもり?」


 アリアの不機嫌そうな声に振り返る。


「うるさいなぁ、恩人との別れなんだ。感傷に浸らせろよ」

「私たちにそんな余裕ないのよ! あの男に報復して、勇者どもに宣戦布告して、それから城の宝も盗まなきゃいけないんだから!」


 ……言い方はアレだが、間違ってはいない。


 作戦はこうだ。


 アリアが王座の間から魔道具を盗み出す。その隙に俺が宝物庫から宝を奪う。合流した後、城のバルコニーからパレード中の王様と勇者たちに宣戦布告して旅立つ。


「ただ、くれぐれも王国最強の騎士オルカナだけは気をつけて。多分、勇者よりも厄介だから」


 王国最強の騎士オルカナ。そんなやつに勝てる見込みはないから、遭遇したら速攻逃げるつもりだ。


「……よし行こう!」


 二人で頷き合い、城へ向かって歩き出した。



 城に潜入した俺たちは、すぐ二手に分かれて行動した。


 俺は宝物庫、アリアは王座の間。合流地点はバルコニーだ。


 外ではパレードの喧騒が響いているが、城内には兵士たちが警戒している。


 アリアの『隠密』魔法のおかげで見つかってはいないが、しきりに『視線を無効化しますか?』というアナウンスが聞こえるので、無効化しながら進んでいく。


 やがて、目当ての宝物庫を見つけた。赤く重厚な大扉、その前に立つ二人の兵士にアリアから渡された睡眠薬を嗅がせて眠らせる。


 扉に手をかざすと、頭の中にアナウンスが響いた。


『施錠を無効化しますか?』

「無効だ」


 鍵の外れる音がして、俺は扉を押し開けた。


「……すげえ」


 金色の装飾が施された宝箱。鎧や剣の数々。その中でも、青い鞘に納められた銀色の剣に目を奪われる。


 手に取ると、妙にしっくり馴染んだ。


「……よし、こいつは俺のだな」


 他の宝も片っ端から開ける。盾や杖、金色の十字架など、使い道は分からないが、全部アリアにもらった魔法の袋に突っ込んだ。


 後はアリアの待つバルコニーに向かうだけ――そう思った矢先、悲鳴が聞こえた。


 アリアの声で。


「くそッ!」


 考えるより先に、体が走り出していた。

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