銀の足跡

しとえ

銀の足跡

 外に出てみれば一面、銀世界だった。

霜で真っ白になっていて、バラの花びらだって凍てついて白く輝いていた。

玄関から一歩庭に出ればサクッと音がした。

見れば足元に霜柱が伸びている。

歩くたびにサクサクと良い音がする。


 子供の頃を思い出していた。

幼稚園に行く時、霜柱が伸びているのが不思議で歩くたびにサクッと音がしてたまらなく嬉しかった。

霜柱は透明で美しくて踏んでしまうのがもったいないけれど、踏んだ時の音の良さや足に伝わる心地よさに心はウキウキとしていた。

「ダンスが上手ね」

たまに母の代わりに幼稚園まで送ってくれる大好きな叔母さんがそう言ってくれるのがとても嬉しかった。

叔母はバレエを習っていた。

それはあくまで趣味でプロというわけではなかったが私にとっては憧れの存在だったのだ。

憧れの叔母みたいにかっこよく綺麗にダンスしたい。

そう思った私は小学校の高学年の時、母にお願いして一時だけ ダンス教室に通ったことがある。最も中学に上がると同時にやめてしまったのだが。クラブ活動や勉強などやらなくてはならない事がたくさんできてしまったから。

 そういえば叔母のバレエの発表会は何回か行ったことがある。白い綺麗なチュチュを身にまとい踊るその姿は霜の精霊のようだった。

その印象が霜柱と重なる。

儚くて美しくて すぐに消えてしまうそんな存在。


…だが実際はどうだろう。

翌朝になればまた霜柱ができているのだ。

どんなに踏んでも翌朝にはまた同じところにできている。

それが子供心に不思議でたまらなく嬉しかった。


 私は後ろを振り返って自分の足跡のところを見た。

潰れてしまった霜柱、そして踏んでないところの綺麗な霜柱が見える。踏まれても踏まれても 明日にはまた生えてくる霜柱。

自然の造形というものは不思議だ。

何度でも何度でも再生していく。


 叔母はどうしているだろう?

あの人は自分の好きなように生きたいように生きている。

霜柱のように潰れても潰れても再生してその美しい姿を見せてくれるのだ。

もう少し 日が昇れば霜柱は完全に溶けて消えてしまうだろう。私のこの足跡も。だが翌日にはまた美しい 霜柱ができているのだ。


それは何度でも再生する強さのように思えた。

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