舞衣の赤い糸

青川メノウ

第1話 舞衣の赤い糸

舞衣まいは17歳の女子高生だ。

しつこい風邪がやっと治って登校した日、後遺症なのか、薬の副作用なのか、突然運命の赤い糸が見えるようになっていた。

糸はクラスメイトそれぞれの足首から、どこか先へと伸びている。

当然自分の足首からも同様に糸が出ている。

「誰と繋がっているんだろう?」

気になってしょうがない。

時々繋がり合っている二人を目にすることがある。

例えば家ではお父さんとお母さん。

よく喧嘩してるのに、やっぱり運命の二人なのだ。

そして、学校では実に腹立たしいことだが、片思いの健斗けんとと、仲良しの夏美なつみの糸が繋がっているのだ。

「ほんと悔しい! 夏美のやつ健斗が好きだなんて、おくびにも出さないのに」

まあ、今好きかどうかわからないけど、いつか結ばれる運命の人なのだ。

そこそこ意識くらいしているだろう。

「なのに馬鹿な私。夏美に恋の悩みを聞いてもらってた。滑稽こっけいだわ」

悔しさとジェラシーの炎が、めらめらと燃え上がる。

「そうだ、糸を切ればいいんだ」

(切っちゃえ、切っちゃえ!)

悪魔のささやきが聞こえる。

恋は人を狂わせるって本当だと思った。

「ふふふ、見てなさいよ」

都合のいいことに、健斗の席は舞衣の前で夏美はその隣。

授業中、舞衣はわざと消しゴムを落とし、拾うふりをしてカッターで糸を切ってみた。

難しいかなと思ったら、案外簡単にプツリと切れた。

そして自分の糸と健斗の糸を手早く結んだ。

「これで私たち、永遠につながったわ」

幸せ。胸が高鳴った。

その夜舞衣は、布団の中で健斗との幸せな未来を想像して「くふふ」と笑っていた。

でも、ふと考えた。

糸が繋がっているからといって、必ずしも幸せになれるとは限らないのではないか?

健斗のことは結婚してもいいと思うくらい好きだけど、先のことはわからない。

彼の全てを知っているわけでもないし、そもそも付き合ってさえいない。

将来、もっともっと素敵な男性が現れるかもしれない。

でも、すでに結末は決まっているから、ある意味つまらないだろうな。

「本当にこれでよかったの?」

(そういえば、夏美の糸、切れたままにしとくのもと思って、適当に私の繋がってた糸と結んでおいたけど……もしかしたら、そっちの糸が〈当たり〉だったってこともあるじゃない)

不安ばかりが大きくなる。

「やっぱり元に戻そう!」

翌日の授業中、舞衣はわざと鉛筆を落とし、拾うふりをしてサッと糸を元に戻した。

「これでいいんだわ」

その後、糸はだんだん薄れていき、やがてすっかり見えなくなった。

「私の糸、結局、誰と繋がっていたんだろう。確認しておけばよかったかな。遠くの人だったりね。ひょっとして海外の大富豪とか」

それはいつかわかる。

「見えない糸をどこかの誰かと繋がっていると信じて、努力するのが人生ってもんよ」

なんて、まだ若いのに、さもわかったようなことをつぶやいて、一人納得する舞衣だった。

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舞衣の赤い糸 青川メノウ @kawasemi-river

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