舞衣の赤い糸
青川メノウ
第1話 舞衣の赤い糸
しつこい風邪がやっと治って登校した日、後遺症なのか、薬の副作用なのか、突然運命の赤い糸が見えるようになっていた。
糸はクラスメイトそれぞれの足首から、どこか先へと伸びている。
当然自分の足首からも同様に糸が出ている。
「誰と繋がっているんだろう?」
気になってしょうがない。
時々繋がり合っている二人を目にすることがある。
例えば家ではお父さんとお母さん。
よく喧嘩してるのに、やっぱり運命の二人なのだ。
そして、学校では実に腹立たしいことだが、片思いの
「ほんと悔しい! 夏美のやつ健斗が好きだなんて、おくびにも出さないのに」
まあ、今好きかどうかわからないけど、いつか結ばれる運命の人なのだ。
そこそこ意識くらいしているだろう。
「なのに馬鹿な私。夏美に恋の悩みを聞いてもらってた。
悔しさとジェラシーの炎が、めらめらと燃え上がる。
「そうだ、糸を切ればいいんだ」
(切っちゃえ、切っちゃえ!)
悪魔の
恋は人を狂わせるって本当だと思った。
「ふふふ、見てなさいよ」
都合のいいことに、健斗の席は舞衣の前で夏美はその隣。
授業中、舞衣はわざと消しゴムを落とし、拾うふりをしてカッターで糸を切ってみた。
難しいかなと思ったら、案外簡単にプツリと切れた。
そして自分の糸と健斗の糸を手早く結んだ。
「これで私たち、永遠につながったわ」
幸せ。胸が高鳴った。
その夜舞衣は、布団の中で健斗との幸せな未来を想像して「くふふ」と笑っていた。
でも、ふと考えた。
糸が繋がっているからといって、必ずしも幸せになれるとは限らないのではないか?
健斗のことは結婚してもいいと思うくらい好きだけど、先のことはわからない。
彼の全てを知っているわけでもないし、そもそも付き合ってさえいない。
将来、もっともっと素敵な男性が現れるかもしれない。
でも、すでに結末は決まっているから、ある意味つまらないだろうな。
「本当にこれでよかったの?」
(そういえば、夏美の糸、切れたままにしとくのもと思って、適当に私の繋がってた糸と結んでおいたけど……もしかしたら、そっちの糸が〈当たり〉だったってこともあるじゃない)
不安ばかりが大きくなる。
「やっぱり元に戻そう!」
翌日の授業中、舞衣はわざと鉛筆を落とし、拾うふりをしてサッと糸を元に戻した。
「これでいいんだわ」
その後、糸はだんだん薄れていき、やがてすっかり見えなくなった。
「私の糸、結局、誰と繋がっていたんだろう。確認しておけばよかったかな。遠くの人だったりね。ひょっとして海外の大富豪とか」
それはいつかわかる。
「見えない糸をどこかの誰かと繋がっていると信じて、努力するのが人生ってもんよ」
なんて、まだ若いのに、さもわかったようなことをつぶやいて、一人納得する舞衣だった。
舞衣の赤い糸 青川メノウ @kawasemi-river
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