第3話 悪役令嬢の涙
「アリシア嬢」
甘く落ち着きのある男性の声がした
輝く金髪
細身だけども鍛えられた長身
優しげな微笑み
そして乙女ゲームの攻略キャラらしく、やたらと良い声
この人が”レティシア”の婚約者かつ”アリシア”の攻略対象である”王子”だった
……正直、声はとてもタイプ。ときめく
「授業でトラブルがあったと騒ぎになってたけれど、キミは怪我はないかい?」
治癒の力を持つ平民アリシアが浮いてないか心配して、王族としての責任感から声を定期的にかけてきてる…っていう設定
「大丈夫ですっ!皆さんウッカリしてただけですもの!」
お前の婚約者のせいで雰囲気最悪になったんだけど…と内心のボヤキはもちろん口にしない。
「それは良かった。キミに何かあったら王国の損失だ」
ヒロインの治癒の力はとても珍しいらしい…が遺伝する可能性があるのだそうだ
王子は治癒の力がある私が逃げ出さないように打算で接してる。だが…隙あらば結婚をチラつかせる他と違って下心がないから、対応が楽なんだよね
「レティシアの対応についても報告を受けたよ悪く思わないでくれ」
「思いません…!レティシア様がお優しい方だって、そんなの私わかりますから!」
…ド正論馬鹿で裏はなさそうだからね。私は正直に伝えた。
「………そうなんだよ」
「……そうなんだ」
王子は自分に問いかけるように繰り返し息を吐いている
「でもレティシアの言い方は確かにキツい。私も少し考えてみるよ。
アリシア嬢は優しいね。レティシアをよく見てくれてるんだね。」
ありがとうと、王子はいかにも公平で優しいセリフを私に向かって微笑んで言った
婚約者なのに直接話を聞いてないの?なんで自分の婚約者に確認せずに先に私に声をかけたんか?そんな疑問も湧いたけど、伝える気のない自語りを私に対してしないで欲しい…正直そう思った。
顔と声はタイプだけど、王子のこういう中身がないところは苦手だ…
「殿下っ!わたしのこと心配してくださり、ありがとうございました」
それでも私は微笑んだ
……心配って便利な言葉だよね。誰も傷つけないし、誰にも踏み込まない
「リチャード様…次のご予定です」
いつも王子にびったりくっついてる影のようなモブ従者が声をかけてきた
リチャードは王子の名前である
「ありがとう。カイン」
王子はモブ従者と立ち去ろうとした…その時
王子の背後、柱の後ろ
レティシアがいた
傷ついたような表情を浮かべている
熱のこもった瞳に王子を映している
…あの女が無表情以外を浮かべているのをはじめてみた
レティシアは足早に去っていった
私は心が何故か高鳴ってレティシアを追った
生徒も教師も立ち入らない学園の裏の雑木林
そこにレティシアはいた
私は大木に身体が隠れる位置にしゃがんでレティシアを観察した
「…リチャード殿下……」
こいつ…泣いてるの…?あの正論女が?
「あの子を…リチャード殿下……わたしっ…お慕いしております」
その涙。綺麗な涙だった。宝石みたいにキラキラ輝いて
あの美しく正しいレティシアが訳が分からない理由で泣いている
愛してるんだ、これが愛なんだ
悪役令嬢レティシアはヒロインの攻略対象の王子を本当に愛してる……私の胸に喜びと憧れと渇望が湧き上がった
自分の婚約者が他の女を優先してるところを見たら、普通は怒り狂ってもおかしくない。でもレティシアはひとりで泣いてる。私に対して理不尽に怒る訳でもなく、王子を責めたてる訳でもなく……
もしかしたら…
私は初めてホンモノってやつを初めて見てるのかもしれない…
元の世界で見たことないもの、この乙女ゲームの世界で……ホンモノの愛
これを見るためにわたしは転生してきたのかもしれない。
……いや。
まだわからない。
だから確かめたい、ホンモノの愛かどうかを。そして、もっと見たい。知りたい。確かめたい……
異世界転生した仮面ヒロインは愛を試す まなつ @manatsuoekaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界転生した仮面ヒロインは愛を試すの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます