ゴールドライニング

 ブルコングが声を発した。

「お前みたいなチビ、俺様が潰してやる。恐れおののけ」

「バーカ!ビビってねえし!ナメんじゃねえぞ!」


 ベネレオンは光線を撃つ。しかし効かない。


 次にスティックモードで電流を流すが、やはり効かない。


 今度はソードモードで攻撃するが、傷ひとつすらつけられない。


 剣は跳ね返された。

「硬っ!」


 キャサリンが嘲笑する。

「私たちケルベロスの技術力は、あんたら警察よりも進んでいる。これこそ、プロフェッサーの為せる業よ」


 じれったくなったベネレオンが、武器を送り戻す。


 マリアは訝しむ。

 ――何してるの!?

「こうなりゃ得意の肉弾戦だ!」

 ――相手を考えなさいよ!フォースギアが通用しないのよ!

「弱点は頭なんだろ。そこを一点集中で叩く」

 ――ちゃんと聞いてる?

「イチかバチかだ!」


 ベネレオンは高く跳び、宙返りし、ブルコングの頭部に乗った。


 その頭を何度も殴りつける。


 だが、無駄な抵抗でしかなかった。

「痛えなあ!チクチョウ!」


 怒りに任せ、なおも拳を打ちつける。


 ブルコングが肩で笑う。

「単細胞な奴だ。その勇気だけは褒めてやる」


 ベネレオンを片手で鷲掴みにし、握りつぶそうとする。


 バキバキと鳴る音。全身から散る火花。ベネレオンは苦しむ。


 ブルコングが勢いよく投げ飛ばす。


 建物の壁に激突し、轟音と共に、大きなクレーターができた。


 ベネレオンは地面に落ちる。


 さすがの彼も、体力が限界に達しようとしていた。


 しかし、それでも立ち上がる。


 拳を振り上げ、全速力で走り出した。


 続けて地面を蹴り、跳んだ。


 精一杯に声を張り上げ、叫ぶ。

「オラァーッ!」


 次の瞬間、ブルコングの右フックが唸る。


 激しい衝撃が走り、ベネレオンは吹き飛ばされた。


 地面を猛スピードで転がり、ついに倒れた。


 まだ戦える。頭ではそう思いながらも、体が言うことを聞かない。


 極度のダメージを負ったベネレオンを見て、キャサリンが甲高く笑う。


 残忍で不敵な笑みだ。

「ほんとバカね・・・あんたはこれで終わりよ。鉄クズにでも・・・いえ、生ゴミにでもなりなさい」


 力を失った時空刑事を指差し、命じた。

「殺せ!ブルコング!」


 そのときだった。ベネレオンの耳に声が伝わる。


 岡野からの通信であった。

 ――晴斗くん!アレなら倒せる!トライキャリバーのアレだよ!


 ベネレオンは、すくっと上体を起き上がらせる。


 キャサリンが面食らう。

「えっ!?」


 なぜだと感じた。どこにそんな力が残っていたのかと。


 配下のブルコングも唖然とする。


 そんな折、拳で掌を打ち、ベネレオンは合点ポーズをとった。


 どうやら理解したようだ。

「あっ、そうか。その手があったか」


 もっと早く気づいていればとばかりに、急いで立ち上がる。


 希望を見出し、活力が湧いたのだろうが、本当に不可思議でならない。


 この時空刑事のタフな精神、タフな肉体は、桁違いなほどに強いものだった。


 今度はベネレオンが敵を指差し、言い放つ。

「終わりなのは、お前らだ!」


 左の手首に内蔵されたデバイスに、口元を寄せる。

「トライキャリバー!」


 すると、大空を駆け抜け、時空移動艇トライキャリバーが出現し、ベネレオンの真上でホバリングした。


 続けて指令を出す。

「ディスチャージフォーメーション!グランドマグナム!」


 それに応じるかのように、トライキャリバーは変形していき、巨大な波動砲となった。


 この波動砲こそ、一撃必殺のグランドマグナムである。


 ベネレオンは両手で銃を構えた姿勢をとる。


 この状態になると、ベネレオンの意思や動きは、トライキャリバーと連動する。


 時空刑事と同じ姿が、ワイヤーフレーム状のホログラフィとなって、さながらプロジェクターに映し出されるように、空間に大きく投影された。


 必殺技と同じく、ベネレオンのすべてが光を帯びる。


 そして、迫力に満ちた声で吼えた。

「ストレートシュート!」


 指が引き金を引く。その念波によって、大規模なエネルギー波が放射された。


 ブルコングは両腕でガードするも、凄まじい威力に全く歯が立たず、敗北を喫する。


 頭部だけでなく、全身を砕き、大爆発を起こしたのだ。


 一面に燃え盛る炎。瓦礫の山と化した配下を、キャサリンは茫然と見つめる。


 そのキャサリンに向け、波動砲が照準を合わせる。


 ベネレオンは言った。

「さあ、お前はどうする?」


 キャサリンは唇を噛む。

「クソッ!」


 地面に光線を連射し、火花を散らせ、煙が濛々もうもうと舞う。


 やがて、煙が消えると同時に、キャサリンの姿も消えていた。


 形勢が逆転してしまい、逃げたのだ。


 そうとわかった途端、トライキャリバーが元の移動艇へと戻り、地上へ降り立つ。


 ベネレオンは一瞬よろけた。ひとまず勝ったことで安心し、どっと疲れが押し寄せたのである。


 だが、すぐにシャキッと胸を張り、自身を引き締めた。


 マリアの声が聞こえてくる。

 ――晴斗。グランドマグナムは一度撃ったら、二十四時間は撃てないのよ。

「知ってる。ちょっと威嚇しただけだよ」

 ――とにかく、お疲れ様。報告書は早めに出してよ。

「はいはい。わかってます」

 ――それと、始末書も忘れずに。

「今日中に出します」

 ――あと、まずは怪我を治療してね。

「珍しいな。心配してくれてんだ」

 ――・・・・・・うっさいっ!


 一方的に通信が切れた。ふと呟く。

「マリアって、ツンデレキャラだったけ?」


 そこへ山寺が来た。

「助けてくれて感謝する。だが、君は何者なんだ」

「いやあ、どう言えばいいのか・・・・・・」

「その格好。あの機体。わからないことだらけだ」

「でしょうけど、気にしないでください。あなたは俺たちが守ります」

「いったい誰なんだ。君は」

「すいません。他言無用なもんで。じゃ」


 軽く挨拶をし、ベネレオンは身をひるがえす。


 バイクが自動運転により、移動艇へと積まれる。


 時空刑事も歩みを進め、離れていく。


 山寺はひとり、その背を眺めながら思いを巡らす。

「まさか・・・彼は未来の・・・・・・」




 その頃、NS-Nの拠点では、イレーヌが黒沼の報告を受けていた。


 見下したように、鼻で笑う。

「フンッ・・・ケルベロスも大したことないわね」

「この後は、どういたしましょう?」

「山寺は殺せそうにないわ。警察が守りを固めるはずよ」

「でしたら、女神計画を実行に移しますか」

「そうね。仕方ないわ」

「イレーヌ様のご負担になってしまいますが、よろしいのですね」

「ええ。やってちょうだい」

「かしこまりました。研究データが整い次第、着手いたします」




 時を同じくして、ケルベロスの根城でも、重苦しい空気が漂う。


 玉座に腰掛けるハイドに対し、キャサリンが陳謝する。

「申し訳ございません」

「傷の具合はどうだ」

「問題ありません。すぐに修復できます」

「ならば、この度は水に流そう。わしの可愛い娘だ・・・・・・」


 こうしたなか、手術着の男ふたりが現れる。

「邪悪回路のサイボーグ手術、無事完了いたしました」

「結果は大成功です」


 ハイドの目が鋭くなる。

「そうか。では、その成果を見せてもらおうか・・・・・・」


 おもむろに立つ。

「出ろ・・・出てこい!パニッシャー!」


 ふたりが黒い棺桶を開けると、一体のサイボーグが起き上がった。


 血のように真っ赤な頭部、紫のメタルボディが鈍く光り、左の太ももには、光線銃を収めている。


 その銃を瞬時に抜き、戦闘兵数体の頭や胸を、一発で撃ち壊した。


 ハイドは言う。

「キャサリン。お前の弟だ」


 銃を収めたサイボーグ。その腕に触れ、キャサリンが感嘆を漏らす。

「我が弟・・・頼もしいわね・・・・・・」


 続けて尋ねる。

「プロフェッサー。弟の脳は、あの男の・・・・・・」

「そうだ。奴の記憶は消してある。今は破壊本能に従う、わしのしもべだ」


 ハイドは異様な笑みを浮かべた。

「日本の警察は知る由もない。パニッシャーの脳が、よもや同じ警察官、及川誠二のものだとはな」


 さらに不気味な笑い声を上げる。


 晴斗の親友は、ケルベロスの手中に落ちていた。




 時空広域捜査局の、とある暗い一室。


 竜崎と岡野が、ガラス越しに見ている物体。


 人型のロボット、ヒューマノイドだろうか。


 頭から肩にかけての金属的な質感。


 そこから先は、開発途中の様相が認められ、実に謎めいている。


 竜崎が口を開く。

「岡野くん。これが例の」

「はい。マクシオンです」

「ケルベロスの技術を応用したそうだね」

「悔しいですが、奴らのほうが一歩上でして」

「AIが制御するんだったかな」

「はい。指令データをインプットしたら、後は自身で動きます」

「言うなれば、人造時空刑事・・・といったところか」




 ワープ空間を航行するトライキャリバー。


 ベネレオンは勝利に喜ぶ。


 しかし、ギルドは滅びてはいない。


 時空刑事の使命は続く。

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時空刑事ベネレオン【期間限定投稿】 イトウマサフミ @MasafumiIto

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