【エッセイ】死にたさを消す魔法はない

春生直

第1話

最近、遅まきながら気づいたことがある。

どうやら、死にたいという感情は、生きる上で余計なものだったようだ。

正確に言えば、私にはもう要らない、とやっと思えるようになった。


物心ついた時から、死にたいという気持ちがあった。

それが普通なのか異常なのかすら分からず、明るく生きている振りをした。

それは頭の中で増幅し、狂った回路のように脳内を駆け巡った。


就職してからというもの、その回路は更に暴走した。

死ぬべきだ、飛び込むべきだと常に頭の中で声がした。


しかし、色々な治療を始めてから、その声はだんだん薄くなった。

今でも、少しはそう考えてしまうけれど、だいぶ小さい声になった。


死にたいと思うほど頑張らなければ、生きていてはいけないと思っていた。

いつしかそれは、死にたいと思わなければ生きていてはいけない、という矛盾した信念になった。

医療の言葉で言えば、そういうスキーマだった。

昔はそれが役に立ったのだと思う。

でも、そこまでしなくても生きていけるのだ、ということが分かった。


目覚めたら、ある日劇的に信念が変わるということはない。

人間はそんなにドラマチックにはできていない。

ちゃんとしたリズムで生活を送ること、好きだったものを思い出すこと、好きだった人に出会い直すこと。

そういうものを沢山注いで、黒く濁った水は、いつしか薄い色になる。


死にたさを消してくれる魔法は、残念ながらどこにもない。

科学も思想も、人類はそこまで進化していない。

けれど、足せる水はある。

人間にできることは、可能な限り水を注ぐことしかない。

それに絶望することもあるだろう、

しかし、いつかは抜け出せるという希望こそを見出したい。

容器が一杯になるまで水を足そう、その色が分からなくなるまで。

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【エッセイ】死にたさを消す魔法はない 春生直 @ikinaosu

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