電車
執行 太樹
私には、2歳になる息子の圭太(けいた)がいる。
圭太は、電車が好きだ。いつも散歩で、近くの踏切へ行く。
「ほらっ、圭ちゃん。ガタンゴトンが来たよ」
「わぁ~、ガタンゴトンきた~」
圭太は電車が来ると、いつも両手を全力で振って、電車が行き過ぎるのを見ていた。
ある日のこと、私は、いつものように近くの踏切へ、圭太と一緒に電車を見に来ていた。
「電車、まだかな~」
「まだかな~」
私と圭太は、電車が来るのを待っていた。
すると、
「あら、こんにちは」
私たちの後ろから、おばあちゃんの声がした。
「どうも、こんにちは」
「こちわ~」
私と圭太は、おばあちゃんに挨拶をした。
「ああ、ごめんなさいね。急に話しかけて」
「いえ、良いんです」
「かわいい子だったから、つい声を掛けちゃったの」
おばあちゃんはそう言うと、笑顔で圭太の方を見つめた。
「坊や、電車が好きなの?」
圭太は、少し不思議そうに、おばあちゃんを見つめていた。
「この子、電車が好きなんです。いつも、これくらいの時間に電車を見に連れてくるんです」
私は、おばあちゃんに話した。
「そうなのね。私も、若いときに息子とよくこの踏切に来てたのよ。息子も、電車が好きでね」
「そうだったんですね」
「息子と言っても、もう40過ぎのおじさんだけどね」
そう言うと、おばあちゃんは優しそうに笑った。そして、また圭太の方を見た。
「電車、楽しいね」
「でんちゃ、たのしいね」
圭太は、おばあちゃんにそう応えた。
「いい子ね。元気に育ってね」
おばあちゃんは、圭太にそう言ってくれた。
このおばあちゃんはきっと、私なのだろう。若い頃、今の私のように、電車好きの息子さんとよくここへ来ていたのだろう。
「今を、大切にね」
そう言うと、おばあちゃんは笑顔で去って行った。
「ありがとうございます」
私は、そう応えた。圭太は、おばあちゃんに手を振っていた。
「あっ、ほら、圭ちゃん。ガタンゴトン来たよ」
「わぁ~、きたね~」
電車が、私たちの前を通り過ぎていった。圭太は、手を振っていた。
今を、大切にね……。去り際に言ったおばあちゃんの言葉が、私の心の中に響いていた。
電車 執行 太樹 @shigyo-taiki
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