コミック書評:『ビルディング メイズ(目標50億円)』(1000夜連続17夜目)

sue1000

『ビルディング メイズ(目標50億円)』

――脱出不能な巨大迷路"的"エンターテイメント


クラウドファンディングで突如として掲げられた「巨大迷路建設」という異様なプロジェクト。資金は瞬く間に50億円を超え、北海道の荒野に建てられたのは、10万㎡にも及ぶコンクリートの塊――電気も水もなく、管理すらされない、ただの「巨大な迷路」であった。


本作『ビルディング メイズ(目標50億円)』の最も表層的な読み口となるのは、迷路に挑む人々のオムニバス形式のエピソード群だ。恋人を亡くした青年、都市伝説を追うユーチューバー、迷路を「新たな宗教的聖地」として巡礼する者たち。それぞれの物語は断片的に見えるが、少しずつ共鳴し、迷路そのものが「人間の心の奥底」であるかのように描写されている。


また、それに並行し、2つめのストーリーラインとして、クラファンを立ち上げた謎の起案者を追う刑事の調査譚が展開される。膨大な資金がどのように流れ、なぜ誰も正体を掴めなかったのか。調査が進むにつれ、刑事は迷路と資金提供者、さらには参加者たちの人生が奇妙な網目のように絡み合っていることを知っていく。


さらに特異なのは、迷路にまつわるインタビュー断片が前述の2軸に絡めて挿入される。建築家、心理学者、観光客、匿名のネットユーザー。彼らの断片的な言葉が積み重なることで、迷路は単なる建造物以上の存在感を帯びてくる。「人類最後のピラミッド」「都市伝説の生成装置」「資本主義の悪ふざけ」――語られる視点は多様で、むしろ真実を遠ざけるかのように錯綜していく。この断片がテーマや主体をさらにあいまいにし、物語そのものが「迷路」のように入り組ませていく。


こうして読者自身が「何を信じ、どこを出口とするか」を選び取らざるを得ない、まさに考察界隈が喜びそうな構造が見事に表現されている。


『ビルディング メイズ(目標50億円)』は、"無機質な巨大建築"と"人間心理の深淵"という全く異なるスケールを同一の地平に表現した新しいタイプの作品だ。

ホラーの不気味さ、サスペンスの緊張感、思想書のような知的刺激が交錯する。読み手は出口を探すようにページをめくりながらも、最後に辿り着くのは物語の最深部にいる"自分自身"かもしれない。


単なるエンタメに収まらないまさに「巨大迷路」と呼ぶにふさわしい作品である。








というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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