第20話「二ノ宮先輩の寂しさ」

「よーし、歌いますかー! 何にしようかなー」


 ふんふーんと楽しそうな二ノ宮先輩。デンモク……だっけ、それを持ってポチポチと操作していく。俺も横から見ながら二ノ宮先輩の操作を学んでいた。


「太陽くんは、よく聴くアーティストとかいる?」

「うーん、JEWELSジュエルズなんかはたまに聴きますが、有名どころしか知らないかも」

「オッケー、じゃあJEWELSから選んでみるかー!」


 JEWELSとは、今若者に人気のアイドルグループだ。二ノ宮先輩が「これだー!」と言いながら曲を入れる。すぐにイントロが流れてきた。


「よーし、歌っちゃうぞー! 太陽くんも聴いていてね」


 これは去年出たJEWELSを代表する一曲だ。明るいアップテンポな曲を二ノ宮先輩が歌う……なんだか可愛い歌声で、いつものカッコよさが封印されているような、そんな感じがした。二ノ宮先輩も女の子だから当然か。

 高音もよく出ていて、最後まで外すことなく綺麗に歌い上げた二ノ宮先輩は、


「ふぅー、こんなもんかな! 太陽くん、どうだった!?」


 と、俺の左腕に絡みながら訊いてきた。やっぱり距離が近い……二ノ宮先輩の綺麗な顔がすぐそこにある。俺は顔が熱くなってきた。


「よ、よかったです。上手いし、なんだか二ノ宮先輩にピッタリの曲だった感じで」

「そっかー、よかったー! 次は太陽くんだね、知ってる曲でいいからねー」

「はい、どれがいいかな……これかな」

「何選んだのー? お、イロドリノセカイかぁ! 私もけっこう好きだよー」


 イロドリノセカイとは、こちらも若者に人気の男性グループだ。ダンスミュージックが主だが、たまに楽器演奏も行う、器用な人たちだった。

 その中で明るい曲を選んでみた。声が出るか不安な中、俺が歌ってみる……あ、そこそこ声は出てる。外さないことを祈るのみ……。

 二ノ宮先輩も隣で歌ってくれていた。そんな感じで一曲歌い上げた俺。まあまあだったと自分では思うが……。


「うんうん、太陽くんも歌上手だね、男の人にしては歌声もけっこう高いしさー」

「そ、そっか、よかった……外したらどうしようと思った……」

「あはは、大丈夫だよー! 歌っている太陽くんもカッコよかったなぁ」

「あ、ありがとうございます。ちょっと恥ずかしいですが……」

「あはは、大丈夫だよー! 次は何にしようかなぁ、これとか太陽くん知ってるかなぁ。あ、でもその前に……」


 その前に? と思ったその時、二ノ宮先輩がそっと手を伸ばしてきて、きゅっと俺に抱きついてきた。あ、あれ? これは……!?


「……に、二ノ宮先輩!?」

「……少しだけ、こうさせてくれないかな……」

「……あ、は、はい……」


 全身ガチガチになった俺は、その場から動くことができなかった。



 * * *



「あー、盛り上がったねー! 楽しかったぁ~!」


 その後二時間ほどカラオケを楽しんだ俺たちだった。二ノ宮先輩も俺が分かる曲を歌ってくれて、一緒に楽しむことができた。自分が歌う時はちょっと緊張したものの、そこそこ歌えたのではないかな。


「はい、二ノ宮先輩が俺にも分かる曲を歌ってくれたから、ありがたかったです」

「でしょー!? ふっふっふー、音楽はよく聴いているからねー、任せといて!」


 胸をポンと叩く二ノ宮先輩だった。それを見て俺は笑ってしまった。


「……でも、そろそろ帰らないといけないね」

「そうですね、バスに乗りますか」

「…………」

「……あれ? 二ノ宮先輩?」

「……あ、う、うん、バスに乗ろっかー、もうすぐ来るかな」


 ちょっといつもとは違った雰囲気の二ノ宮先輩が気になったが、すぐに返事をしてくれたのでまぁいいかと思い直した。

 バスに揺られて、俺たちは学校の最寄り駅まで戻って来た。


「二ノ宮先輩は、違うバスに乗るんですよね?」

「……う、うん、ここから二十九番のバスに乗るよ」

「そうですか、あの、今日はありがとうございました。二ノ宮先輩とお出かけできて、楽しかったです」

「……うん、こちらこそありがとう。私も楽しかったから、このまま時が止まればいいのになぁって考えちゃった……それはよくないよね、ごめんね」


 少しだけ俯いて、ぽつぽつと話す二ノ宮先輩だった。もしかして、帰るのが寂しい……? いやいや、調子に乗るなよ俺。あの二ノ宮先輩とデートできただけでもすごいことなんだから、楽しかったことをもっと伝えないと。


「いえいえ、よくないことはないですよ。楽しい時間ってあっという間ですね。でも、二ノ宮先輩がいいなら、俺はいつでもデートしますよ」

「……ほんと?」

「はい、本当です」

「……ありがとう。太陽くんは優しいね。帰ったらRINE送るね」

「はい、俺も送ります」


 話していると、バスがやって来たようだ。最後に俺の手をぎゅっと握った二ノ宮先輩は、


「じゃあまた! 今日はほんとにありがとう!」


 と言って、手を振りながらバスに乗り込んでいった。俺も手を振ってバスを見送る。


(……ほんとに二ノ宮先輩とデートしてしまった……よかったのだろうか)


 バスが見えなくなるまで見送りながら、俺は今更なことを考えているのであった。

 

 でも、二ノ宮先輩と二人の時間は、楽しかった。

 左腕につけられたブレスレットを見ながら、俺はそう思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月27日 07:31 毎日 07:31

カッコいい二ノ宮先輩は、俺だけに本当の姿を見せてくれる。 りおん @rion96194

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画