姉の遺品

なかむら恵美

第1話

姉が他界した。亭年56。急に逝ってしまったのである。

義兄も同じく急逝だった。その一周忌の10日後に、今度は姉。

姉が突然、この世からいなくなってしまった。去ったのである。


同じマンションの5階と7階に住んでいて、直々(ちょくちょく)顔を合わせた。

小さいながらも義兄と共に会社を経営しており、義兄の跡継ぎ・2代目経営者、社長として頑張っていた。

「業績がやっと、晴彦さんの頃とトントンになって来た」

「新しい取引先が、2件も増えてね」

高揚しながら話してくれたのを思い出す。が、どこかで無理をしていたのだろう。

「会議中、急に倒れて!社長が、社長が!」

連絡を受けた日を忘れない。


姉には子供がいなかった。わたしが喪主を務めた。

(小さな会社だっていうのに、社葬って大変)

親戚縁者より会社関係者の参列者の方が、3倍は多かった。


様々な法的手続きも完了。

遺品整理となる。管理人さんに鍵を開けて貰い、姉の住んでいた部屋に入る。

平日だが、夫も一緒だ。

救急救命士をしている夫は今日、非番である。

「お義兄(にい)さんの物は余りないけど、棄てたのかな?お義姉(ねえ)さん」

暫し小休止。缶コーヒーを飲みながら、夫が言う。軽くタオルで汗を拭く。

「かもね」

わたしは、葡萄ジュースを飲む。

姉はお片づけが子供の時から大好きで、常に自室はキチンと掃除されていた。

一人暮らしをしていた時分、遊びに行ったが、やはり綺麗だった。

代わりに誰か、お掃除をしてくれる人でもいるのかしら?

それとも彼氏?彼氏が出来た?綺麗好きな彼氏がやってくれるの?いいね、

お姉ちゃん。半ば本気で聞いたところ、

「まさか」笑いながら否定。

「<必要+α+適度なお洒落×快適>が肝心なのよ。分かった?それが綺麗なお部屋の方程式」

ふざけた格言を出して来た。


夫がボソッと呟いた。

「ウチも、もう一寸何とかならないのかねぇ」

反動的に出た。

「無理でしょ、あなたの部屋なんて、釣りの道具とギターと本だらけじゃないの」

「いや、あれは俺の趣味だから」

「趣味でも何とか、しなさいよ。掃除をしようとするだけでも、<俺がするから>って言うじゃないの。した事ない癖に」

「うるさいな、お前だって」

危うくなって来た矢先に(ん?)

夫とわたしの視線が、何かを捉える。


押入れの中にある、籠。

100円店で売っているプラスチック製の籠の中から、何かが見える。

「何だろう?」

「何かしら?」

恐る恐るに確認してみると、ゴミ袋。

「燃やせるゴミ」「燃やせないゴミ」「資源ゴミ」

10枚1袋、120円前後で各々売られている、お馴染みのアレだ。

各30袋はあろう。

「何でまた。こんな所にこんな物」

眼を真ん丸にして、夫が驚く。


ああ、そうだ。

エレベーターの前で、会った時に言っていたっけ。亡くなる5日前だ。

「忙しくてねぇ、買い物にも余りいけないのよ。買える時に一挙、いろいろ買っておくの。特に冷食とゴミ袋は必需品。わたしに何かあったら、持ってっていいわ。引き取って頂戴ね」

「ありがとう」

そして逝った。

思い返せば、不思議である。姉自身、何かを予兆していたか?



が、悲しんでばかりもいられない。

我が家は何故か、いつも忘れる。

買い忘れのNO、1。断トツにいつも足りないのが、ゴミの袋だ。

「実はね」

夫に言うと、「そうか、、、」神妙な表情をしていたが、

「貰おう」

姉の供養になるんじゃないかと、夫婦でまとまった。

「そうね、冷食も大丈夫かしら?」

「一応、賞味期限を確かめる。けど、大丈夫さ。きっと大丈夫と信じよう」

俄然、わたし達はやる気が出た。

                             <了>

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