金庫の中の手紙

しとえ

金庫の中の手紙

 あぁ、もう一度あなた様にお会いしとうございました。お会いしとうございました。

聞いてくださいまし!あなた様に初めてお会いした日を。その白い肌と絹糸のような細い黒髪が薄紫の藤の花の着物が映えてまるでこの世のものとは思えぬ花のようでございました。私はあなた様の女学校と同じ学校に入りました。

あなた様は1つ年上の先輩となりました。あなた様といた2年間がどれほど輝いていたことでしょう。素晴らしき日々はあっという間に失われ女学校を卒業した後、あなた様が 結婚したことを知りました。

私はどれほど悲しみにくれたでしょう。

女同士の恋など、どうして認められましょうか。それにこれは一方的な私の片思いでございます。初めからかなわぬ恋。この秘めたる恋心を一体誰に打ち明けられましょうか。

私は消して誰にも悟られぬように、ですがこの恋心を胸に閉じ込めたまま生き続けるのはあまりにも辛うございました。

この手紙は誰にも見せるものではございません。ましてあなた様の目に触れられようものならきっと私は死んでしまうでしょう。誰にも言えぬのこの想いをここにしたためる次第でございます。

あなた様の幸福を何よりも お祈り申し上げております。どうかこの手紙をしたためることをお許しください。

私もまたお嫁に参ります。お相手の方は知りません。でも顔の知らない私のことを受け入れてくださる方です。その方のために生きて行きたいと思います。

さようならさようなら私の大切なあなた様へ


古い金庫の中から出てきたその手紙はおそらく曾祖母のものだったのだろう。

私は隣の伴侶の手をぎゅっと握った。

時代が違えば私たちのように愛しあうこともできただろうに。

宛先は読めなくなっていた。

涙でにじんで……

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