「幼馴染がグイグイ来るけど、お前もどうせフリなんだろ!」
替玉 針硬
第1話「幼馴染と疎遠になり、"彼女"が出来ました」
俺の名は、
私立・色恋が丘高校に通う、どこにでもいる高校二年生だ。
俺には、
小さい頃から、『マユ』『アキ』と呼び合う仲。
親同士が仲良しで、どこへ行くにもいつも一緒だった。
…あの日までは。
中3の頃。
俺たちは、その頃までは"普通に"仲が良かった。
家が近所だから登下校もいつも一緒で、クラスメイトから『お前らいつも一緒にいるよな』『お熱いですなあ』などとよく冷やかされたもんだ。
時には、"二人は付き合っているのか"なんて聞かれたこともあった。
真由希はとても必死に否定していたので、よっぽどそういった噂が嫌だったんだろうと思うが、俺はというと、内心まんざらでもなかった。
実際、俺は真由希のことが好きだったからだ。
しかし、好きだということを伝えることが俺には出来ていなかった。
だからこそ、ああなってしまったんだろう。
ある日。
真由希がほかの男子と話しているのが見えた。
名前は中村…なんだっけ。
ちょっと下の名前は忘れた。
運動部所属の俗に言う"イケメン陽キャ"というやつだな。
中村が真由希に送る視線は、『あなたのことを異性として意識しています』と言わんばかりのもので、中村が真由希のことを狙っているのは誰が見ても明白だった。
友人からは『おいおい良いのかよ〜』『何とかした方がいいんじゃねーの』なんてからかわれ半分、心配半分で言われたのを覚えている。
本音を言えば、とても嫌だった。
真由希が他の男と仲良さそうにしているのを見るのを見るのが、とても嫌だ。
そして、そんな醜い嫉妬ばかりしている自分のことがなによりも嫌だった。
『俺の女に手を出すな』なんて言える度胸は俺にはないし、真由希と付き合っている訳でもないので、そんなことを言う権利もない。
だから俺は逃げたんだ。
真由希と距離をとるようになった。
真由希は最初、変わらずに俺に話しかけてくれたが、なんだかんだと理由をつけて真由希を避け続けた。
やがて、中村と真由希が一緒にいる時間が増えていき、"あの二人は付き合っている"という噂が耳に入ってくるようになった。
ああ、そうか。
二人はようやく付き合いだしたのか。
そう思った瞬間、俺の片思いは終わりを迎えた気がした。
友達も真由希のことを話題に出さなくなった。
明らかに気を使われているのが分かって、なんだか申し訳なかった。
「あ、いた。ねえ、アキ!」
「マユ…」
「アキ、どうしたの?最近、私のこと避けてるよね?」
それでも真由希は俺に話しかけてくる。
なんだか耐えられなくなって、ついに俺は言ってしまった。
「マユ、あんまり俺に絡むな」
「どうして…?アキは私のこと、嫌いになっちゃったの?」
「いや、別に嫌いなったとかじゃ…」
「でも、アキ…私のこと避けてるよね?」
「…」
「ねえ、どうして?私、なにかアキに嫌われるようなこと、しちゃった?」
「…そういう訳じゃ」
「…だったら、どうして?教えてよ、アキ」
「…彼氏が」
「え?」
「…彼氏を不安にさせちゃうだろ。俺みたいなのがマユの近くにいると」
「…彼氏って?」
「中村だよ。アイツと付き合ってるんだろ?」
「私と中村くんは…」
やめてくれ。
もう聞きたくない。
「…別に隠さなくていいよ。彼氏と仲良くな。それじゃ」
「アキ、待ってよ!」
俺は振り返らなかった。
いや、振り返れなかった。
でも、さっき真由希は何を言おうとしていたんだろう。
もし、あれが全部ただの噂だったら?
中村と真由希は付き合ってなんかいなかったとしたら?
全てが俺の勘違いで、真由希を傷つけていたのではないか?
そう思った瞬間、怖くなってそのまま逃げ出した。
次の日。
真由希は俺に話しかけてこなかった。
気まずいんだろう。
…なんて思っていたあの時の自分を殴りたい。
次の日も、その次の日も。
結局、中学を卒業するまで、真由希は話しかけてこなかった。
そしてそのまま、俺と真由希は疎遠になった。
俺は私立色恋が丘高校に入学した。
あとから親同士の話を聞いて知ったが、真由希も同じ高校に入ったらしい。
1年の時はクラスも違ったし、顔を合わせる機会もほとんどなかった。
俺は文芸部に入ったのもあって、下校時間もズレた。
そして2年の春。
俺は2年3組になったのだが、まずいことが起きた。
真由希と同じクラスになってしまった。
正直、めちゃくちゃ気まずい。
別に話す必要はない。
同じクラスだからって無理に関わる必要は無い。
本音を言えば、昔みたいに話せたらいいな、なんて思う。
でも、俺がダメにしてしまったんだから、それを言う資格はない気がした。
それと、中村とは付き合っているのだろうか?
というか、実際に付き合っていたのだろうか。
いや、もう昔のことだ。
いい加減、忘れよう。
真由希と同じクラスになってしまって、昔のことを思い出してしまっていた。
帰りのHRが終わったし、帰ろう。
そう思っていると、前の席の女の子が話しかけてきた。
「天神君、だったわよね?」
「え?ああ、えっと…」
この人、名前なんだったっけ…
えーっと…やくなんとかさん…なんだっけ?
「薬院。
「ああ、ごめん。薬院さん、何?」
「ちょっと、話いいかしら?」
放課後のチャイムが鳴り、帰りの挨拶を済ませると、薬院さんは荷物をまとめて席を立った。
ついてこい、と言わんばかりの動きで教室を出ていく。
「あ、ちょっと」
俺も慌てて、薬院さんの後を追う。
薬院さんが向かった先は、人気のない屋上階段の踊り場。
「…急に呼び出してごめんなさい。でもここなら誰も来ないだろうから」
「…別に構わないけど。それで…話って?」
「天神君、早速なんだけど」
薬院さんは一拍置いて、俺の方を見た。
「私と、付き合ってくれない?」
「…は?」
え?なんで?どうして薬院さんが?
俺のことを好きってこと?え?なんで?
今日まで話したことなんて全くないし、俺はクラスで目立つタイプでもない。
全く理解できない。なぜ?
でも、薬院さんはかわいいしこんなかわいい人に付き合ってって言われたら流石にドキドキしてしまう。
「…私ね、正直めちゃくちゃモテるのよ」
なんだ?なんか自分語りし始めたぞ?
「は、はあ」
「興味無い男子から毎日声かけられるの、ほんとにうんざりしてるの」
「そ、そうなんだ」
「だから、天神君には私の彼氏になって欲しいの」
あ、そういうことか…。
なんだよ、嘘の恋人になれってことかよ!
俺のドキドキを返して欲しい。
「男避けのために、仮の恋人になれってこと?」
「うん、形だけの恋人。私、天神君みたいな人タイプじゃない、絶対に好きにならないから」
そこまで断言しなくても良くない?
ちょっと傷つくんだけど。
というか、気になることがある。
「でもさ、なんで俺なの?」
「天神君、彼女いないでしょ?」
「ま、まあ…今はいないけどォ?」
強がってみたが、生まれてこの方彼女なんて出来たことない。
「面倒ごととは無縁そうだし、下心も感じなくて安全そうだから、天神君でいいかな、と」
まあ、下心に関しちゃそうだな。
今日まで薬院さんの名前すらちゃんと覚えてなかったし。
「悪い話じゃないでしょ?あなたは私みたいなモテモテの女子と付き合えて、私は毎日毎日告白されるうんざりする日々からオサラバできる。ウィンウィンというやつよ」
「う、うーん…」
「ま、どうしても嫌だと言うなら他を探すし、それでもいいけど?」
俺に"彼女"が出来たら、真由希はなにか思うのだろうか?
…いや、何も思わないか。
真由希とはとっくに疎遠だし。
「いや、いいよ。仮の恋人になっても」
「そう。それじゃ、よろしくお願いね。"燦斗"君?」
思わずドキッとした。
家族や真由希以外で、下の名前で呼ばれたことなんて無かったから。
「こちらこそよろしく。薬院さん」
「…彩葉、でいいわよ」
「よ、よろしく。彩葉」
こうして、俺に"彼女"ができた。
と言っても、仮だけど。
「幼馴染がグイグイ来るけど、お前もどうせフリなんだろ!」 替玉 針硬 @kaedama_barikata
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