純愛

高橋玲

本文

 ああ、また暮らしが、だらだらだら。私の逢瀬も、だらだらだら。


 彼からのLINEは未読にしたままだ。どうせプッシュ通知で内容がわかるから、わざわざ既読をつける必要もない。そのうち電話がかかってくるけど、それも無視しよう。お風呂に入っていたことにすればいいかな。それでも怒らないで信じてくれるから助かる。いや、薄々気づいているけど、気づかないフリをしているだけだったりして。


 すごく良い人だ。顔も悪くないし、美味しいものも食べさせてくれる。欲しいものを何となく匂わせれば、次に会う時にはプレゼントになる。私から連絡しなくても、忙しかったって言えば許してくれる。本当はぼけーっとスマホをいじっていただけ。最近のスマホの方がうるさいくらい。画面を見る時間が長いとか、アップデートがどうとか。でも、スマホの方が楽しいの。仕方ないよね。


 買い物をして、おしゃれなレストランにディナーに行って、良い雰囲気になる。でも夜の相手はしない。そのまま帰っちゃう。駅まで向かう道で、ちょっとだけ積極的になってみるけど、私が軽く嫌な雰囲気を出すだけですぐに折れてくれる。そうして駅に着いたら、笑って改札で別れてくれる。本当は名残惜しそうな顔をしているのにね。手を振って震えを誤魔化しているの、分かってるよ。引き止めたいのにできなくて、でも私のことを気遣ってくれるような、自信のない表情を見るのがすごく好き。


 きっと家に帰って楽しかったことを思い出して、それでも何だか物足りないものを感じながら眠るんだろうなあ。その顔も見てみたい。そういえばあのディナー、すごく美味しかった。ワインも後で調べたらすごい高級品でびっくりしちゃった。また食べに行きたいって匂わせておこう。


 仕事のことを聞くと、私のために頑張ってるって笑ってくれる。本当は結構イケイケな感じで仕事ができて、リーダーも任せられるようになったことを、会社の人に教えてもらったけどね。会社だとすごくできるみたいなのに、なんで私の前だと全然違う感じになるんだろう?あ、でも仕事とプライベートだと性格が変わる人っているらしいし、それかな。なんか昔にひどく振られちゃったとか。それか逆に、傷つけちゃってそれがトラウマになってるとか。


 まあ、私のために稼いでくれるんだったら、仕事のことは気にしなくてもいいんだけど。そういえばその人も私に興味がありそうだった。今度ご飯ぐらいだったら行ってもいいかも。たまには別な人と食べるのもいいよね。


 ***


 あの会社の人、すごかった。全然彼と違う。イケメンで背が高くて、優しいけど怒るところは怒って、自分をしっかり持ってる。それで私のこともちゃんと評価してくれる。ディナーの後は次の日に用事があるって別れちゃったけど、押したらいけそうだったかも。


 彼はどうしよっか。まあ、そろそろ潮時かなって思ってたし、何かちょっとしたことで怒って、その場で別れちゃえばいいかな。そうしよう。最後にまたあのディナーでワインを飲んで、それでお別れ。なんだか急に彼に連絡したくなってきちゃった。初めての経験かも。


 それにしてもあの会社の人、すごく格好よかった。でも強引に行ったらすぐ離れちゃいそう。なるべく優しく、気遣ってあげないと。どんな料理が好きなのかな。それだけじゃない。趣味とか、服とか、話したいことがたくさん。


 プレゼントも用意しよう。きっと喜んでくれるよね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

純愛 高橋玲 @rona_r

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

ドーナツ

★0 恋愛 完結済 1話