浪漫論

文屋治

浪漫論

 人生を生きて行く上で必要なのは衣服でも、食料でも、住み処でも、金でもない。いや、此の云い方では読者の皆様に少々誤解を招いてしまいますね。訂正致します。確かに衣服も食料も、住み処も金も必要ではあります。むしろ、れらが必要で無いと断言する者など此の現し世の何処を探しても見つからぬ筈でありましょう。ですが、誠に必要なのは此れらのどれでもありません。

 衣食住と金、此の計四つの要素は一見それぞれ全くの別物の様に見えることでありましょう。併し、元を辿ってみますと此れらは同じ穴のむじなと云うものでありまして、一つの或るものより派生して生まれているのです。

 人生を生きて行く上での必需品、れ即ち浪漫であります。

 浪漫が有るからこそ衣服を欲し、浪漫が有るからこそ食料を求め、浪漫が有るからこそ住み処を手にし、浪漫が有るからこそ其の浪漫を叶えるために金を必要とするのです。

 浪漫無き人生を生きるのは辛すぎる。

 浪漫は途方もない人生の旅路を示してくれる羅針盤と成り、また、其の羅針盤なくして行き先に迷うのは最早自明の理。そして、途方もない迷いの中で前へと進む所以ゆえんをすっかり忘れてしまった者達が、自ら人生の旅に幕を下ろして行くのです。

 此処で一つ、皆様には覚えておいて頂きたい。自分の事を無理して好きになる必要はないのです。寧ろ、嫌いでも構いません。ですが、決して浪漫を嫌ってはなりません。

 持ち合わせている浪漫が身に余る程に立派なものでなくても良い。周りの者が貴方の浪漫を見て、些末だと思われて了う様なものでも良い。重要なのは浪漫を持つ事にあるのです。しも悲喜交交ひきこもごもとした世相に嫌悪し、生きて行く事に辛くなったならば、浪漫を探す事です。現に私は此の地獄を映した鏡の様な生き辛い世の中で物書きと云うものに浪漫を見出しました。

 抒情じょじょう的な表現を巧みに操り、紡がれた秀俊しゅうしゅんな文々。

 経験した事の無い感動や気付き、未知の境地を与えてくれる話達。

 限りなき文が、話が幾度にも重なり合い、集う事によって初めて生まれる一冊の書籍。      

 物書きと云うものは私にとって掛け替えのない浪漫であり、羅針盤なのであります。

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