処刑場
中山ぷぅ
当日
都市の冷たいコンクリートを踏みしめながら、私はゆっくりと歩く。
もうじき、私は処刑台へ送られるのだ。
知恵を持ちながらも世の不条理によって活かす場を奪われ、
今、最後の歩みを刻む背に、
群衆の視線も、遠い風も、重くのしかかるばかりであった。
待機場に腰を下ろす。
今日、地獄へ送られるのは私だけではないらしい。
暗い顔で震える者もいれば、無理に笑って己を励ます者もいる。
ここで名が呼ばれれば、
白き悪魔に誘われ、
鋭き刃は肉を切り裂き、
体に深い痛みを刻むのだ。
ふと気づけば、隣にひとりの少年が座っていた。
私は素直に可哀想だと感じた。
私はどうしてか、彼から目を離せなかった。
するとこちらに気がついた少年は静かに言った。
「お兄ちゃん、どうしたの?
もしかして……怖いの?」
純粋さを宿した瞳。
しかしその唇に浮かぶ笑みは、この場所には不似合いなほど明るく、
私の胸に不可解な寒気を走らせた。
哀れみなど、もう感じていなかった。
少年こそが悪魔の手先であり、私を地獄へ引きずり込む存在なのではないか——
そんな妄念だけが、静かに膨らんでいく。
「大丈夫。すぐ終わるから、ね?」
囁く声は優しいのに、どこか底知れぬものを秘めていた。
そのとき、私の名が大きな声で呼ばれ、
私は震える足で処刑台へと向かった。
脳裏に、過ぎてきた日々が静かに浮かび上がる。
理解されなかった言葉。
届かなかった努力。
嘲笑うだけで手を差し伸べてくれなかった人々。
机に散らばった未完成の書類も、誰にも読まれぬまま埃を被っていた。
私はどれほど世界に語りかけても、世界はただ沈黙し続けた。
せめて最後の瞬間だけでも、意味あるものになればと願うが、
その祈りすら届かぬだろうと知っていた。
---
処刑台は、思ったより白く、明るかった。
白き悪魔がが淡い笑みを浮かべている。
あぁ、ついに来たのだ——地獄へ。
「はーい、お兄さん、
お名前は〇〇〇〇様であってますか〜? 大丈夫ですね〜。
今日はインフルエンザのワクチンになりま〜す。
何か体調が悪いなんてことは〜? 大丈夫そうですね〜。
では、ちょっとチクッとしますけどすぐ終わりますよ〜。」
処刑場 中山ぷぅ @grms
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