第2話

「ヨル、〈出荷〉の時間だ」

「はい、わかりました」


 カスタードクリームのような色のブラウスに、いちごのような色のスカート。「世界」入るために準備された、一目で上等だとわかるそれらに袖を通していると、迎えが来た。


 ここに連れてこられてから幾度となく見た制服。

 彼は軍人だ。


「……あれ、もうひとりの子はどうした?」

「ああ。……アサなら、ボクが行くのを見るのが嫌だと言って、どこかに行ってしまいました。寝室、とかかもしれないです」

「……君たちは、姉妹だと聞いている。それは当然の行動だよな。申し訳ない」

「いえ、あなたが謝ることでは」


 それに、ただの捕虜に謝る軍人なんていませんよ、と声をかければ、「これは軍人として謝ったわけではない」と言った。

 真面目で優しい性格の軍人なのだろう。たまにはそういう人もいるのか、とボクは嬉しく思う。


「では行こうか」

「はい」


 迎えの軍人に先導されるようにして、ボクは長いこと拘留されてきた施設を出る。決して景気の良い旅立ちではない。

 でも、頭上に見える空はとても澄んでいて、青くて、手を伸ばしたくなるくらいに綺麗だった。

 いっそ、雨でも降ってくれればよかったのに。そうしたら泣けたかもしれないのに。少しそう思ったけど、空が青いのは気持ちが良い。悪い気はしなかった。


「……ヨル、怖くないのか? これから君は喰われるんだぞ」


 どこか楽しそうなボクの様子に驚いたのだろう。彼は少々の怯えを声に滲ませながら問うた。

 喰べられたらどうなるのか、というのをボクらは知らない。ただぼんやりと死ぬんだろうなとは思っていた。そんな状況でも怖いとは思っていなかった。だって、


「怖くはないですよ。……ボクはひとりじゃないですから」


 

 

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来世でまたあえるかな ことりいしの @violetpenguin

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