第4話 勇者一行は育児で大騒ぎ

翌朝。

村人たちの歓声に見送られながら、勇者一行は次の目的地へ向かって旅立った。


道中、アレンはため息をつきながら呟く。

「……俺たち、いつから“赤ん坊まで戦う最強勇者パーティ”になったんだ?」


セレナは赤ちゃんをおんぶしながら苦笑する。

「そんな肩書き、誰も欲しがってないわよね……」


ジークは本をめくりながらボソリと呟いた。

「ただの誤解だが、敵は怖がる。悪いことではない」


「いや良くはねえだろ!」

アレンが即座にツッコむ。


ミラがにやにやしながら赤ちゃんのほっぺをつんつん。

「でもこの子、昨日も封印魔法をぽんって出したんでしょ? 最強なのは事実じゃない?」


ブリッツは後ろで大きな荷物を背負いながら笑った。

「ははっ、たしかにな。俺たちよりよっぽど頼りになるぜ」



その日の昼。

一行は街道沿いの宿屋で休憩をとることにした。


宿屋の女将が赤ちゃんを見てにこやかに言う。

「まあまあ、なんて可愛いの。勇者さまたちのお子さんですか?」


「ちがっ……違いますから!」

アレンとセレナがそろって叫び、女将は「まあまあまあ」と笑って去っていった。


ブリッツは吹き出しながらセレナに言った。

「もう諦めたほうが楽じゃないか?」


セレナは耳まで真っ赤にして返した。

「諦めませんっ!」



休憩中、赤ちゃんはミラに抱っこされながら不思議そうに窓の外を見ていた。

その先には、宿屋の裏庭で休んでいる牛たちの姿があった。


突然、赤ちゃんが“ばぶー”と声を上げて小さな手を振る。


牛たちは一斉に立ち上がり、何故かきれいに二列に並んだ。


ミラは目を丸くした。

「ちょっ……いまの見た? 牛が行進し始めたんだけど!」


アレンが慌てて外へ出て叫ぶ。

「止まれ止まれーっ! どこ行くんだお前ら!」


村人たちはその光景を見て口々に言った。

「さすが勇者さまたち、家畜まで従わせるとは……!」


「いやいやいやいや!」

アレンとセレナは全力で否定したが、誰も信じてくれなかった。



その夜。

宿屋の広間で、勇者一行は食事をとっていた。


赤ちゃんはテーブルの上でコップを叩いて遊んでいたが、

そのたびにコップがピカッと光って水が小さな噴水のように飛び出した。


「わぁー!」

周囲の子どもたちが歓声をあげる。


アレンは額に手を当てながらうめいた。

「……もうなんでもありだな」


セレナは赤ちゃんを抱き上げて軽く叱った。

「こら、遊んじゃだめ」


赤ちゃんは“ばぶー”と無邪気に笑うだけだった。



翌朝。

宿屋を出ると、門の前には村人たちがずらりと並んで勇者一行を見送っていた。


「勇者さま、赤ん坊さま、どうかお元気で!」

「赤ん坊さまに祝福を!」


アレンはげんなりした顔でセレナを見た。

「……なあ、いつまでこの勘違い続くんだろうな」


セレナは肩をすくめて苦笑した。

「たぶん、ずっとじゃないかしら」


ブリッツとミラは爆笑し、ジークは無言で頷いた。


赤ちゃんはセレナの肩越しに村人たちに手を振り、

その無邪気な笑顔はさらなる伝説を生み出していくのだった。

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