第2話 敦賀のホンネ


敦賀に来たからといって、

ここに腰を落ち着けるつもりは毛頭ない。


ホントのことを申し上げますと、

俺は全国を回る。

どこにも根を張らず、しかし逃げもしない。

そういう生き方を選んだ。


だからこの町で“居場所”を作ろうなんて思っていない。

居心地の良さに甘えてしまえば、

また同じぬるま湯に沈んでしまう気がするからだ。


滋賀県高島市を出て30km。

敦賀市の風は潮の匂いがして、

どこか懐かしく、どこか突き放してくる。


それでも、売上は相変わらず ゼロ。

通りすぎる人は屋台の名前「怪奇現象」を見て、

一瞬だけ興味を持って、それで終わり。


コンセプトはまだ決まらない。

“何を売るか”よりも先に、

“どう生きるか”の方を決めてしまったせいかもしれない。


だが、これだけはハッキリしている。


俺はどこの土地にも居場所を作らない。

居場所を作れば動けなくなる。

動けなくなれば、また腐る。

腐るぐらいなら、風に吹かれていたほうがマシだ。


全国を周るという決意は、

寂しさの裏返しでも、逃避でもない。


ただ、

過去の延長線で生きるのをやめたかった。


敦賀は通過点。

しかし“ただの通過点”ではない。

この町の空気が、次の一歩を決めるヒントになる気もしている。


屋台「怪奇現象」は、まだ何も売らないまま夜に灯る。

居場所を作らない代わりに、

“通った証”だけは確かに残していく。

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屋台 怪奇現象 京丁稚 @HIDEKING0307

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