疑い問え-1 ―異端の少女は、恋の果てに革命を―

蘇々

私はただ、生きて恋をしたかった

「生きろ――!」

静寂を破った等々の声が、私を動かした。


――私はまだ、途中だった。






数十年前、群衆に注目されながら、一人の少年が滝壺へ笑顔で飛び込んだ。


あまりに満ち足りた彼の笑顔は伝染した。やがて、その飛び込みは『自殺』と呼ばれ、人生に欠かせないイベントとなった。


結果、死をもたらす行為である殺人事件は消え、皮肉にも平和な国家が完成した。


 『人は死すもの。

 "生かし"――自殺の妨害――は禁忌とする』


それが、この国の国家理念。


戦争さえもエサとする国民性は、世界中の脅威と恐れられるようになった。






ある日の休み時間――


「また決められなかったってよ? やばくない?」


「あり得ないだろ、マジで怖いんだけど」


「だよねー、何考えてんだろうねー」


「やっぱ気味悪いな。もうずっと生きてろよ」



「いい加減やめろって。唯々はちょっと感覚が違うだけだろ」

等々は同級生の会話をたしなめ、続けて言った。


「時間かければ、ちゃんと死ねるはずだ」



会話が終わったことを確認した唯々は、勇気を出して等々に命日を聞いた。


「俺はちょうど一週間後だ」


「え、もうすぐ……」


「そう。今から楽しみなんだ、自殺するの。唯々は見送り苦手だろうけど、できれば来てほしい。唯々には、俺の命日祝ってほしくて……」


「……うん、わかった。頑張って行ってみようかな」

唯々は、弱々しく返した。


「おう、待ってるぞ! 本当は、唯々がいつも言ってる世界も見てみたかったんだけどな」


「それは、私も……」






私は変わっている。自殺に恐怖を感じてしまう。

自殺の見送りすらできない私は、人として最低だ。


そんな私でも恋をした。今日、等々の命日が一週間後だと知り、胸が締め付けられた。でも、等々は命日を楽しみにしていた。


当たり前だ。みんなは二度と会えなくなることに寂しさを感じないから。


「生きていて欲しい」

その一心で、私は等々の自殺を止める。


自殺阻止は大罪だと知りつつ、覚悟を決めた。

次は、方法だ。


嫌われる覚悟をしても、等々を止めるのは難しく感じ、気持ちだけが焦っていた。そんな時に、犯罪者になって捕まった自分の姿を想像してみた。


「たしか一番重いのは『命尽刑』だっけ。命尽きるまで生かされる刑か、辛いだろうな。 奴隷にすらなれなくて、ただ生かされるなんて。……ん?生かされる? 何が辛いんだっけ……あれ?」


"死"が幸福であり、生が最大の罰だったはず。

この時、私の中の何かが変わった気がした。


「もしかして、犯罪者って……」


大罪を犯した者は"自殺権"を剥奪される。

誰もが知る命日制度の一つである。


とても簡単なことだった。今まで気づかなかったのが不思議だ。 犯罪は悪だという常識に囚われていたことに気づいた。


私はずっと、この世界に嫌われていると思っていた。


「この世界の天敵は"生"を欲しがる人。だから、私はいじめられてきた」


​自分の可能性に微かな希望を抱いた私は、微笑みながら呟いた。




これは、私が革命家になる物語。








同日の授業―― 


「『命日制度』は、急増する快楽自殺に対する秩序策です。納税者に自殺権を与え、命日の決定には国の許可を要します。――明日は『天上地』の見学があります。浮かれないように。では、号令を」 


「起立、礼」



「唯々、最初の自殺者は、伝染するほどの笑顔で飛び込んだんだってよ。俺の自殺、ちゃんと伝染させてみせるからな」



授業終わりに等々が笑顔で言った。きっと、いつまでも命日を決められない私を心配しての言葉だ。


「どうしよう、明日が憂鬱だよ、柴々。等々にもあんなこと言われちゃったし……私、間違ってるのかな。柴々はどう思う?」


「……」


等々の命日を知った日の夜、私が唯一心を許せる存在である老犬の柴々が、添い寝しに来てくれた。だから、私は柴々に抱きつきながら話していた。


「ねえ柴々、柴々は自殺できないよね?

私と一緒だよね?


『天上地』って怖くない?自殺する場所だよ?

明日の見学、私泣いてるんだろうなー。


でも、そんな人今までいないんだって。


それで、ちょっと思ったんだけど。もし、『天上地』で私みたいな反応の人を見たら、みんなはどんな行動をとるのかな。


私は、大泣きしながら自殺しようとしてる姿なんて見せられたら、誰だってその人のことを可哀想だと思っちゃうと思うんだよね。


表情なんて見たらさ、助けに……


でも、さすがにあり得ないのかな?」


「……」


「柴々はどう思う? 

一緒だよね? 一緒じゃなきゃ許さないよ?」


「……」


「答えてよー、ねえ、柴々ー」


その夜は、いつも通り浅かったのを覚えている。






翌朝、私が起きた時には柴々は横にいなかった。


その日は学校に行かなかった。

そして、翌日も。翌々日も。


三日間、寝ながら見ていた空の色しか記憶に残っていない。柴々と話した内容が頭から離れず、何もできなかったから。






等々の命日まで残り三日。

今日は、クラスメイトの命日だった。


私はあえて学校に行き、初めて自殺を見届けた。


目的は一つ。


やっぱり、とても辛かった。吐き気がして、最後まで立っていられなかった。親しい間柄じゃなくても、悲しさしか感じず、自然と涙が溢れた。


「私も死ななきゃ。大丈夫、いつかちゃんと死ねるはず」

私は泣きながら呟いた。


「自殺は泣きながらするもんじゃないよ」

クラスメイトは気を遣い、軽く止めた。


この発言は本来、犯罪行為になるはず。


この時、私は確信した。


「等々、待ってて。私の感覚が伝染するまで、もう少しだけ。 ――『私の世界』、実現させるから」


その後、私は自分の命日命刻を決めに行った。

申請した日は“明後日”の黄昏時。






等々の命日が残り二日まで迫った日の夜、 久しぶりに柴々が近くに寄ってきた。


「柴々、私ね、犯罪者にならないように、等々の自殺を止める。犯罪者になるのは、等々と、クラスのみんな。でも、それじゃ意味ないから、この国ごと変えてやるんだ。  私にしかできない方法があるから」


「……」


「じゃあ柴々、ここで問題です。みんなを犯罪者にする方法とは、一体どんな方法でしょう。ヒントは『命懸け』」


「……」


​「さて、二問目。犯罪者にならない私は、一体何者になるでしょう。 ……正解は『革命家』。 私、革命起こしてくるからね。ちゃんと見ててね。約束だよ」


「……」


「では、最終問題です。名前は『命を尊べ!革命』。一体、どんな革命でしょう」


話し終わった後、おやすみも言わずに眠りに落ちようとしていた私は、しばらくして言い忘れていたことを思い出した。


「大丈夫、私に会えなくなるなんてことは絶対ないよ。 ……ありがとね、おかげで決意が固まった」


寝言のように、柴々に優しく囁いた。


その夜も、いつも通り浅かった。





等々の命日前日の朝、私は深呼吸してから起き上がった。


今日は、革命を起こす日だ。


舞台は『天上地』。

私は今からそこに立つ。私の命日も、今日だから。


黄昏時​になったら、『天上地』近くの見送り場に、クラスメイトのみんなが集まり始めた。その光景が私を追い詰め、体を震わせた。


時間が進むにつれ、私の中から革命成功の自信が薄れ、不安が大きくなっていった。でも、その状態の自分すら計算通りだった。ただ一つ予想外だったのは、恐怖心が想像以上に大きかったことだ。


「命の価値をずっと疑ってた。今日、問うんだ。私は正しいのかを」

この時はまだ、そう思うことができていた。


しかし、『天上地』にすら移動していないのに、喉が締め付けられ、呼吸が浅くなっている。


だんだん革命どころではなくなっていった。

溢れてきそうな涙を堪えるだけで精一杯だった。


そんな限界状態だった私は、いつの間にか『天上地』に立っていた。放心状態で移動していたようだ。


滝の轟音が脳を震わせ、私を現実に引き戻した。しかし、夕闇の独特の雰囲気が、再び私を現実から遠ざけた。


みんなが私を見送る準備をしているのが見えた。その瞬間、“死”が恐ろしいほど現実味を帯びた。


頭の中から革命の文字は消え、“死”という文字で埋め尽くされ、“自殺”を受け入れつつあった。


急に耳に入ってきたみんなの声のカウントダウンは、七まで進んでいた。


「六、五、四……『死ぬんだ……私、死ぬんだ……』」


視界が狭く暗くなっていくなか、うっすら決まった覚悟が足を前に運んでいった。


あと一歩で落ちるところまで進むと、後戻りさせないと言わんばかりに、強風が私の背中を押した。


いつの間にか、泣き声が漏れていた。

顔はもう、ぐしゃぐしゃだった。


それでも、カウントダウンを聞こうとした。

だが、聞こえなかった。


見送り場を見た。しかし、誰もいない。


私の声だけが残り、滝の音は外の世界に省かれたようだった。


「生きろ――!」


聞き慣れない言葉が、死に向かっていた私の意識を戻した。


恐怖で支配された脳に、状況を無理に押し込んだ。


天上地にいる私の方に、クラスのみんなが泣きながら走ってくる。


「待って! 戻って! 止まれ――!」

声にならない声を上げ、必死に私に手を伸ばしている。


違和感しかなかった。


「私を止めようとしてる? でも、そんなことしたら犯罪なんじゃ……」


そこで私は、はっとした。


「……私、まだ途中だ。 やばい! 最後までやりきらなきゃ! えっと……あれ? でも、この状況って、もしかして……」


みんなが私の自殺を阻止しようとしている。

それは、まさに心からの感情的な行動だった。


条件が揃っていた。

私はやっと状況を理解し、確信できた。


「これで変わる。――私の革命は成功だ」


そう思えた瞬間、恐怖から解放された私は、緊張の糸が切れたかのように意識を失った。






唯々の命日当日の朝――


「柴々って、どんな人がタイプなの?柴々大人しいから明るい人だと思うな。どう?当たってる?」


柴々は首をかしげただけだった。


「誤魔化さないで、図星でしょ?」


「……」


​私は、命刻になるまで柴々と過ごしていた。あえてどうでもいい話をしていたはずなのに、いつの間にか革命の話題になっていた。


「革命が無事に成功した後の世界はね、犯罪者で溢れ返っているはずなの。


でも、その犯罪者たちは悪人じゃなくて。革命後の世界では“常識の象徴”になってるはず。


革命の後、その犯罪者たちは、私の味方として動き始める。そして、世界は変わらざるを得なくなって……


“自殺を止めることは当たり前”


そんな常識が出来上がる。そしたら、人生を一番楽しめる自信があるんだ。


最後の最後まで楽しんで、友達もいっぱい作って、そして、“生きたい”って思わせるような仕事をしたい。私は、たくさんの色んな命を未来に運びたい。そのくらい命には価値があると思うから。


……まあ、夢の話だけどね。でも、その夢の舞台を今から作るんだよ?


なんか、だんだん楽しみになってきたね。早く革命成功させて、私の人生スタートさせたいな」


「……」


「……ねえ柴々。私、恐怖に打ち勝てるかな。革命が終わったら、柴々の全力の癒しがなきゃ死んじゃうかも」


柴々を優しく撫でた私は、今から革命を起こす人物とは思えないほど、おぼつかない足取りで歩き出した。






――少し時間が経ち、意識を戻した頃。


私は、『命を尊べ!革命』の成功を知った。


「昨日、クラス全員が一斉逮捕されるという事件が起きました。ーー彼らは一貫して“生きるべき”と主張しています」


私のクラスについての話題がテレビから聞こえてきた。議論の中心に置かれるほど、世間に広まっていた。


担任や目撃者の涙ながらの革命運動に私も加わった。そして、“命の価値”を説いて回り、制度の撤廃を訴えた。


長い混乱と議論はあったが、ようやく反対や暴動が収まり始め、大多数の国民に、私の考えは認められつつあった。


「速報が入ってきました。先程、大統領は『命日制度』の撤廃を宣言し、同時に、自身の辞任も発表しました」


三ヶ月後、私たちの革命はやっとゴールを迎えた。


「命の価値を教えてくれてありがとう」「今までごめんね、大丈夫だった?」

クラスのみんなはたくさん感謝してくれて、本気で心配してくれた。この感動は一生忘れない。


人々は戸惑いながら、 新しい常識の世界を生きようとしている。


一番の変化は、命が生まれた日を“誕生日”と名付け、毎年恒例のイベントになったこと。


小さなケーキに、数えきれないほどの灯。

胸の奥が怖いほど温かかった。


学校では命の大切さを学ぶ授業が始まり、私の意見はとても重宝された。


今、私は新鮮な日常を楽しんでいる。


もうわかったよね。

私の人生はようやくスタートしたの。

ようやく“生きていい”って思うことができた。


後に『世壊事変』と呼ばれるこの革命は、命の価値をわからせるための一つの手段であり、等々とずっと一緒にいるための途中の恋愛だった。


でも、まだ等々に会えていない。


天上地で聞いた等々の"生きろ"という言葉は、

恐怖で死を受け入れてしまった私を救ってくれた。


それに、私は知ってる。革命の後、等々が一番動いてくれていたことを。少し怖いと思うほど、勇敢だった。


「どこにいるの? 話したいことがいっぱいあるのに……」


もう私は一人で歩ける。

だから、行ってくる。

革命を起こしたこの手で、理想の未来を創りに。






 「おう……久しぶり」


平然を装ったが、俺は涙を堪えることができなかった。


探されているのは知っていた。生きてる資格がない俺を、ずっと心配していると聞いていた。



突然だった。

革命から約半年後、俺は唯々と再会した。




俺は、今日も『天上地』で震えていた。

やっぱり“死ぬ”ことができない。


滝の轟音が恐怖を煽り、冷たい水しぶきが体を凍りつかせて、前に進めない。


「あいつはこんな怖い思いをしたんだ。唯々には言わなきゃいけないことがいっぱいある。でも、俺は唯々に顔向けできない。命の価値を知ったのに、死にたいなんて。でも、怖くて、もったいなくて。俺は――」


自殺ができない俺は、拳を握りしめながら、毎日ここで同じようなことを呟いていた。




 「今度は私が救わなきゃ」


等々の独り言を聞いた私は、まだ役目が残っていたことを知った。


「等々、久しぶり……」

私に気付いていない等々に、優しく言った。


後ろを振り返った等々の目から涙が溢れた。

初めて見せた等々の涙は、私に助けを求めていた。


自責の念からの自殺願望。


半年間、等々は一人で苦しんでいた。

でも、間に合って良かった。


「また会えて嬉しい。話したいことがいっぱいあるんだ。あのね、私――」


話し始めたら、途中で等々に遮られてしまった。




 「ごめん!」

俺は大声を出した。


「何もわかってなかった。唯々を助けてるつもりだった。でも、逆だったんだ。余計苦しませてた。本当にごめん」


許されないと思いつつ、俺は誠心誠意の土下座をした。


無様を気にしてる場合ではなかった。


「……それと、唯々のお陰で、俺は今生きてる。

ありがとう。この恩は本気で返していく」


俺は、一生かける覚悟で、また深く頭を下げた。




沈黙が訪れた。怖くて顔を上げられなかった。


さっきまで気にならなかった滝の音が、時間を繋いでくれた。


「途中で話遮らないでよ」

ふいに唯々が言った。そして――




 変わっている私を、唯一救おうとしてくれる。

その優しさが、命を懸けられるほど好きだった。


だから、私は言ってやった。

私を救った、等々のあの言葉を。


大きく息を吸った私は、出したこともないくらいの大声で叫んだ。


「生きろーー!」



「等々が私に言ってくれた言葉だよ。覚えてる?」


「……」

等々は驚いて何も返さなかった。


「あの革命は私が狙って起こしたんだ。信じられないかもしれないけど本当なの。だから、自分を責めないで」

騙したようで申し訳なく感じ、困り顔で私は言った。


「あれが……わざと?」

戸惑いながら等々が返した。


「うん。でも、命懸けだったから、誰も止めに来なかったら飛び降りてた。結局、最後は気を失って倒れちゃったんだけど。でも、恐怖で革命の途中だってことを忘れてた時に、等々の“生きろ”って声が頭に響いて、我に返れた。等々の声だから聞こえたんだと思って……」


「……命賭け?」


「私が、革命を起こした理由、わかる?」

等々に最後の大事な部分をスルーされ、慌てた私はたどたどしく言った。


「……生きたいから、じゃないのか?」


「えっとね、“命の価値”をわかって欲しくて」

テンパっている私は、早口で返した。


「……そうか。俺、ちゃんとわかったと思う」


等々が少し納得したように見え、私はすぐ言い直した。

「違った、違うよ。……えっと、等々に生きていて欲しかったから。 等々とずっと一緒にいるための、革命だったんだ」


照れたせいで真っ直ぐ等々のことは見れなかった。でも、言いたかったことは言えた。心配になるほど鼓動がうるさく、顔が熱かった。


「え、俺のため?」

明らかに混乱している等々が言った。


「……そう」

私は、少し不安を感じながら返した。


「……それって、俺のこと――」


この瞬間、久しぶりに等々と目が合った。


「あっ!そうだ!……柴々探さなきゃいけないんだ!……じゃあ、またね!」


この後の展開が怖くなった私は、言葉を被せた。

そして振り返り、逃げるように走り去った。






 「え……おい、唯々! あの、ありがとう!」



――いや、違うか。


「あの革命が、俺のため……」

さっきの唯々の言葉を思い出した。


「確かに俺の命日の前日だった、本当なら……」


急に熱い思いが込み上げてきた。


「全然気づかなかった。バカか、俺は。」


俺は、体が反るほど大きく息を吸い込み、嬉しさに任せて本音を叫んだ。


「唯々ー! 俺も、ーー」


だが、唯々は走るのを止めなかった。

それでも、やっと気持ちを晴らすことができた。


「知らなかった。明日、ちゃんと言いに行こう。 ……でも、逃げるって。はは、唯々らしい。ありがとう、唯々。 ……今の世界は、本当に最高だ」


久しぶりに笑った。

この時俺は、すでに明日を生きていた。






――その瞬間。


「やった! ……命、賭けて良かった!」


一生の思い出だ。嬉しくて涙が止まらない。


泣き顔はもう見せたくないから、私は走るのを止めなかった。真っ直ぐ走れなかったのは、踊り出しそうな体を抑えるのに必死だったから。


「唯々ー! 俺も、好きだーー!!」


聞こえてきた等々の告白は、私の新たな人生の背中を押した。




その後、私は『天上地』から遠く離れて振り返った。そしたら、まだ私を見ていた等々が手を振ってくれた。


「また明日――!」

そう言って、私も全力で手を振った。


その瞬間、全てが報われた気がして、さらに涙が溢れた。






「柴々ー!!」


勢いそのまま、私は柴々に抱きついた。頑張った後は、癖付いているこの安心感が欲しくなる。柴々は革命の後、一番に成功を祝いに来てくれた。


「私、言えたよ!頑張ったよ! 等々も私のこと好きって言ってくれた!やった!」


「……」


いつも通り無言の柴々だけど、尻尾で床を二回叩いた。それで十分だった。


この時の柴々の体温が、私の中の恐怖を全て消し去ってくれたから。




新しい世界の夜はとても深く、計り知れない安心感で包み込まれ、私の全てを肯定してくれているように感じた。


そして、これから始まる、きっと長く続くであろう人生に、大きな期待を抱いていた。




――ようこそ、『私の世界』へ。




これは、まだ何も知らなかった私が、恋のついでに革命家になった物語。






柴々が手紙を運んできた。




 「拝啓、まだ生まれたての唯々へ


 人生は長い。まだまだ続くと思う。

 悩みや辛い日もあるけど、

 今、私はとっても楽しい。

 私と等々は会社を立ち上げて、

 夢だった"命を運ぶ"仕事をしている。

 『夢の舞台』作ってくれてありがとね。

 未来の私から、感謝を込めて。


 『ミラクルフェイクカンパニー』、エース社員唯々と代表取締役社長等々、癒し相談役柴々より

                    敬具」






次は、もっと大人になった私が、仲間と共に“命を運ぶ”物語。​​

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疑い問え-1 ―異端の少女は、恋の果てに革命を― 蘇々 @43Yomi_43Yomi

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