第26話 失った記憶
「電車で不審死?」
「また?」
「そうみたい。あれこの時間……」
福山
同じ電車に乗っていた。
だが、車両が違うために、警察も彼女には事情聴取を行うことはなかった。
「なんか物騒ねぇ」
「うん。時間を変えようか?」
|鈴木
彼とも相談をしないといけない。
出会ったときにはすごく嬉しかったのだが、なぜか日に日に冷めていく気持ち。
聖司の方も、それなりに自分の事を気に入ってはいるようだが、好きという感じは無さそう。
微妙な関係なのだ。
その電車をよく利用する、大樹も悩んでいた。
知らず知らずに周りに影響を与えながら、彼はため息を付く。
妻は、あれから別に何も言わないし、ご機嫌だ。
そして悩みの種。
部下の三人。
そして、気になって見回せば、他にも目があう子がちらほらといる。
昔気になっていた同僚……
妻の友人でもあるのだが、また距離感が近くなってきている。
「何が起こっているんだ……」
本人はその理由がわからない。
秀幸が見つけた古文書の中には、ご先祖様の日記があり、秘匿された封印方法が書かれているのだが、日記はにじみさらに読みにくくなっていた。
だがそれのおかげで、封印方法が発見しやすくなっていたのは幸いなのかも知れない。
ただその方法に行き着いても、別の問題が発生する。
前途は多難で、そこに行き着くまでに、周りへの影響は大きくなっていく。
ある種、取り返しの付かないレベルで。
そう暴走中の優月が、騒動を起こし始める。
それは、違和感を世間に気づかせる事になる。
だが、他の家の者達も気がつき、何とかしようとし始める切っ掛けとなる。
優月は少しの間に、ハーレムを築いていた。
日替わりで食事に出かけて、その日はその男がパートナーとなる。
ばれたとしても、なぜか険悪にもならず、ルールに従ってくれる。
彼女自身も、相手が変わったときの感じ方が違うことに気がつき、楽しんでいた。
「触れ方と、性格に相関があるのね。おもしろいわ」
貢がれることで、生活に対する不安がなくなってきた。
だがそのしわ寄せは、貢いでいる男達の経済状態を、わずかずつ悪化させる。
それは、ある程度の期間で破綻をする。
当然だが……
「あなたが、彼をおかしくした原因なのね」
優月と出会い、強引に彼女は振られた。
その付き合いは古く、高校生の頃からだった。
会うときに徐々に嫌がり始めた彼、おかしいから彼女は問い詰めた。
「好きになった人ができた」
西江
佐野
それが急に変わった。
本当に急に……
「彼女は悪くないんだ」
菜央の前に秀之が出てくる。
優月をかばうように。
「別れたはずだろ」
「確かにあなたはそう言ったけれど、こんな突然。納得ができるわけないでしょう」
彼女は食い下がる。
だがそこで、投げかけられた言葉。
「見苦しいわね。それで、秀之はどちらを選ぶの? 私? 彼女?」
「優月さんです」
「そう。じゃあ、話は終わりね。行きましょ」
そう言って、場を離れようとした彼女達。
菜央は当然だが、納得できずに飛びかかろうとした。
だけど、出来なかった。
女がチラリと此方を見たとき、意識を失った。
秀之は不思議なことに、菜央に関する記憶を失っていた。
その事すら思い出せないくらいに。
人は記憶により感情が左右される。
身近な者の死と、誰かの死。
関係がなければ、心に悲しみなど浮かばない。
そればある種の防御作用である。
村人の心を安定させる。
それはしずかに、人々の中に作用をして、心を変えていく。
問題は本人では気がつけないこと。
誰かに会い、会話の中で違和感として時折現れる。
だが、その違和感の原因も理解できない。
それは、すべて無かったこととなっているのだから。
だがそれが、村人。
余計なことは知らなくて良い。
つまらない事は忘れて従えば良い。
そうすれば守ってあげる。
幸せでしょう?
そんな世界が、すぐそこに広がり侵食をして来ていた。
人々が気づかぬままに。
ただその影響を受けるのは、村人のみ。
各家の当主はその影響を受けることはない。
「何が起こっているんだ?」
気がついてしまうと、気になり始める違和感。
すべてが自分たちの都合に合わせて、世界が変わっていく気がする。
それに気がつき、利用するものと、違和感に抗おうとするもの、そして戸惑うもの。
まだ気がついていない者。
彼等は、動き始める。
封じられた記憶 久遠 れんり @recmiya
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