人間製造工場の不良品
ちびまるフォイ
危険な適材適所
「では試験開始」
人工製造された人間たちは一斉にテストを始めた。
この製品テストでは人間に問題がないかをチェックする。
その中でひとりだけ"愛情"のテスト結果に赤点が生まれた。
別室に呼び出し再テストの運びとなる。
「先生、僕になにか問題が?」
「そうだな。どういうわけか愛情の成績が悪い。
テスト側のミスかもしれないので、簡単な再テストを行う」
「はい」
「今から、私が実際の恋愛関係における質問を出すから
その局面になったとき自分がどんなことをするか答えなさい」
「わかりました」
先生は全5問の簡単なテストをはじめる。
「1、恋人から別れを切り出された。
あなたは別れるのが嫌だ。取るべき行動は?」
「自分が死ぬといって思い留まらせます」
「……」
先生は回答をメモする。
「2、恋人が自分との時間を減らして資格の勉強を始めた。
あなたが恋人に対してかける言葉は?」
「どうして受かりっこない。そんなの時間の無駄だ」
「3、はじめて恋人ができました。あなたがまずやることは?」
「SNSアカウントの特定と、オンライン状況の把握」
「4、恋人ができたときだいたい週に何日くらい会いたいですか?」
「毎日。月火水木金土日、すべての予定を抑えます」
「最後です。5、あなたは恋人との待ち合わせ。
相手が遅刻している場合、何分まで待ちますか?」
「0分。待ちません。1秒でも遅れるのなら追いメッセします。
なぜなら自分と会っていない数秒でなにしてるかわからないから」
先生は頭をかかえた。
「こりゃやばい……」
それぞれの回答をメモしていたが、そのどれもが誤答。
つまり確実にこの人間には愛情欠落が見込まれた。
人間製造向上において不良品が出るのは、
工場の品質管理問題として非常に問題だ。
不良品を出すような危ない工場とは契約しない。
そう言ってくる取引先も出てくるだろう。
「先生、僕のどこが悪いんですか?」
「いやもう……全部悪いよ……」
「正答を教えて下さい」
「まず、愛情のある人間は別れるときに
自分の命を天秤にかけさせるようなことはしない」
「でもそうすれば、相手は感情を揺さぶられて
別れを思いとどまるかもしれないじゃないですか」
「いやそういう心理戦をそもそも仕掛けるのがおかしい……。
それに、恋人の努力を否定するのも愛情の欠落だ」
「いらぬ知恵をもたれたらコントロールしづらいでしょう?」
「なにこのサイコパス……」
「僕は相手を好きな気持ちが誰よりもあるだけです。
それなのに愛情がないと評価されるのは納得できません」
「ちなみに、付き合っていきなりオンライン状況監視するのも
相手を信頼していないっていう愛情欠落だからね?」
「時間が経てばお互いの携帯を見たりすることになるのに、
監視を始める時期が早い遅いにどうして問題が?」
「それに毎日会おうとするなんて束縛しすぎるし……」
「好きな相手と一緒にいたいだけでしょう?」
「遅刻を許せないのも愛情に問題がある」
「遅刻を許せないわけじゃないです。
自分の知らない時間を過ごしてるのが許せないんです」
「こりゃダメだ……」
先生は具合が悪くなった。
一応工場では多少の愛情欠落であれば、
愛情輸血でもって補助することもできるしやってきた。
しかしそもそも愛情を受け止める器がないパターンは初。
かといって法律があるので処分することもできない。
先生は工場長へ相談することにした。
「……というわけなんです。
もう愛情というか、その概念そのものがない人間のようで」
「ふうむ。ついにアレを使うときが来たのか」
「アレとは?」
「いや、そういう人間が生まれたときに
ぜひ買い取らせてほしいという業者が営業に来たんだよ」
「愛情がない人間ですよ? なにに使うんですか?
というか何に使えるんですか? 犯罪?」
「ちゃんとした企業だから犯罪利用ではないよ。
ただ私もちゃんとは聞いてなかったからその用途までは……」
「工場長。とにかくあんな人間をうちの工場から出すのは
今後の取引先の信頼も失うリスクがあります」
「うむ。それじゃ買い取ってもらおう。
なにに使うかわからないが、公表もしないらしいし」
「臓器くらいは役に立つんですかね」
「君もなかなかやばいな」
工場から見つかった不良品人間は、別の企業の買い取りとなった。
その企業の担当は「これは最高の一品です!」などと喜んでいたらしい。
高く買い取ってもらったのはよかったが腑に落ちない。
一方で工場は改めて製造ラインを見直し、
今後あのような不良品人間を生み出さないよう愛情点検を徹底した。
工場のライン整備が整ったころ、
不良品を大喜びで買い取った業者がまたやってきた。
「こんにちは!!」
「おや、あなたは……」
「以前は本当に素敵な商品をおゆずり頂いて。
ぜひ、またあのような素晴らしい一品がないかと来ました」
「ああ、そうなんですね。でも無駄足でしたよ。
製造ラインを見直して愛情の欠落人間が出にくくなりました」
「ええ!? そんな! もったいない!!」
「いや欲しがるのはあなただけですよ……。
ちなみに、あの不良品人間はどうなったんです?」
「不良品だなんて。あれこそ求めていた人材ですよ」
「そうですか? 常に相手の不安を煽ってコントロールし、
相手を貶めて自分以外の選択肢をなくし、
束縛と監視を続けて、遅刻を0秒も待てない人間ですよ?」
「はい! だからこそ成果をあげてもらってます!」
業者はかつて不良品だった人間の今の姿を見せた。
華々しい表彰式の写真だった。
「愛情のない彼は今、警察として大活躍していますよ!
悪い人間の不安を煽ってボロを出させ、
相手を貶めて警察に行く以外の選択肢をなくし、
束縛と監視をつづけて、遅刻を許さない真面目ぷりが評価されてます!」
人間製造工場の不良品 ちびまるフォイ @firestorage
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