ヘッドショット・ナースコール

或火譚/アルカタン

へしょなす!!

 ▷ タロウ、十八歳、入院中。


(あー、暇だなぁ。

 なんか面白いこと起きないかなー)


 大学生になって、上京して、

 一人暮らしを始めて――

 と思った矢先、胃腸炎で入院。


 お腹は痛いし。窓の外はずっと同じ景色だし。


 と、ベッドの上で不貞腐れていると。

 急に耳鳴りがして、次に頭痛が襲い掛かり。


 +胃腸炎でお腹も痛いというコンボをくらって、


 タロウはたまらずナースコールの

 ボタンを「ポチっ」と押した。


 その瞬間。


 頭の中に響く声――

 まるでデスゲーム主催者の声みたいだ。



「タロウさま、このたびは私のゲームに

 参加してくれてありがとうございます」


「いや、参加した覚えはない」


 頭の中で会話するという、

 なんともいえない奇妙な感覚。


「いえいえ。なにをおっしゃいますか。

 いま、そのナースコールを押したことで、

 あなたは参加の意志を表明したことになります」


「は? そんなバカな、強制参加?」


「ではでは、簡単にゲームの説明をしますね」


「まぁ、わかったよ。暇だったしいいよ」


「ありがとうございます。

 では、ルールの説明をします」



 1.本ゲームは『押し手/オシテ』と

   『押され手/オサレテ』の二人一組で行います。


 2.オシテの役割は、ボタンを押すこと、です。

   (ボタンを押すほどオサレテの能力が強くなります)

  

 3.オサレテの役割は、超能力を使って戦うこと、です。

   それぞれのボタンに対応した固有の能力が与えられます。


 4.勝利条件は、この街にいる他の

   オシテとオサレテ、全員に勝つKillことです。


 5.優勝賞金は10億円。

   後日、指定の口座に振り込みます。



「――以上です。それでは、スタート!」


「うっ、……声が消えた?」


 デスゲームの主催者みたいな声の主は、

 説明だけして脳内から消えた。


 気づけば。|いつの間にか。


 病室の入り口には、

 女性の看護師ナースが立っていた。


 絹のような黒髪を肩の上で切り揃えた、

 整った顔立ちの若い看護師だ。


 そして。その手にはなぜか、

 スナイパーライフルが握られていた。






   ―― ヘッドショット・ナースコール ――






「はじめまして、辺所岡へしょおかなすび、です」


 バカみたいな名前だ。

 小学生向けマンガ雑誌の主人公じゃあるまいし。


 へしょおかなすび?


 という名前らしい女性看護師は、

 どうやらタロウのペアとして

 このデスゲームに参加することになったようだ。


 与えられた超能力は、


『ライフルでヘッドショットをキメた相手を

 過去へとタイムスリップさせる』


 だ。


「つまり、俺がオシテで、

 へしょおかさんがオサレテってことっスね」


「そうみたいね。あと、

 私のことはナスぴでいいから」


「わかりました。よし、頑張ろうな! ナスぴ!」


「えぇ。頑張りましょう、タロウくん!」


 二人は、がしっと、

 たぶん少年漫画なら見開きで描かれるような、

 アツい握手を交わして勝利を誓った!


 

 ▷ 病院を出る。



 病院を出ると、さっそく一組目の参加者が、

 目が合うなり襲い掛かってきた。


 制帽と白い手袋を身につけた白髪の男と、

 なんかチャラいかんじの金髪の男のペアだ。

 たぶん、白髪の男は服装からしてバスの運転手だろう。


「ナスぴ。警戒しろ、相手が

 どんな能力を使ってくるかわからない」


 タロウは、耳に付けたワイヤレスイヤホンを通して、

 病院の屋上にいるナスぴに指示を出す。


 ナスぴの能力は遠距離用だ。

 だから、ナスぴは屋上で待機しながら

 タロウが動いて指示を出すという作戦である。


 金髪の男は、にたにたと笑いながら、

 一人で病院から出てきたタロウを指さす。


「おめぇ、ぼっちかよ!!

 このデスゲームは二人一組で参加するんだぜ?

 それともォ? もう相棒に愛想つかされたのかなぁ??」


「はっ、べちゃくちゃとくだらねぇ言ってるが。

 俺がデスゲームの参加者だっていう証拠はないだろ?

 もしかしたら、なんの関係もない一般人かもかもねぇ?」


「嘘つけッ!! その腕に付けているのは、

 『ボタン』じゃァないか!! つまりお前は参加者だ!!」


「くっ……!!」


 金髪の男は、

 タロウの腕に装着されたナースコールを発見!!


 同じく、

 金髪の男の腕にも、『ボタン』が装着されていた。

 あのボタンは――



 バスの「次、とまります」ボタンだ!!



「いくよ、サイトウさん」


 金髪の男の男に名前を呼ばれた白髪の男は、

 手袋をパチンっと鳴らしながら頷く。


「気をつけて、タロウくん!!」


 イヤホンの向こうからナスぴの声。


「わかってる!」

 そう言って、タロウは走り出した。


 なんだかよく分からないが、

 とりあえず戦闘シーンは走るべきだろう。


 金髪の男も走り出して、

 タロウと二人でぐるぐると円を描く。


 円の中心に立つ、サイトウ(白髪の男)が、


「では、始めようか」


 低い声でそうつぶやくと同時に、

 金髪の男は降車ボタンを連打する。


「サイトウさん!! 今だッ!!」


「了解した。……さぁ、解き放て!!」


 サイトウが叫ぶ!!


 瞬間――、空中に無数の魔法陣が出現!!

 魔法陣からは、津々浦々、

 多種多様なローカルカラーのバスが顕現!!



 降り注ぐ!!!



「よけてっ、タロウくん!!」


「あぁ、わかった! ナスぴはライフルを構えて!!」


「――だめ!! 角度の問題で見えないわ!!

 車道まで引き付けてくれたら撃てるかも!!」


「きついけど、なんとかやってみる!」


 タロウは、降り注ぐバスをよけながら、

 装着したナースコールを連打しながら、

 金髪の男から全力で逃げながら、


 車道まで走る!!


 篠突く雨のごとく降り注ぐバスは、

 病院の窓ガラスやアスファルトに衝突し、

 戦隊モノのラストシーンのような大爆発を起こす。


 舌打ちするサイトウ。


「チっ、すばしっこいネズミですね……」


「おいサイトウさん!! ちゃんと狙えって!!」


「言われずとも!!」


 降車ボタンを連打する金髪の男。



 →次、とまります。

 →次、とまります。

 →次、とまります。

 →次、とまります。

 →次、とまります。

 →次、とまります。

 →次、とまります。

 →次、とまります。

 →次、とまります。


 停車要求のDDoS攻撃。

 いざ、ゲシュタルト崩壊へ参らん。



「タロウくん!! 見えたわ!!

 あとちょっとよ!!

 そのまま車道の真ん中まで走って!!」


「オーケー!!

 絶対に外すんじゃねぇぞ!!」


「えぇ、分かってる!」


 ナスぴは、スコープを覗きながら

 ゆっくりとツバを飲み込む。


 深呼吸、深呼吸。


 

 ▷ Lock on……



「――、今」


 ナスぴはそうつぶやくと、

 スナイパーライフルの引き金を引いた。


 ――バンッ!!


 解き放たれた弾丸が、

 鋭く空気を裂いて、金髪の男の脳天をぶち抜く!!


 刹那――


 金髪の男の身体が、ぱっ と

 泡のように弾け、消失する。


 …………


 ……


 目が覚めると。

 

 知らない場所の、

 知らない海のそばに立っていた。



 ▷ 金髪の男(その後)



 彼は、たまたま乗っていたバスで、

 降車ボタンを押してしまったせいで、

 理不尽なデスゲームに参加することになった。


 そして、挙句の果てには、

 ライフルで頭を撃たれて知らない場所に。


「クソっ、いらいらするぜ。

 なんでもいいから蹴ってやりたい気分だ」


 そんな金髪の男の目の前――

 一匹のカメが海の中から浜へと上がってきた。


 男は怒りをぶつけるためにカメを蹴った。


 しばらくそうしていると、

 背後から一人の男が近づいてきて言った。


「おい、お前! カメをいじめるんじゃない」


 その男の名は、浦島太郎。

 近くの村に住む心優しい漁師だった。


 その後の展開は、みな知っている通りである。


 

 ◇


 

 金髪の男とサイトウのペアに勝った、

 タロウとナスぴのふたりは。


 その勢いのまま勝ち進んでいく。


 横断歩道の「押してお待ちください」ボタンの

 能力をもった、こっち側の歩道に立っていた人、

 あっち側の歩道に立っていた人ペアと戦ったり――


 電車のドアの「開閉ボタン」の能力をもった、

 車掌と乗客のペアと戦ったり――


 エレベーターの「△▽ボタン」の能力をもった、

 一階にいた人と十階にいた人のペアと戦ったり――


 インターホンの「あのボタン」の能力をもった、

 配達員と住人のペアと戦ったり――


 自動販売機の「\120」の能力をもった、

 たまたまその場にいた二人のペアと戦ったり――






 ―― 完 ―― 




 ☆ タロウとナスぴの戦いはまだまだ続く――!!

 

 

 

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