◆お墓参り◆
茶房の幽霊店主
第1話 お墓参り。
※2025年7月30日。夕方の部・アフタヌーン・ティーでの披露。
※(店主の体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
※※※※※
数年前の冬。
夏の間茂っていた雑草を一掃すべく墓参りへ行きました。
車で四十分ほどのお寺に到着。
入口近くの水場にはバケツが用意されています。
掃除用にいくつか水を注ぎ、一族の墓まで運ぶのですが、これがかなりの重労働。
家族三人、繰り返しバケツリレーしながら掃除を終えました。
残ったバケツを店主が取りに行ったとき、柄杓(ひしゃく)を 掴んで前かがみになっている若いお坊さんの姿が見えました。
『すみません。片づけます!』
通路の端に置いていたとはいえ、通行の邪魔だと思い、お坊さんへ声をかけながら小走りで近づきました。
距離は二メートルぐらい。バケツの水を軽くかき混ぜているのか、柄杓とバケツがぶつかる音が聞こえてきます。
すぐそこまで接近したとき、目の前に立っているお坊さんが、背景へスッと
ゆっくり吸い込まれていきました。
消えていく途中の姿は、後ろの墓地の景色が透けて見えてあぜんとするしかありませんでした。
『誰と話してるの?』 母の声が聞こえてきます。
『さっき、お坊さんがバケツのところにいて……』
父は黙ってその様子を見ているだけです。
『誰もいないじゃない』
掃除中、墓地で他の人を見かけることはありませんでした。
『いや、本当に若いお坊さんがさっきまでそこに立ってた』
『見間違いでしょう?』
『夏用の白い紗を着てた』
今は冬。そして真昼間です。
三人とも沈黙していたとき、墓の通路へ強い熱風が吹いてきました。
母がひとり『ギャアアアアアア!!!』と絶叫したので、父も店主もビクッと肩をすくめ、顔を見合わせるしかありません。
母の大きい声の方が心臓に悪かったです。
※※※※※※
お墓での出来事を忘れかけていた時、母が問いかけてきました。
『あなた、おうさん(住職)の息子さんが亡くなったの知ってた?』
『……なんて? 誰が、どうしたの?』
『おうさんの息子さん、今年の夏、交通事故で亡くなってたって』
『いや、知らない。お寺の事情なんて分からない』
店主は檀家や宗旨など全く興味がないので、血族の眠る墓を誰が管理しているとか聞いた覚えがないです。
『墓参りする前に調べてた?』
『そんな手間なことして、何か得する?』
理由がはっきりせず、母の問いかけは無理があります。
話は平行線だったのですが、
その年の夏、住職の長男が事故〇していたこと、
檀家の人でも一部にしか知らされていなかったこと、
※(現に檀家であるはずの母は他の人から聞くまで知りませんでした)
住職の奥さんが未だ悲しみの中で臥せっていること。
『幽霊を見たとか。奥さんに言ってはだめよ』
『……幽霊って断定するの?』
店主が墓地で見た年若いお坊さんは、
やはり母の言うとおり幽霊なのか。真冬に吹いた熱風は何だったのか。
何ひとつ明かされてはいません。
◆お墓参り◆ 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom
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