第12話 FBIだ。全員動くな

この町には、ひとつだけ奇妙なルールがある。

それは、「毎週金曜日の午後3時、全員が一斉に静止すること」。


信号も止まり、店も閉まり、人々はその場でピタリと動きを止める。

まるで時間が止まったかのような、不思議な光景。

町の人はそれを「静止タイム」と呼んでいた。


「なんでそんなことするんですか?」

僕が引っ越してきたばかりの頃、近所の八百屋の店主に聞いた。


「昔な、ある事件があってな。詳しくは言えんが、FBIが関わってたらしい」

「FBI? 日本なのに?」

「そう。だから、金曜の3時になると、みんな止まるんだよ。そう決まってる」


意味がわからなかった。

でも、町の人たちは真剣だった。

誰もがその時間になると、ぴたりと動きを止める。

まるで、演劇の一場面のように。


僕は、半信半疑だった。

だから、ある金曜日、わざと動いてみることにした。


午後2時59分。

町の時計台が、カン、カン、と音を鳴らす。

人々が次々と動きを止めていく。


僕は、そっと腕を動かしてみた。

誰も見ていない。

少し歩いてみる。

やっぱり、何も起きない。


「なんだ、ただの迷信か」


そう思った瞬間だった。


「FBIだ。全員動くな!」


背後から、鋭い声が響いた。


振り返ると、黒いスーツにサングラスの男たちが、ずらりと並んでいた。

手には無線機。胸には「FBI」のバッジ。


「えっ、えっ、日本ですよここ!?」


「静止タイム中の移動を確認。対象を確保する」


僕は、あっという間に取り囲まれた。


「ちょ、ちょっと待ってください! なんでFBIが日本に!?」


「我々は“世界静止協定”の監視機関だ。国境は関係ない」


「そんな協定、聞いたことないですけど!」


「それを知ってしまった時点で、君は“観測者”だ。さあ、こちらへ」


僕は連れて行かれた。

どこかの地下施設。

白い部屋。

無機質な椅子と机。


「君のように動いた者は、記憶を消去するか、協力者になるか、どちらかを選ぶことになる」


「協力者って……何をするんですか?」


「君も、誰かが動かないように見張る側になるんだよ」



それから、僕は毎週金曜日の午後3時、黒いスーツを着て町を歩く。

誰かが動かないか、目を光らせながら。


そして、今日もその時間がやってきた。


時計台が、カン、カン、と鳴る。

町が静止する。


そのとき、ひとりの少年が、そろりと手を動かした。


僕は、ゆっくりと近づき、サングラスを外し、低く言った。


「FBIだ。全員動くな」


少年の目が、まんまるになった。


僕は、少しだけ笑った。

このセリフ、ずっと言ってみたかったんだ。

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言ってみたかった、あの一言。 aiko3 @aiko3

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