第2話 解決編
僕らが図書室で話し合っていたからか、昇降口には、もうあまり人は残っていなかった。
「で、どこが秀くんの下駄箱?」
「えっと」
僕は屈んで僕の下駄箱を開ける。僕の下駄箱は下から数えて1番目。つまり靴を取り出す時に屈まなければいけない面倒な場所なのだ。
「ここだ。」
二人も屈んで僕の下駄箱を覗く。当然今の状態は、外靴しか入ってない。
「で、例のラブレターはどこに置かれていたの?」
「それはだな。こんな感じだ。」
僕は下駄箱に入っていた、外靴を外に追いやり、ポケットから取り出してラブレターを取り出す。
そして下駄箱の中の下の段に置いた。下駄箱は二段になっており、上と下、両方靴を入れらるようになっている。
そのため、下の段に普通の靴を入れ、上に外履きを入れることで上靴を汚さずに済むような仕組みだ。
今回、ラブレターが置いてあった場所は外履きの空いているスペース。校外にいるときは外履きを履いているため、空きができているため、ここに置いたのだろう。
「雄星くんもそんな感じ?」
「ええ、そうです。」
ふーん。と興味なさげに答え、星野は立ち上がり、パカパカと他の下駄箱を勝手に開けていく。
「おい、ちょっと。勝手に人の下駄箱を開けたらまずいだろ。」
「いやあ、別にいいでしょ。こんぐらい。ただ、靴を入れるだけのところなんだから。それに、ほらこの下駄箱ってドアがついてるから中身が見えないじゃん。だからさ、開けないとわからないでしょ。もしかしたらまだ残ってるかも。」
わからないって...人のプライバシーとかないのか。
そう言ってパカパカと開けていく、星野。やがて、『お、当たり』と言う声と共に、手が止まる。
「どうした?」
「こんな風に置いてあったの?」
そこにはまさしく同じラブレターが入っていた。どうやら、今日は休みの生徒の下駄箱らしい。
「ああそうだ。」
「なるほどねえ〜。」
パタリと下駄箱を閉じる。
「何か、わかったか?」
「う〜ん。まあ。少しは。」
まじか。これで何がわかったと言うのだろう。ちっとも僕にはわからない。
「でも、もう少し、情報が必要だね。聞き込みに行こう。」
そう言い、またもや、僕の手を強引に掴み、昇降口から離れる。正直、急に手を握られるとドキッとするから、やめてほしい。でも、これを言うと、調子に乗られそうだから言わないけど。
僕の教室に着くや否や、僕達に『ちょっとまっててね』と言って、教室に飛び込む。他のクラスに対する躊躇とかはないのだろうか?
そしてそのまま男子達の方へ進み、
「すいません。ちょっと今朝のことで、いろいろ聞きたくて〜今時間大丈夫ですか〜」
と尋ねる。めざとい女だ。こんなの男子はイチコロだろう。その証拠に、無事白いものを見せてもらっている。
ここからだと遠くて特定できないが、おそらくラブレターだろう。そしてそのまま、他手続きに、他の男子に聞いていき、全員に聞き終わったのか、こちらに戻ってきた。
「どうでしたか?何か、進展はありましたか?」
雄星がそう尋ねるが、星野は無表情で、
「なんも収穫なし。わかったことは、みんな同じラブレターなだけ。」
そう言った。
まあ、それもそうだよな。
となるともう、いく場所もやるべきことも、参照するものも何も残っていない。
「つまり、もう手詰まりか。」
「いや〜そうだね。もう、手がかりもないし。」
はあ。とんだ茶番だった。ただただ、星野に振り回されただけか。
「それじゃあ、帰ろうぜ。雄星。どうやらこの事件は迷宮入りらしいし。」
「まあ、そうですよね。お騒がせしました星野さん。」
僕らは昇降口の方を向き歩き出す。
「結局。イタズラなだけか。」
そうイタズラなのだ。ただのイタズラ。他の男子がルンルンで教室に入ってくるのを見る、ただそれだけのイタズラなのだろう。どうせ明日にはみんな忘れている。
そうして少し歩いた後に勿体ぶっていたのか、ゆっくりと口を開いた。
「でも。わかったよ。真相。」
「え?」
思わず立ち止まり、振り返る。
「本当に?」
そこには真剣な表情をした星野が立っていた。
「うん。本当。デート券にかけて。」
どうやら本当に真相に辿り着いたようだ。
「で、一体誰が、こんなラブレターを送ったんだよ。」
「それはね。」
数秒、間が開く。ごくりと、唾を飲む音が響く。
「今はまだわからない。」
「はあ?今はまだわからない?」
「そう、今はまだ。でも、その時が来たらわかるよ。それじゃあ、その時に会おうね。秀くん。」
そう言い終えたのち、足早に星野は去っていった。
ポツンと取り残された二人。
「結局、わかったのか、わかんなかったのかどっちなんだ?」
7日つまり、一週間後。一週間という時間はあまりにも長い。たとえ、決心したことだとしても、大事な思い出も、ライブの入金期日だったとしても、ほとんどは、忘れている。最後のは私怨じゃないよ。ホントダヨ。
僕は放課後、星野に呼ばれるまで、ラブレターの件は記憶の彼方に放り投げられていた。
「結局、わからなかったんじゃなかったのか。」
「いや、そんなこと言ってないよ。今はわからないと言っただけだよ。」
今日は生憎と雄星は生徒会の打ち合わらしく。星野と二人っきりだ。僕たちは歩き出す。行き先は...おそらく昇降口だろう。
「でも、もう、手がかりがないんだろ。」
「まあ、そうだけど。手がかりがなくても解けるから。」
「随分な自信だね。」
「まあ、デートがかかっているから。」
ふふーんと自慢げにそう言う。
そんな約束したっけ?首を傾げる。そんなこと言ったような、言ってないような。うん言ってない。言ってないや。
「あ、秀くん今、とぼけようとしてるね。でも、証拠があるから。」
星野さんはスマホを取り出し、ポチッとボタンを押す。すると音が聞こえてくる。
『...手を繋いでデート...1日。解決できたらな。』ああ、おわた。これ完全に僕の声だ。というか、なんで僕の音声を普通に録音してるの?
「まあ、でも解決できたらのはなしだけどな。」
「うん、それはわかってる。」
「それで、秀くんはどのぐらい今回の件わかってる?」
どのくらい...どのくらいかあ。
「あんまりだな。」
はあ、と呆れると言わんばかりのため息を出される。
「じゃあ、まずはおさらい。まず、ラブレターは誰に送られた。」
「それは、男子全員。」
そうそうと正解を示すために星野は頷いた。
「じゃあ、なんで、男子全員は困惑した。」
「それは男子全員に送られたから?」
手で大きくバッテンのポーズを取られる。違うのか。
「まあ、それもそうだけど。他にもあるでしょ。」
他か。
「差し出し人がわからないこと?」
「まあ。及第点ってところかな。正確には同じ文章が書かれていたところ。」
「ああ、なるほど」
確かに同じ文章が書かれていたから混乱したのも事実だ。
「じゃあ。別の文章が書かれてたら困惑しなかったってこと?」
「まあ、概ねその通り。」
僕たちは廊下を歩く。廊下を歩いていると、時々『おい、あいつ、星野さんと歩いているぜ。』と言った声が聞こえてくる。けれど、僕が隣にいるからなのか話しかけてはこない。
「あんなゴミムシみたいなのは放っておこう。」
怖。ゴミムシって。
「で、なんだっけ。ああ、そうそう。じゃあ、もし別の文章が書かれていたら?」
「別の文章って?」
「たとえば一人だけ、日時が書かれていたら?」
ああなるほど。これなら僕にでもわかる。
「つまり、カモフラージュってことだ。」
「そう、その通り。ラブレターなんて昇降口から取る時に見られたら一貫の終わり。すぐにクラスに知れ渡るでしょ。だから保険。みんながラブレターを持ってたらバレないでしょ?」
なるほど、木を隠すなら森の中ってことか。
「と思ってたの。昇降口を見るまでは。」
「へ?」
昇降口を見るまでは?
「じゃあ、今は違うってこと?」
「うん。だって、ラブレターが置かれてた場所、外履きが置かれてた場所だったから。」
確かにそうだ。実際僕のラブレターも下の外履きが置いてあった場所だった。
「でも、だからどうしたんだ。問題でもあるのか?」
「いや、大アリだよ。だって今時、ラブレターをしかも白で、ハートのシールまでつけているんだよ。」
「うん。だから。」
「だからって...はあ。」
ため息をつかれる。これで2回目だ。そんなに僕が悪いか。
「そんなラブレターまでこだわってる人が、汚れてる外履きのところに置く?私なら置かない。つまり、本当のラブレターだったら、あんなところに置かないってこと。」
確かに言われてみればそうだ。あんな白いラブレター。泥なんかついた靴を入れてて、下駄箱が汚れてたら一発アウトだ。
「でもって、あの後、わざわざ教室に行って確認したでしょ。全員のは見れてないけど、半分以上の人のラブレターを見たし、その時、渋って見せてこなかった人なんていなかったよ。」
そんなに見ていたんだ。あんな一瞬の時間で。恐るべき、美少女パワー。でも、それじゃあ。
「それじゃあ。振り出しも戻っちゃうじゃないか。」
全員、同じ文章で書かれたラブレター。それでは特別な意味も無くなってしまう。
「いや、振り出しでもないよ。だってこれはラブレターじゃないことがわかったから。これは大きな一歩だよ。」
第一歩ねえ。僕には一歩先すらわからないと言うのに。
「じゃあ、ラブレターじゃないとしたら、他にどんな意図がある?」
「他に意図?」
メッセージを伝えるにしても、同じ文章なんだから、伝えられないし、あんな短い文章で暗号なんて伝えるのは地球一周したって無理だ。だとした、考えられる可能性としたら...
「置いてある場所が関係してるとか。」
この答えを予想してなかったのか、星野は目をまん丸にし、口を開いたままになる。そんなに驚くか?
「へえ、秀くんも、順応してきたね。そうそう、その通り、ラブレターにはもう、何も意味を伝えることはできないからね。だとしたら可能性のあるのは、下駄箱しかない。」
偶然なのか、はたまた、星野がペース配分をしていたのか、星野が言い終わると同時に、昇降口に着く。
「それじゃあ、最後の質問。下駄箱を使うとしたら、靴を入れる以外に何ができる?」
「靴を入れる以外に?靴を入れる以外に何ができるって...何か物を入れるしかできないんじゃない?」
「そう、その通り大正解。」
何が大正解なのだろうか。僕が質問する前に星野はそそくさとと下駄箱に行ってしまう。どうやら、目星がついているらしい。そしてその下駄箱を見つけたのか、パカっと開く。
中には...
スマホが置いてあった。
僕らは、そのまま校舎を出て下校していた。星野さんはちょっと家が離れているらしく、自転車を押している。
「つまり、ラブレターは誰かに向けた物でなく、その人が学校に来ているかを知るためのフェイクだったわけか。」
「そう、その通りだよ。男子っていうのは単純だからラブレターがあったら取らないわけないしょ。」
おっしゃる通りです。
「だから、数日間、待ってもしそのままだったら、学校に来ていないとわかる。つまり、その下駄箱という入れ物を自分のものにできる。ただでさえ、スマホが使うの禁止な学校なのに、うちの学校は持ち込み禁止だからね。授業中使わないにしても放課後の帰り道とかに使いたかったんじゃない?」
「なるほど」
つまり、結局のところ、僕宛のラブレターでも誰宛でもなかったわけだ。残念。
「それじゃあ。私、先行くから。デートよろしくね。」
そう言って手を振り、星宮は自転車を漕いで去っていった。
僕はポツンと取り残される。帰るか。そう思い帰路を辿っているとふと思う。
でも、それって別に自分の下駄箱でもよかってんじゃないか?
そう疑問が思い浮かんだら最後。とめどなく、疑問が押し寄せてくる。
下駄箱なんて、所詮、靴を入れるスペース。スマホなんて小さな物、余裕で入る。ということは、他に意図がある?これ以上に?
そもそもとして、こんな間違いを星野がするか?この僕が疑問に思ったんだ。疑問に思わないわけがない。それに同じクラスでもないのに、あんなに素早く不登校の下駄箱の位置がわかるか?
とすると...
「これすらもフェイクで、真の目的は一緒に行動してとある人の下駄箱の位置を特定すること...?」
僕は一人、ぽつりと呟く。
なんて、そんなのは考えすぎか。
後日。僕の下駄箱には正真正銘僕だけのラブレターが、ご丁寧に上靴の上に置いてあった。
『これで毎日、ラブレター送れるね。手繋ぎデート、楽しみにしているね。
星野由良。』
差出人不明のラブレター 落差 @sakumochi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます