第2話 セカンドライフ



鳥の囀りに起こされた。

図書館での仕事を始めて二日目、まだわからないことが多く残っている。

好奇心をえぐられる事の連続。どこまでも続く記憶の図書館。

未知数の人間が地球で暮らしたことの軌跡が全てここにあるのだと実感している。

昨日は、図書館の全体を見て回るだけで1日を有した。

ひたすらに続く廊下に一定間隔で扉がある。

扉には時代と場所が記載されており、

昨日は2000年代のヨーロッパ地方まで行くことができた。 

普段から運動はしないから、筋肉痛になりかけている

いまだに理解のできない怪奇的な図書館の存在に驚きが隠せていない。

誰がこの施設の存在を知り、運営の利用用途は何なのか。

好奇心の上に少しの恐怖が塗り替えられる。

人の記憶を全て見れることができるということは、人を操作することも可能。

気づけば、鳥肌が立ち、恐怖に心が包み込まれていた。

プライバシーを唱える時代にここまで踏み込んだ施設があり、

人々の記憶を片隅から保管していっているとは誰も想像できないだろう。

人を形成する大事な要素のひとつとも言える記憶が

今や私の手の中で自由に動かして改ざんすることさえもできる。

もちろん、しようとは思わない。

だが、この状況が私の生きていた時代でも普通にあり得ていたことが何よりも怖い。今日するべきことは何も教わっていない。

基本的に自由な仕事のようだ。給料は日給制だそう。

何かの社会実験に巻き込まれたようですこしばかし疑問が残っている。

難しい仕事はなく、不自由なく過ごすことができる。

ベットも以前の1DKとは違い広々としたベットが夜になると現れる。

私が3人ほど横たわれるであろうベットが現れる。

キングサイズのベットなんて前の生活では夢のまた夢。

人気のないこのロビーで難なく過ごせたことに驚きを感じている。

案内人の可愛い男の子に言えば大抵のものは準備してくれる。

彼の作った夕飯はおいしかった。カレーのコクが今も忘れない。

朝ごはんは何かな。ふと思っていると、「おはよう。朝ごはん食べる?」

昨日とは違う服を着た少年がトレーに乗せた食器を落とさないように

注意しながら階段を降りてくる。「うん。ありがとう。」

容姿が年下だから自然と敬語が抜けるが、緊張は隠せず、

ぎこちない感謝の声を発した。

今日の朝ごはんは

和製の高級そうな器に入ったほくほくの白ご飯、

湯気のたつ味噌汁、外国産であろうソーセージ、緑色のブロッコリー。

和食と洋食どちらかわからないご飯だった。

実家の知らない私が実家に帰ってきたかのような

安心感の感じる朝ごはんのテイストだった。

組み合わせは完璧である。「いただきます。」「いただきます。」

横からも男の子の声が聞こえた。

自分の子供でもいいような年頃の子供と朝ごはんを食べる日が来るとは。

愛着が湧いてきた気がしてきた。

「何見てんだよ」

鋭い目つきで漆塗りのお椀に入った味噌汁を口で冷ましながら男の子は言う。

やっぱり愛着なんか湧きそうにない。

こんな可愛い容姿でこんな口先だとは。

もっと元気いっぱいの可愛らしい男の子がよかった。

願望の込み上げる頭に美味しいお味噌汁の味が染みていることを味覚が教えてくる。「君が作ったの?」「ハンドメイドじゃあいやですか?」

少しおちょくるように男の子は言う。

「美味しい。」顔を見合わせて真剣な顔でそう告げると。

男の子は目を少し逸らして頬を赤らめた。「こんなのも作れないの、おばさん。」

やはり可愛くない。言わなくていい一言が多すぎる。可愛げないな。

ブロッコリーは苦手。小さな頃から嫌いな食べ物だ。緑は危険。

そんな価値観が植え付けられている。

やはり、嫌いだな。

隣の男の子はマヨネーズをたっぷりかけてさっきとはまるで違う笑顔を見せている。可愛い。二重人格。と思いつつ、

私はブロッコリーを男の子の皿に全て避けようとする。

「おばさん。好き嫌いするんだ。僕より子供だね。」

先ほどとは違ういやらしい笑顔をこちらへ向けてくる。

嫌な案内役に担当されたものだ。

環境に求めすぎる私の性格は以前と変化していないようだ。

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