そりゃソリティア

白川津 中々

◾️

 残業中、気晴らしにソリティアをやっていたら終電を逃していた。


「うっそだろおい。五時間ぶっ続けでスパイダーソリティアプレイしちゃってんじゃん。どないしょ」


 パソコン触りたてのジジイみたいなムーブをかましてしまって大変ピンチ。家に帰れないのもそうだが明日必要な資料が身着手。なぜかって? ソリティアやってたからだよ! しかしこれはまずい。残業で何やってたんだバカ案件。ちゃちゃっと処理しなければ明日死ぬ。今夜は徹夜だ。


 資料作成開始。キーボードを無心で叩くも、すぐにバックスペース。入力内容と一進一退の攻防を繰り広げながら0に帰結する。why。なぜ。分からん。ともかくテキストが固まらず、ひたすら無意な時間が過ぎていく。考えなくてはいけないのに考えられない。イライライライラ。そうだ、気分転換にソリティアをやろう。アプリを起動。カードを重ね、重ね、重ね、気付いたら朝。朝日と真っ白なドキュメントに目が眩む。


「……しゃあない」


 本日限りで辞めさせていただきます。


 テキストに残した退職の意思、きっと誰かが汲み取ってくれるだろう。できないものはできないし、できない奴はいらない。つまり俺は会社にいらないってこと。なら潔く辞めちゃった方がいいよね! さぁ自由だ。とりあえず一杯飲んで、何をやろうか……いや、決まっている。そうとも、それしかない。


 帰り際、コンビニでウィスキーを買い、歩きスマホ。ストアでアプリをダウンロードするのはもちろん、ソリティア。


 しばらく、ソリティアだけしていよう。


 俺のニート人生はまだ、始まったばかりだ。

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