これがボクの家の雪合戦だ
藤泉都理
これがボクの家の雪合戦だ
なあ、雪合戦やろうぜ。
友人の提案に中学一年生の少年である
こいつは何を言っているんだと。
雪など積もってないばかりか降ってすらいないのだ。
一週間後にはもしかしたら平地でも降るとは天気予報で言ってはいたが、今日はそうではない。びゅんびゅん風はとても強いが気温は二十度前後。暖かい。雪が降る気配皆無である。よしんば降ったとしてもすぐに消えてしまうだろう。
じっと、
冬夜は同じ学年であり、顔が隠れるくらい大きな黒縁眼鏡をかけている少年、
自ら過ちに気付いてほしいとの思いやりであった。
雪合戦はできない雪がないのだから。
しかし、成季は冬夜の視線の意味など気付かず、移動しようぜと言い出し、読んでいた漫画本を机の上に置いて立ち上がったのだのだ。
もしや。
冬夜の全身に雷に打たれたが如き衝撃が駆け走った。
(もしや、成季の家って、大金持ちだったのか? 地下に大きな部屋があって、そこで人工雪を降らして雪合戦を楽しんでいたのか? いや。大金持ちを招待してみんなで雪合戦三昧………いやいやいやいや。ないないない。だって俺と成季は幼稚園からの付き合いだけど一度だって雪合戦に誘われた事はないし………つまり。最近大金持ちになった。のか。大金持ちになって雪合戦をいつでもできる空間を創り出した。と、)
マンガ読み放題だぜイエーイという気楽な気持ちから一変、重々しい空気に押し潰されそうになった冬夜も読んでいた漫画本を机の上に置いて、成季の背中を追い続け、そうして辿り着いたのは、見慣れた畳敷きの居間。
見慣れないのは、天上に着きそうなほどに大きな大きなクリスマスツリー。飾りつけはされてはいない。冬夜がいつも目にしているのは、飾り付けが完了しているクリスマスツリーであった。
「ボクんちではさ。クリスマスツリーには雪、つまり綿と、天辺に星しか飾り付けていないだろ。ほら。ボクに妹いるだろ。こより。こよりとさ。雪合戦だって言いながら、クリスマスツリーに綿をどっちが芸術的に飾り付けられるかって勝負してたんだけど。なんかさ。もうそんな子どもっぽいをしたくないって、今年から急に付き合ってくれなくなってさ。父さんも母さんも仕事で付き合ってくれないし。一人で雪合戦なんてしないだろ。冬夜なら一緒にしてくれるかもって思ったんだけど。どうだ?」
「っふ。おめぇ」
成季は人差し指で鼻を何度か擦ってのち、バチコンっと星が飛びだしそうなウインクをした。
「駅前のクリスマスツリーのイルミネーションなんて目じゃないくらい芸術的なクリスマスツリーに仕上げて、こよりちゃんをあっと言わせようぜ」
「冬夜………っふ。ぶざまな飾りつけはしてくれるなよ。もしも目も当てられない飾りつけをしたら、二度とキミにマンガは貸さないぜ」
「ほざけ」
黒縁眼鏡のブリッジを人差し指と中指で押し上げては不遜な笑みを浮かべて宣告した成季に対し、腕を組んでは不敵な笑みを返した冬夜だった。
「「さあ、雪合戦の開始だ」」
いっぽ、また一歩と、
冬夜と成季は大きな大きな綿を抱えてはクリスマスツリーへと慎重に近づいたのであった。
(2025.11.27)
これがボクの家の雪合戦だ 藤泉都理 @fujitori
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