如月鈴音の謀略!21世紀中頃に日本が世界を支配する!
白狐姫と白狐隊
第1話 如月鈴音の謀略!21世紀中頃に日本は世界を支配する!
1953年7月27日、朝鮮戦争が終結した。この日から1カ月経過したとある日、
皇居において昭和天皇陛下の御臨席の元、秘密の御前会議が開かれていた。
参加者は当時の政財界の重鎮と主要な官僚達。
そしてこの会議の議長を務めるのは、八百比丘尼を代表する如月鈴音である。
彼女は会議の冒頭にあたってこう言い放った。
「先の大戦が終戦して8年余り、日本国臣民は耐え難い困苦に耐えて国の復興に尽くしてくれました。朝鮮戦争の特需もあり、我が国は再生への道を歩み始めています。大戦の敗北により、もはや軍事力に頼った国家の興隆は不可能となりましたが、
国の興隆は軍事力に頼らずとも可能です。ここに集まった皆様と、大戦で亡くなった英霊諸氏に大日本帝国の復活を誓い、共に身命を賭して挑みましょう!」
こうして始動プロジェクトは極秘裏に大日本帝国再生戦と名付けられ、
日本のあらゆる政策を統合的に運用して、再び世界にのし上がる事を目標とした。
かなり長期に及ぶ戦い…それはおそらく世代を超えたものなると思われる為、
不老の八尾比丘尼である如月鈴音は、その総指揮官としてうってつけであった。
1960年代に入ると、日本では国内の規制緩和によって新興自動車メーカーや家電
メーカーが産声を上げ、次から次へと安価な商品を世界市場に投入する様になった。
やがてアメリカから、【まるで洪水】と揶揄された怒涛の輸出が始まる。
その一方鈴音は、うどの竹の子の様に生まれる企業が共倒れを起こさない様に
整理統合し、競争力がより高まる方向へと調整した。いざなぎ景気(1965〜1970)によって、日本の経済力はGDPで世界第2位にまで回復する。
「1954年に自衛隊を創設しましたが、今は軍備にお金を掛けている時では
ありません。産業と経済の再生が最優先です。日米安全保障条約を締結し、
日本の主な防衛はアメリカの金でやります。
反対する馬鹿どもは問答無用で叩き潰します!」
「他国で生産された、日本企業の競合製品の輸入には、様々な関税や法規制を
かけてその拡大を阻止します。日本の国内市場は日本企業の成長の為にあるのです。
官僚の皆様の奮闘に期待します!」
鈴音のこの号令により、日米安全保障条約の反対勢力は実力で叩き潰され、
各省庁は関税や様々な輸入規制を乱発する。
この為日本の国内市場は外国に対して閉じられ、その利益は日本企業に落ち、
国内企業の成長を促進する事になった。1970年代になると、イスラエルと
アラブ諸国の紛争によって原油価格が高騰し、日本は一時インフレに悩んだが、
インフレを上回る経済成長を実現する事で危機を克服する。
一方、この頃のアメリカは繁栄を謳歌し、ドル高を是認し、自由主義陣営からの輸入には基本おおらか…と言うか、おおらか過ぎであった。鈴音はこのアメリカの隙を突く。1970年代に入ると、鈴音の戦略による日本からの怒涛の輸出によって、まず競争力のないアメリカ繊維産業が壊滅した。オイルショックによってガソリン価格が高騰しているにも関わらず、ガソリンを大量に食らう大型車ばかりを作り続けるアメリカの自動車メーカーも危機に陥る。1970年代に技術的に進化した、
小型低燃費で安価な日本車がアメリカ市場に急速に浸透したからだ。
「このアメリカ自動車市場での戦いは、先の大戦の雪辱戦です!
国も全力でバックアップします!き奴らは、かつて日本国臣民を苦しめた
グラマン戦闘機を作りやがった仇敵、情けは無用、叩きのめしなさい!」
如月鈴音の大号令の元、日本車は怒涛の様に輸出され、市場を席捲。GM、
クライスラー、フォード、ビッグ3と呼ばれるアメリカの巨大自動車メーカーは
1980年、ついに労働者の約4割の一時帰休を余儀なくされる。この年、日本の自動車生産は1000万台を突破し、アメリカを上回って世界一となった。さすがにアメリカの労働組合が政府に泣きつき、これ以降、日米の間で自動車を中心にした
貿易摩擦が激化する。
「過ぎたるは及ばざるに如かず、アメリカ国内に日本の自動車工場を作って雇用を
創生します。アメ車の輸入関税もゼロにします。あんな大食らいのバカでかい車、
ほっといたって、どうせ日本じゃ売れません。アメリカ国民を丸め込みなさい!」
鈴音のこの懐柔政策により、日米の貿易摩擦は次第に鎮火していったが、
ビッグ3はその後も徐々に衰退を続けていく事になる。
しかし、日本の経済的発展に脅威を感じたアメリカは日本に対する反撃を始める。
世界の基軸通貨である米ドルへの為替介入、意図的に通貨価値の大幅な変更を行う…である。それが1985年9月22日、先進5か国(G5)財務大臣・中央銀行総裁会議により発表された、主に日本円の為替レートの大幅変更の合意、世に言う、
【プラザ合意】であった。これにより急激な円高が始まる。
この当時1米ドル=235円であった円は、約1年後に1米ドル=150円前後まで
値を上げる事となった。この急激な円高で、日本の輸出産業は大打撃を受けた。
「キーーー!!やりやがりましたわね!自分の国の通貨が世界の基軸通貨な事を
良い事に、一方的に為替レートを自分達の有利な方向に誘導するとは!
白人どもはいつもやり方が汚いですわ!都合が悪くなると自分勝手にルールを
変えやがる!」普段は物静かな鈴音がいつになく激高した。
このプラザ合意による為替レートの大幅な変更は、円安による輸出主導で経済成長を遂げて来た日本にとって、これまでの方針転換を強いる強烈なものであった。
「ふん!でもこれまでの25年程で、国内に富が随分蓄積出来ましたわ。
このおかげで産業構造を変化させる事も可能、内需で成長する策を取ります。
公共事業を拡大し、公定歩合(金利)を下げ、景気刺激策を行います!
それに為替はもろ刃の剣。円高のお陰でお安くなった海外の優良資産を、
買い漁って差し上げます!」鈴音は息まいた。
この施策によって日本はいわゆるバブル景気に突入する。公共工事の大盤振る舞いや金融緩和によって溢れた資金が、株等の有価証券や土地などの投機に向かいだしたのだ。こういう景気拡大が全て悪い訳ではないが、本来の需要に見合わない価格は、いつか下がる時が訪れる。拡大し過ぎた景気を押さえる施策…1990年に総量規制や金利の引き上げを鈴音が始めると、いわゆるバブル崩壊が起こった。
この時発生した主に金融セクターの不良債権処理の為、1991年から10年あまり、
日本は経済的に停滞する。しかし鈴音は涼しい顔だ。
「経済政策とは難しいものですわ。
でも、これは誰かがいつかはやらなくてはならない問題。
むしろ早く自力で解決出来た事を誇りに思いましょう。
幸い臣民の努力で国内の産業も安定し、技術的優位も確立して来ました。
全体のバランスを取り、今後は貿易、内需、優良資産への投資の3本柱で、
安定的な収入が得られる様にします。
コツコツ真面目型農耕民族の怖ろしさを教えてやるとしましょう!」
実際、こうした資産バブルは多かれ少なかれ、経済的に発展した国では
どこでも起こっていた。日本の事を笑える状況にはなかったのだ。
1997年にはアジア通貨危機が起き、続いて2007年、いわゆるリーマンショックが
世界を襲う。これはアメリカのサブ・プライムローンを証券化した債権を、全世界の金融業者が金融商品として売りまくった事が原因…。いずれにせよ、市場で溢れた
余剰資金が、投資先を求めて信用価値は低いが利率の高い金融商品に流れ込み、
その価格が暴落した為に起こった。構造としては日本のバブル崩壊と何も変わる
ところはない。この結果、世界経済の冷え込みで日本もかなりの損害を
被ったものの、それ程のめり込んでいなかった日本は、他の主要国に比べて
傷は浅かった。2008年9月15日にはアメリカのリーマン・ブラザーズという
巨大投資銀行が倒産し、翌10月には伝統あるアメリカの巨大銀行、
モルガン・スタンレーが倒産の危機に瀕していた。
モルガン・スタンレーは倒産を逃れる為、アメリカ政府の外交ルートまで使って
必死に支援先を探すが、直前まで支援するそぶりを見せていた韓国産業銀行が逃げ、
アメリカ議会も公平性の観点から1企業を国家として救済する事を拒否、
中国政府も支援を断った。もはやこれまでかと思われた、と…その時、
三菱UFJ銀行がモルガン・スタンレーに9000億円を緊急出資し、
この伝統ある銀行は寸でのところで倒産を免れる。
「うふふふ。アジアの黄色い猿が設立した銀行に救われるなんて、
伝統あるモルガンにしてみたら内心忸怩たる思いがあるでしょうけれど、
9000億円は優先株として年利10%のリターンを頂きますし、
役員も2名派遣させて頂きますわね。お金はあるところにはあるものなのです。
これは良い買い物をさせて頂きました」
ちなみにこの投資で2023年までに得られた利益の累計は2兆1000億円である。
20世紀末以降、全世界が過剰消費に伴う借金に狂奔する中、技術開発と優良資産に対する地道な投資を続ける日本の対外債権は毎年積み上がり、いつしか世界最大の債権国となっていた。どこの世界でも人は金持ちに群がるものだが、そうこう
している内に、日本を国連の常任理事国にすべきだと主張する国が多数現れだした。
国連を通じて日本の金をせびろうというのである。
それを知った鈴音は内々に中国政府と韓国政府に指令を飛ばす。
「過去の恩は忘れていませんね?中国共産党が国民党に勝ったのは、旧日本軍の
武器を供与してあげたから。韓国が朝鮮戦争の廃墟から立ち上がれたのは、
全て日本の支援によるもの…。早速全世界に向けて反日を声高に叫び、
日本が常任理事国入り出来ない様に動いて下さい。そんなものに就任させられて、アフリカや中東の土人どもの仲裁とか、南アジアのイスラム狂どもの仲裁とか、
ごめんですからね。そういうの、無理ゲーです」
リーマンショックの後もギリシアやイタリアで金融危機が起き、EUは全体として
衰退に向かっている。彼らの多くはその資産を時価ではなく取得価格で計算しているから、いくら損しているのかは当事者しか知らないだろうが、
その額は天文学的なものになるはずである。
2025年を迎え、世界の主要国は日本国を除くその全てが借金で首が回らなくなりつつある。アメリカの借金はトータルで100兆ドル(およそ15000兆円)、中国の借金は1000兆元(約20000兆円)と言われ、全世界では円換算で65000兆円の借金があると見られている。これは全地球のGDPの約4年分に相当する。実の所、
世界経済は火の車…自転車操業なのだ。どこもかしこも金がない。金がない。
近年、高金利政策を取るアメリカは、自国の国債の利払いに毎年に約1兆米ドル
(約150兆円)を支払っているが、その最大の受益国は日本である。
日本は毎年、世界への投資から20兆円~25兆円規模の投資収益を得ている。
ありていに言えば、全世界に金を貸し込み、そこから多額…
世界最大の利息を得ているのである。
鈴音は静かにほくそ笑む。
「アメリカがこの調子でどんどん利払いしてくれれば必然的に米ドルは市場に溢れ、その価値は薄まります。ほっといてもその内基軸通貨の地位を維持できなくなる
でしょう。欲の皮の突っ張ったアメリカの白人どももそろそろ年貢の納め時。
目出度い事です」
「最近は中国がデカい態度を取りやがりますから、大きなお灸を据えてやろうと、
ここ数年、資金ルートをいくつか遮断してやったら、あっという間に経済崩壊
してこの体たらく。無能な共産主義者どもはほっといても破産するでしょうから、
このまま放置ですね。ざまあみろです!」
「小癪なハゲタカファンドも、日銀波動砲でこの20年程の間に
5千社は叩き潰しましたから、最近はおとなしい様ですね」
「ロシアとウクライナの野蛮人ども、イスラエルとパレスチナの野蛮人ども、
中東や南アジアの野蛮人どもも、アメリカとヨーロッパの衰退を促進してくれている様ですね。元々あ奴ら白人どもが事の発端を作った訳ですから、当然の報い。
これも放置ですね」
「2024年末段階で積み上がった日本の対外純資産は533兆500憶円。
昨今の円安のおかげで、累計の為替差益がもの凄い事になっていますわね。
去年もあちこち高利回りで貸付けたおかげで、2025年上半期の経常収支の
黒字は17兆5128億円。過去最高益で笑いが止まりませんわ…」
「うむむむ…如月鈴音…お主も悪よのう…」
「うふふふ…高位置総理ほどではございませぬ…」
「今世紀の中頃までには、我が国が国際経済を牛耳るであろうか…?」
「総理…その予定は早まる可能性が高いですわ…うふふふ」
バサン!!
「こ、これがCIAの国際諜報本部からの最新の報告かね?」
アメリカのトランプ大統領は、読み終えた報告書を執務室の机の上に放り投げた。
「はい、その通りであります。大統領閣下!」
CIA長官のジョン・ラトクリフは答える。
「これが本当ならえらい事だが…」
「はっ!しかし、実際に報告書の通り、世界が動いているのも事実です。
今年の予算執行の為の米国債の発行額は、過去最大の巨額なものになる
予定であり、その内かなりの額は…」
「日本に買って貰わなければならないという事か…」
「はっ!その通りであります。大統領閣下!」
「我が国はもはや日本という、極東の国の手のひらの上で踊らされているに
過ぎんのかもしれんな。先の大戦に勝ったのはわが国だったはずだが…」
「はっ!大統領閣下、その通りであります。尚、本日、この報告書の中心人物である如月鈴音より、大統領閣下宛に電報が届いております」
「読ませて貰おう」
トランプ大統領は、電報を受け取るとおもむろに目を通す。
そこにはこう記されてあった。
「親愛なる大統領閣下、忍者の母国である我が国で諜報活動を行うなど笑止、
我々は全てお見通しです。閣下のお国の諜報員の100倍優秀な忍者達が、
今日も大勢アメリカで諜報活動している事をお忘れなく。
今年の米国債の入札が楽しみです。最後に親愛なる大統領閣下に、
我が国に古くから伝わる金言を授けましょう。【長い物には巻かれよ】」
これを読んだトランプ大統領は、しくしくと涙を流した。
【涙拭けよ】
ジョン・ラトクリフはそう思った。
如月鈴音の謀略!21世紀中頃に日本が世界を支配する! 白狐姫と白狐隊 @hayasui
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