未成年は見ちゃいけません!〜成人漫画で学校を救えますか?〜
七月大介
第1話
1
※この作品に登場する人物は全員18歳以上です。
その日の江呉須高等学校は朝からざわついていた。
「今日、閲屋が学校に来るらしいぜ」
「ついに停学が明けたのか……待ちわびたぜ」
男子生徒たちは喜々として彼の登校を待ちわびており――
「うわー。マジで最悪……今日早退しようかな」
「あいつの顔見ることになるとか無理すぎ」
女子生徒たちは心の底から彼の登校を拒絶していた。
「奴の動向には注意するように!」
「もちろんです。これ以上、我が校の評判を落とすわけにはいきません!」
職員室では、早朝から緊急会議が開かれ――
「諸君。当店の蔵書は十分か?」
「発注したものは全て店頭に陳列済みです!」
私立江呉須高等学校の近所にある本屋では緊急体制が敷かれていた。
2025年11月21日金曜日。
2年B組出席番号6番、閲屋幸喜の停学明け初日の出来事である。
◇
なんだろう、この晴れやかな気持ちは。
世の中の学生といえば、学校に行きたくない奴が大半を占めるはずだ。
俺だって本来は月曜日が来るたびに憂鬱だった側の人間である。
だけど、2ヵ月ぶりの登校ともなれば、どこか新鮮な気持ちで通学路を進むことができた。
本来は通学中ともなれば周りに同じ制服の人間が大勢歩いているものだけど、今日は停学明けということで3時間目からの登校となる。
遭遇した女子生徒に咄嗟に距離を取られるなんてこともないから、完全にノンストレス。
校門には、見るからに屈強な体を持った男が立っていた。確か、体育科の保科先生だっけか。
「おはようございます」
「ああ。おはよう、閲屋。早速で悪いが、鞄の中を見せてくれ」
「はい、どうぞ」
このムーブは予想済みだ。
俺が開けて見せた鞄の中には、教科書、ノート、筆記用具の入った袋と学校に必要なものしか入れていない。
「筆記用具入れの中も見せるんだ。USBメモリとか入ってないだろうな?」
……ここ、学校だよね。
まるでスパイ容疑でもかけられているかのような警戒ぶりだ。
世の中にはUSBメモリを持ち込んだだけで解雇になるような会社の部署もあるらしいけど、そこだってここまでチェックされることはないだろう。
もちろん筆記用具しか入れていないから、隠すことなく筆記用具入れの中も見せる。
「よし。入ってよい。停学明け、おめでとう」
保科先生のチェックを無事に通過すると、昇降口で上履きに履き替える。
俺の教室である2年B組は2階にある。階段の前には、科学科の教師である川本先生が白衣姿で待ち構えていた。
「やあ、久しぶりだね。鞄の中を見せてもらっていい?」
「それさっきやりましたけどね!?」
「まぁまぁ。校門からここまでの間で何か拾ったり受け取ったりしてるかもしれないでしょ?」
……改めて確認したい。ここ、学校だよね。
仕方なく、再び鞄の中を見せる。
「……何やってんですか?」
川本先生は棒状の道具から僕の身体に赤外線のようなものを当てている。
「あ、これね。カメラの探知機。盗撮とかしてないかなって。うん。問題なさそうだね」
そこまでするのか。江呉須高等学校の教師は。
この16年間生きてきて盗撮なんて一度もしたことないんだけど、すると思われてるんだろうな。きっと。
そんな厳重なセキュリティを潜り抜けつつ、俺はようやく2年B組の扉を開ける。
どうやら自習中だったらしく、教室内はクラスメイトたちの話し声で賑わっていたが、俺が登場するなりシンと静まりかえる。
「やあ、久しぶり。元気だった?」
途端、男子生徒たちが席から立ち上がって俺の周りに一斉に集まってくる。対照的に、女子生徒たちが一斉に距離をとる。
見慣れたいつもの光景すぎて、なんだか微笑ましい。
「閲屋も元気だったか。なんだおい、少し瘦せたんじゃねえのか?」
「2カ月ぶりだな。もうすぐ期末テストだけどちゃんと勉強やってたのかよ」
相変わらず親しくしてくれるのは、見覚えのある面子だった。
こうやって出迎えてもらえるのなら、心の底から学校に来て良かったと思える。
胸の辺りに温かさを感じていると――
「おい。まずは俺への挨拶が先じゃねえのか?」
ドスの効いた声がして、男子生徒たちを分け入って飯田悠斗が姿を見せる。
金色に染めた髪に、だらしなく着こなした制服。
教科書通りの不良は、見た目通りガチガチの不良だったりする。
江呉須を中心に活動している武闘派の暴走族『
さすがは都内屈指の底辺高校。こんなのも普通に存在していたりするから面白い。
「てめぇ、例の約束わかってんよなぁ?」
長身の飯田君が俺を見下ろしてくる。
……ふ。もちろんわかってるさ。
「今日、自分のロッカーを確認したかい? まだなら見てみるといい」
「あぁ? まさか――」
飯田君は慌てて教室の後ろにある自分のロッカーへと向かう。
「こ、これは――――っ!?」
飯田君がロッカーから取り出したのは5冊の単行本。
「遊〇の校内〇生!? まさか、本当に入手しやがったのか!?」
「しかも初期単行本未収録エピソードが収録されてるやつだよ」
「閲屋……やっぱ、おめぇすげえ奴だよ」
聞き慣れた賞賛ではあるけど、褒められて悪い気分はしない。
それに、暴走族の総長から尊敬のまなざしを向けられるやつなんて、この世に中々存在しないだろう。
そんな俺たちのやり取りをみて、男子生徒たちがどよめきだす。
「おい、閲屋……まさか……」
「ああ。みんながリクエストしていた物も既に入れておいたさ」
俺の言葉を受けて、男子生徒たちが一斉に自分のロッカーへと向かう。
「そう、これなんだよ! 俺が読みたかったうたたね〇ろゆき先生の同人誌!」
「うっはぁ! これが伝説のキャン〇ィクラブか!」
「これ、昨日は無かったよな。まさか、昨晩のうちに学校に忍び込んで――」
「なんてこった。……俺たちにエロ本を届けるためにそんな危うい橋を渡るなんて」
そうそう。この反応が見たかったんだ。
今となっては入手しづらいエロ本をクラスメイトたちに届けるのは、もはや俺の使命とさえ感じている。
エロで繋がった絆は、何よりもかけがえのないものだから。
「わかってるとは思うけど、俺の大事なコレクションだから大事に読んでくれよ。変な染みとかつけないでね。返却は郵送でも受け付けております」
貸出機嫌は特に設けてないけど、基本的に一人一冊。シリーズ物なら1シリーズのみ。そして借りた本は大事に扱うこと。
約束を守れる人のみにコレクションを貸し出すシステムは、未だに一度も違反者が出ていない。お陰様で僕も喜んで布教できている。
うんうん。本は多くの人に読んでもらってこそだからな。
「あのさ、閲屋。この前見た広告でタイトルが知りたい漫画があるんだけど」
そうやって話しかけてきたのは、遠藤君だった。彼は長年付き合っている彼女がいるというのに、オカズはエロ漫画一択という将来有望な紳士だ。
「『女の子は学生でしたか?』」
「はい」
「『行為の場所は学校でしたか?』」
「いいえ」
「『女の子は巨乳でしたか?』
「はい」
「『女の子の髪の色は黒でしたか?』」
「いいえ」
「『正常位でしたか?』」
「どちらともいえません」
「『女の子とは同居してましたか?』」
「はい」
なるほど。そうきたか。
俺は遠藤君の好みから推測し、導き出した答えをスマホで検索してみせる。
「君がお探しなのは、『ホムンク〇ス』先生の『求愛エト〇ンゼ』ではありませんか?」
『〇蛙』先生の『恋のち〇尾』と迷ったが、女の子と同居してたというなら『求愛〇トランゼ』の逢瀬ちゃんで間違いない。
「今日も出たな。閲屋君の『エロ漫画アーキネーター』だ」
「学校の近くにある本屋の売上倍増間違いなしだな」
そんなあだ名をつけられていたとは知らなかった。いや、確かに質問の仕方はちょっと意識してたけどさ。
「そう! 俺が探してたのはこれだよ! 早速、今日の放課後に本屋で探すよ!」
そして、遠藤君の探していたエロ本は『求愛エトラ〇ゼ』で合っていたようだ。
最近のエロ本は電子書籍もある作品が多いけど、遠藤君のように彼女にスマホをチェックされるからという理由で本屋に行くという人は意外と多い。
なに? 未成年はエロ本を買えないだろって?
画面を上にスクロールしてみてくれ。ちゃんと書いてあるだろ?
『※この作品に登場する人物は全員18歳以上です』って。
あとくれぐれも忠告しておくと、この作品は未成年には理解できない内容も多いから、未成年は見ちゃいけません!(タイトル回収)
「……あーあ、閲屋が来ると大体こうなるよね」
「男子ってほんとバカだなぁ」
「女性向けの本に詳しければレンタルしたいけどさ」
「あんたね……」
遠くの女子生徒のひそひそ話がうっかり耳に入ってしまう。
実は、女性向けジャンルの知識がないわけじゃない。でも、男性向けジャンルだけでも山ほどあるのに、女性向けまで手を出してしまったら我が家の改築が必要となる。
っていうか、女子校生にエロ漫画貸すのはさすがに犯罪臭がする。
顧客は男子だけでお願いします。
「おい。何の騒ぎだ!」
そこへ現れたのは、我らが2年B担任の柊先生。31歳にして結婚2年目。イケメンで生徒思いだから生徒たちからの評判はそこそこ良さげだ。
柊先生は騒ぎの中心にいる俺を見つけるなり、わかりやすく深いため息をつく。
「閲屋、頼むから停学明け初日くらいおとなしくしてくれ」
エロ本をレンタルした男子生徒たちに動揺が見えた。
しまった。柊先生が来るタイミングが早すぎる。まだみんなそれぞれのエロ本を隠しきれていない。
せっかくレンタルしたというのに、読む間もなく没収されてしまっては俺の苦労も無駄になる。
……仕方ない。ここは俺が盾となろう。
俺は一番傍にいた青柳君からエロ本を咄嗟に奪い取ると、柊先生に向けて歩み寄る。
「先生も色々とお疲れだと思います」
「そうだな。お前のお陰で余計に疲れてるよ」
「そんな先生も、男ですよね。たまには息抜きをどうでしょうか?」
俺は青柳君から奪い取った本を柊先生に渡す。
青柳君、ごめん。君に貸す本はまた改めて買い直してレンタルするよ。
そういえば、青柳君に貸した本ってなんだったっけ?
「閲屋、これはなんだ」
俺は改めて柊先生に差し出した本のタイトルを読む。
あー……、そういえば、そうだった。
本を奪い取る人選を明らかに謝っていたけど、今更後には引けなかった。
「『茶〇』先生の『レ〇プ イズ ライフ』です」
◇
その日の放課後、江呉須高等学校の校内は朝よりもざわついていた。
「今日、閲屋がまた停学になったらしいぜ」
「あいつ、一体学校に何しに来てるんだ」
「……さすが『歩く有害図書』。まったく、恐ろしい奴だぜ」
未成年は見ちゃいけません!〜成人漫画で学校を救えますか?〜 七月大介 @nanatsukidaisuke
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