本所、旧上岡邸
するってえと
「やれやれ、今日はやたら
上岡邸は町中を少し外れた所にあった、あの皿数えの幽霊が出るってんで土地の者は近寄りはしない。旦那も新作のネタだと軽い気持ちで行ったが、どうにもそこだけ空気が違う。
こういうあばら家だって雨風は
ごぉぉ〜ん
と寺から時の鐘がなる、暮れ六つだ。お天道様は西に沈んで赤から次第に青みがかって、
「参ったね、提灯はあっても火種が無ぇや」
するとポッと旦那の横で火が灯る。
「あ、すみませんね。火を
と手馴れた感じでロウソクに火を灯し、旦那はそこでハッと気付く。
「ちょっと待て、俺以外誰も居ねえよなぁ?」
すると井戸の周りにポッ、ポッと人魂が2つ3つ現れて井戸を照らす。すると浮かび上がるように死装束の女が悲しそうな
「いちまぁ〜い、にまぁ〜い」
と数えはじめる。うわぁ!よせよオイ!
旦那の頭にフッと浮かんだのは番町皿屋敷のお菊さん、9枚まで数えると10枚目が無ぇとその場に居た奴が呪われちまう。逃げたくても脚が
「さんまぁ〜い、しまぁ〜い」
「ごまぁ〜い…」
そこで思わず口に出た。
「お恵さん、今
「へぇ、六つ時で。ななまぁい、はちまぁい、くまぁい、じゅうまい……10枚?」
「1枚、2枚、3枚、
お恵は小首を
「1枚、2枚、3枚、
「お恵さん」
旦那は井戸を指さして
「肝心の10枚目は(井戸の)
「ああ、そうでした。私が井戸に落としたんです」
そういうとスウッと姿は
「え?あの上岡邸に行ったんで?」
「ああ、
と、昨夜の
「げに、女の情念とは恐ろしいものよなぁ」
「旦那、痴情のもつれじゃァ無ぇんだから
「綺麗に締めたかったが、こいつぁ残念だ」
時皿という、
[幕]
創作落語[時皿] 狸穴亭銀六 @ginnrokumamiana
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