お菊の妹、お恵
江戸の昔、
「黄表紙の旦那ぁ知ってるかい?皿数えの井戸」
「ああ、
「実はな、あの皿数えの井戸。もう1つあるらしいンだよ」
「え、あんな物騒なモンがもう1個あるのかい?」
「置いてけ堀なんてそこかしこにあるんだから、そんな井戸がもう1個あってもおかしくあるめぇよ」
「そういうモンかねぇ?」
「でな、こいつぁ俺ン所の大家に聞いた話だけどよ。今はお取り潰しになった旗本の青山様に奉公してたお菊さんにはよ妹が居たってんだよ」
「四ッ谷のお岩さんにお
「なんでも
「ふむ、上岡様の家に奉公した、お菊の妹の、お恵さんか。うえおか、きく、け…また綺麗に並んだもんだね。そのお恵さんも無礼討ちで斬られたクチかい?」
「いや、お恵さんの場合はちょっと違うらしいんだ。俺もね、大家さんから聞いた話なんだけどよ。お菊さんの妹なだけあって器量は良くて仕事も真面目だったんだ、ただ…」
「ただ、どうしたい?」
「チョイと
「それが井戸とどう関わるンでぇ?」
「上岡様も10枚1組の皿を持っててな、お恵さんは井戸の隣で洗ってたんだとよ。その途中、手をつるっと滑らせて1枚井戸に落としちまった」
「それで斬られ…て無ぇんだよな、まあ、茶でも飲みねえ」
「済まねえな。お恵さんは斬られるのを覚悟して上岡様に
『殿様より拝領せし10枚1組の皿、不手際で1枚無くしてしまい
「青山様とは偉い違いだね。で、上岡様の首1つで済んだのかい?」
「いや、殿様も出来た御方でよ」
『皿より命を大事にするは
『ははー』
「ってんで上岡様ぁ許された訳だ」
「うん、それでまだ井戸の幽霊とどう繋がるンでぇ?」
「話の肝はこっからよ、蟄居するってぇ事は体面を気にするお武家様にとっては恥だ、流石に竹で門を囲った訳じゃァ無ぇが、
「あ、井戸じゃ無ぇんだ」
「慌てるンじゃねえ。それから毎夜毎夜、井戸からお恵さんのすすり泣く声がしてよ、こう…1枚2枚と数えて1枚足りねぇって数えるんだよ」
「はぁ〜、やっと繋がったよ。そんで上岡様ぁどうなった?」
「皿ぁ数えるのが毎夜ってんで、奥様が心労で寝込んじまってよ、上岡様も坊さん読んでお経を上げて貰ったが効き目が無ぇ。終いにゃ殿様に頼み込んでその家を引き払ったそうだ、大川の向かいの
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