戦争を知らない私たち

白川津 中々

◾️

 やや右寄りの首相が誕生してからというもの、アーティストや文化人たちはこぞって政府への批判を繰り返すのだった。

 こうした人種はだいたい左寄りである。緊張状態になると歌も絵も売れねぇしそもそも表現できねぇというのが彼らの弁。未だ前大戦の影響が残る国際社会においてナショナリズムは煙たがられる傾向にあるのだが、ラッパー、一人愚連ひとりぐれんの考えは違った。


「もし戦争になったら? 上等じゃん。志願して敵陣に銃弾とライムぶっ放してやるよ」


 この発言は多方面に大きな波紋を広げた。それは、一人愚連が帰化人である事も関係していただろう。


 一人愚連は日系外国人だった。諸々の理由により幼少の頃は施設で暮らしており、その容貌や肌によって差別を受ける。当時は国や人間を恨んでおり犯罪にも手を染めたというが、今は違うと本人は語る。


「どの国にもいじめや差別はある。ただ、この国は比較的少ないし大した事もされない。施設を出て、バイトして金貯めて、色々な国を回って分かった。幸せだよこの国は。みんなそれを分かってない。だから、俺はこの国の、俺の幸せを守るために戦いたいし、ラップを刻みたい」


 この思想は確かに信念に基づいたものであった。しかし、いざ他国と戦争になった場合、半分外国人の血が入った彼が再び差別されないと言い切れるだろうか。自由と平等は平和のうえに成り立っているという前提が、やはりあるのだ。


 この国は右派も左派も、戦争を知らない。

 真実は、それだけである。

 

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