第2話 白狼様とチビちゃん達とわたし
さてさて、目が覚めると自宅の布団でした。というオチもなく黒い美しい毛並みの
え? 寒いかと思って? 猫神様やさしい。可愛い。だいすき。
と、それよりも、だ。これで夢という線はだいぶ薄くなってしまった。まぁ夢の中で寝る夢というのもあるかもしれないが、あまり現実的ではない気がするので、一旦これは夢ではないと認識を改めていかないと。
思ったよりパニックになってないのは長年の社会人生活で、悟ったからだ。人はどうしようもない困難に見舞われる時もある。そんな時はどうするか? とりあえず一旦受け止めて柔軟に対応する。このスキルけっこう必須。
「よく眠れた? ごめんなさいね、説明してなかったけれど貴方たち人間の祈りは身体に負担がかかってしまうの」
「え…………寿命縮むとかあります?」
「ふふ、ないわ。――それが純粋な願いや祈りである限り」
「…………キモニメイジマス」
「そうしてくれると嬉しいわ。寿命や生命力に介入はないと思うけど、お腹が減ったり眠くなったり、とかかしら」
なるほど、人間の三大欲求のうち二つか……。まぁ身体に害がなければそれでいい。
「ところで、貴方の話し方……」
「へぇ!? なにか失礼を?」
「いえ、そうじゃなくて。目覚めた直後はもっと普通に話していたじゃない?」
「あ、いえ、すいません……。神様って知らなくて……」
「あら敬ってくれているのね。ありがとう。でも普通に話してくれていいわ。見た目と口調があってなくて落ち着かないわ」
「なるほど……わかりました。猫神様」
「わかってるのかしら…………? ん? 猫神様って私のこと?」
「あ、はい、すいません。お名前を存じ上げないので風貌から猫と神獣様ということで神様をつけましたが……」
失礼だっただろうか……。しどろもどろになりながら説明をしていると猫神様は目を細めて笑った。
「あ、いいえ。名前なんて初めてつけられたから驚いて。嬉しいわ。その口調以外はね」
猫神様は器用に片目でウィンクしながら舌を出した。はい可愛い。勝ち。それに良かった、失礼にならなくて。
口調は指摘されたので直そう。ただ神様に敬意は忘れず謙虚に、ね……。
猫神様と喋っていると横からぬっと角が現れた。……普通にびっくりした。
「赤子よ目覚めたか。では行くかの」
「話が唐突すぎてついていけない……」
「ぬ……。しかしそやつがワシの話が長いと」
「馬鹿ねぇ。要点を押さえて話しなさいってことよ」
「うぬぅ……」
猫神様にぴしゃりと言われて唸っている
鹿神様は他の神獣様にわたしを紹介しがてらこの世界の事を教えてくれるそうだ。
ただ他の神獣様といっても数が多いから少しずつになる様だ。
まぁ一気に紹介されてもなぁ。ボーっとしていると湖に行った時と同じように猫神様が背中に乗せてくれた。ありがたい、この身体では恐らくハイハイもまだ出来ないだろう。追々練習していこう……。若返るにしてもせめて2~3歳位にしてくれれば……。
「赤子よ、着いたぞ」
小さすぎる身体に恨みがましい思いを馳せていると鹿神様から声がかかった。視線を鹿神様の方へ向けるとそこには真っ白い狼(やっぱりさっきのハスキーっぽい神獣様は犬だったのかな。
白い狼……
「これが次の人間か……」
「ちょっとコレなんて言い方やめてくれないかしら」
「あ、いや、別に……」
猫神様が苦情を言ってくれているんだけども、そんな事は気にならない。それよりもこのミニサイズの狼たちが可愛すぎて目が離せない。ジーっと眺めているわたしに白狼様が気づいたのか口を開いた。
「……食べるか?」
「………………はい?」
「人間は肉を食すのだろう。ほら食べるか?」
「……………………なにいってんの!? なにいってんのこの人!?」
「人ではないが」
「そういう問題じゃない!! 食べませんよ!!」
言われた言葉が衝撃過ぎて、ここに来てから初めてパニックになった。食べる? このコロコロした可愛い狼たちを?
ほら、白狼様の言っている言葉が理解できるのか、狼たちがキュゥンと鳴いてわたしから距離とっちゃったじゃん!!
こ、こわくないよ~。おいでおいで、と手を下からすっと差し出し悪意や敵意がない事をアピールしてみる。
「ほんっと馬鹿ね。人間は確かに肉も食べるけどそれでもこんな赤ちゃんが食べれる訳ないでしょ」
いや、猫神様、例え大人になっても食べませんし食べれません。差別と言われようとなんと言われようと食べれるお肉と食べれないお肉が世の中には存在します。
心の中で突っ込みながらチビちゃんsを我慢強く待つ。
「あの、白狼様、わたしはこの子達を食べないって伝えてくれません?」
「白狼? 我の事か。ふむ、人の子はコレらを食わぬのか。わかった」
白狼様がチビちゃんsに何か話しかけると(もちろんわたしは何言ってるかわかんない)チビちゃんsが恐る恐るといった風に近寄ってきてくれた。良かった、怖い人認定されなくて。
「ふわふわ、ちっちゃい、かわいい。狼なんて初めてさわった…………」
「赤子よ、感動しとるとこ悪いんじゃが説明してもいいかの」
「あ、ごめんなさい。どうぞどうぞ」
チビちゃんsを撫でる手は止めずに鹿神様の方に顔を向ける。
「先達て猫のが住処の話をしたと思うのじゃが」
「あぁ、はい。元の姿に戻したいっていう?」
「そうじゃ。それにはお主……というより人の願いや祈りがいる。じゃがのう、これが中々に上手くいかなくなっての」
「……人間の欲深さはどうにもならんからな」
苦虫をかみ潰したような顔の白狼様。この様子だと白狼様は人間が嫌いなんだろう。猫神様が気遣う様にわたしに視線を向ける。
「上手くいかなくなった理由は?」
「猫のが言った様にワシらに必要なのは純粋な願いなんじゃ――」
鹿神様がぽつりぽつりと話し出す。
――かつて住処を移した神獣様たちは、海に近い神聖な森を選んだ。住み始めた最初は神獣様の力のおかげで
要するに、瘴気は争いなどの負の感情から生まれる→神獣様は瘴気が濃い場所では力が失われ、人間の願いと祈りが必要なる→神獣様がいると精霊や自然がいきる→人間は自然の恵なしでは生きられない、と。(魔人や獣人、亜人の説明はまた今度らしい)
「じゃが、人間が複数集まるとまた争いが起こるのではないかと思ったワシらは一人だけを送るように言った」
「たしかに。住処移した場所で争いになったら本末転倒ここに極まれり、だもんね」
「……でもそれって、残酷よね。今更だけど」
「そうじゃの。家族や友、生まれ育った地から一人引き離され同族が一切いない状態で毎日祈る日々」
「それでどうやって…………私たちの為に祈れるのかしら」
あぁ、そうか。それはそうかもしれない。来た人にもその人の人生があっただろう。親や子供、伴侶がいた人もいただろう。それでも自分の大切な人が生きられるように来たんだろうか。孤独や恐怖に、悲しみに耐えながら。
「だから我らも最大限庇護しただろう。それを奴ら人間は」
「狼…………いや、白狼の。それはワシら側の見方じゃよ」
「だがっ……!!!! 奴らは何をした!!」
激高している白狼様。恐らく白狼様の人間嫌いはこの話に関係しているんだろう。怒りで震える白狼様をチビちゃんsがキュゥンと悲しそうに見つめる。うーん…………。とりあえず、この話はチビちゃんsがいない時にしてもらおう。見ててめっちゃ辛い。
「鹿神様、猫神様、白狼様。ある程度のお話は分かりま、……分かった」
ジロリ、とこっちを向く猫神様の意図を瞬時に汲み取るわたし。素晴らしい反射神経。
「とりあえず、わたしは今行く当てもなく、恐らくこの世界に属する者ではないのでここに置いてほしい」
「…………ふむ」
「それで、置いてもらうお礼や可愛いチビちゃんsや優しくしてくれた猫神様とかの為に祈ることはできる、と思う」
「……育ててから食うのか?」
「ぜっっっったい食べません!!!!!! そこから離れて!!」
「白狼……邪魔しないで」
「で、純粋かどうかはともかくわたしは神獣様たちに悪い考えは持たず祈ることはできるとおもう」
「なぜ純粋だと言い切れぬのだ」
疑うような白狼様。それはそうだ。なぜ「純粋かわからない」を強調するのか。わたしでも疑問や懸念が残る。
「わたしは見た目は赤ちゃんでも中身は成人済み女性なので、それなりに欲望や願望がある」
「ふむ、まぁ人間はそうじゃろうのう。して、お主の欲望や願望は?」
「え、言わなきゃダメなの……めっちゃ恥ずかしいんだけど」
「まぁまぁ言わなきゃ分かり合えないでしょ?」
なんっか猫神様がニヤニヤしてる様な気がするんだけどなぁ。気のせいかなぁ。
まぁいいか。
「まぁ欲望というか願望というか……6パックに腹筋が割れた細マッチョの超絶イケメンと付き合いたい。性格はちょっと俺様で、でもわたしにはめちゃくちゃ優しくて、わたし以外の女性には全く興味なくて冷たい。で、喧嘩とかも強くていつでも守ってくれて家でも外でも関係なく常にわたしに激甘な彼氏が欲しい。めっちゃ欲しい。どうしても欲しい!!」
「………………そうか」
「…………ここに来てから一番長く喋ったのぅ」
「…………ま、まぁより良い
おかしいな。言えって言われたから言ったのに………………めっちゃドン引きされた気がする。
神獣様とわたし HAL @hal_s_0000
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