エピローグ:教訓と未来
事件から数日後。
インターネットは日常を取り戻した。
だが、この事件が残した爪痕は深かった。
メーカーは慌てて製品のリコールやアップデートを行い、「デフォルトパスワード」の廃止を進めた。
週末、涼と真由は家電量販店にいた。
「ねえ、見て。この新しいWebカメラ、『初期設定でパスワード変更が必須』になってる」
真由がパッケージを指差して笑う。
「高い授業料だったけどな」
涼は苦笑いした。
「でも、怖いわよね。家の冷蔵庫やテレビが、誰かを傷つける武器になるなんて」
真由が呟く。
「便利なものには、必ずリスクがある。それを管理するのは、結局は『人』なんだ」
涼は、陳列された無数のIoT機器を見つめた。
「だけど、僕たちみたいな人間がいれば、きっと大丈夫だ」
真由が涼の顔をじっと見つめる。
「涼くん、本当にありがとう。涼くんがいなかったら、私、どうなってたか……」
「真由、僕の方こそ。君が現場で戦ってくれたから、僕も動けた」
ふと、二人の間に沈黙が流れた。店内の喧騒が遠のいていくようだ。
涼は意を決して、真由の手を取った。
「真由。……これからは、ネットの向こう側じゃなくて、一番近くで君を守りたい」
真由の頬がさっと赤くなる。
「え……?」
「君が好きだ。付き合ってほしい」
真由の目から涙がこぼれ落ちた。彼女は何度も頷き、涼の手を強く握り返した。
「はい……! 私も、ずっと涼くんのこと……」
涼は真由を引き寄せ、店内の柱の陰でそっと唇を重ねた。
「ん……」
真由の甘い吐息が涼の耳にかかる。
「さて、帰ってルーターのファームウェア更新でもするか」
涼が照れ隠しに言うと、真由は涙目で笑って涼の腕をつねった。
「もう! ロマンがない!」
「いや、これからは君の家のルーターも、僕が管理するって意味だよ」
「……バカ。期待してるからね、専属エンジニアさん」
二人は手を繋ぎ、店を後にした。
デジタルな脅威は去ったが、二人の温かい接続(コネクション)は、これから永遠に続いていく。
涼は真由の手のぬくもりを感じながら、心の中で誓った。
この見えない脅威から、君と、そして世界を守り続けると。
(終わり)
家電がゾンビに変わる日 - 1Tbpsの津波 SFCA @wersec
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