麻雀しか知らなかった僕らが男に変わった日。

有栖川龍輝

第1話 生活の綻び

長谷川は、今日も朝から工事現場で汗を流していた。重たい資材を運び、怒号と機械音が飛び交う環境。終わる頃には手が震え、腰は悲鳴をあげ、心だけが空っぽだった。


かつて勤めていた会社を突然クビになった日から、生活は崖を転がり落ちるように変わった。


月に一度のキャバクラ。週末の雀荘。


それだけが、長谷川にとって「まだ終わっていない」と思える証だった。


夜。黄色のネオンがぼんやり光る商店街の奥。煙草の吸殻の匂いが染みついた麻雀クラブ。ドアを開けると煙草の煙がまとわりつき、常連の男たちの声が響く。


「あ、長谷川さん来た来た!」「今日は勝たせてもらいますよ〜!」


いつもの調子。誰も本当の話はしない。誰も未来を語らない。ここでは「今日ツモれるか」だけがすべてだ。


そこで——その声がした。


「すみません…1人です。」


振り返ると、女が立っていた。20代後半だろうか?雀荘には似つかわしくない香水の匂い。目線はまっすぐ、迷いがない。


静寂。


次の瞬間、男たちの空気が変わる。


「お姉さん!入りなよ!教えるから!」

「俺の隣空いてるよ」

「いやいや、初打ちなら優しくするから!」


今日を境に彼らの日常は変わっていく。

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麻雀しか知らなかった僕らが男に変わった日。 有栖川龍輝 @Arisu_gawa

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