文学少女は夢をみる

陽麻

文学少女は夢をみる

 さよ子は夢見がちな文学少女だった。

 自分の想像を文章にして小説を書いて、投稿サイトへと投稿してみたりもしている。


 さよ子の想像は、年頃の学生らしく少女の夢がたくさんつまったものだった。


 書いている小説はある王国の王子と公爵令嬢の恋愛話で、貴族が通う学園で友人と勉強したり、ライバルの陰謀をくじいたりする。


 そんな小説のヒーローであるアルセル王子は、さよ子の理想がつまった文武両道なイケメンスパダリ王子だった。


 学園ではやさしく勉強を教えてくれて、ライバルの侯爵令嬢から守ってくれる。


 そんな夢を紡いでいたある日。

 さよ子はあることを思いついたのだった。



 アルセル王子をイラストとして具現化したいと。


 やり方は簡単、AIに描いてもらえばいい。

 さよ子はさっそくスマホでアプリをダウンロードしてアルセル王子の容姿や性格を打ち込んでいった。



「そうねえ、くせのある金の髪が肩まであって。身長は高くて、でもマッチョな感じじゃなくて細身なの。王子だから有事の際にも戦うことがないしね。

 性格は穏やかで、でも民を導いていける人格者であり、しっかりもの」


 

 さよ子の夢につっこみを入れる誰かは、ここにはいない。あくまでさよ子の頭の中で展開されている楽園だから。



 スマホがちかちかと明滅して、出てきた画像はさよ子の想像とは少し違ったアルセル王子だった。


 もうちょっと華々しい容姿で、キラキラ感がほしいところ。しかし、それをどう言語化してAIのソフトへ打ち込むか分からなかった。

 AIが作ったアルセル王子は白を基調にして金色のアクセントのついたスーツに、家宝の剣を腰にさげている。さよ子の小説の設定どおりになっているところもあったので、すこし(けっこう)ブサイクでも妥協した。



 すると、AIがイラスト化したアルセル王子に、背景をつけましょうと言ってきた。


「へー。背景ね。学校がいいかな。荘厳な雰囲気の」


 そう打ち込むと、さっきのアルセル王子の背後に、教会のような、灰色の大きな建物が追加された。


「いい感じだな。これ、小説の挿絵に入れておこう」


 さよ子はここでやめて画像を保存しようとしたが、AIが名前は?と言ってきたのだ。


「名前をつけられるのね。じゃあ、つけておこう」


 名前を入力しようとして、ボタンを押す。

 すると、AIはアルセル王子に勝手に名前をつけていた。


 『チンロコン』と。


 さよ子は絶句した。

 なにそれ。

 語感がめちゃくちゃ悪い。

 さらに、アルセル王子の気高い(とさよ子は思ってる)名前の、気品のかけらさえない。

 (全世界のチンロコンさん、いたらすみません・BY作者)


 AIはさらに聞いてきた。


 『チンロコンのストーリーを聞きますか』


 と。


 さよ子は震える手でそこをタップした。


 すると、AIはチンロコンは魔法学校の教師であり、実は学園の影の支配者であり、魔王であると言ってきた。


 白に金色のスーツを着て、家宝の剣をさげたアルセル王子は、なんだかいつのまにか魔王になっていた。


 ちなみにさよ子のつくった小説では魔法という概念はなく、中世の西洋王宮ファンタジーだ。

 それが、魔法学園ものになっていた。



 もはや別人になりはてたアルセル王子だが、AIはさらに物語の続きをかたり続ける。



 『魔王ではあるが、生徒の勇者パーティーと仲良くなる。日頃、生徒に真摯に魔法を教えていたおかげで、勇者パーティーとともに生徒会を作り、その顧問となり学園をかげで支配する』



 もはや何のために学園を支配しているのか、なんのうまみがあって支配しているのか疑問だ。


 AIはまたさらに物語の続きをうながした。


 『登場人物を増やしますか?』


 と聞いてきたので、さよ子はアルセル王子の相手、公爵令嬢ヒロインのサーティと言う少女を入力してみた。さよ子自身は気が付いていないが、いわずもがな彼女の分身である。


 すると、AIはまた語りだした。


 『チンロコンとサーティは、堅い絆で結ばれたバディだ。二人は学園の事件を解決するために、勇者一行と犯人を追い詰めていく。サーティは銃の達人であるため、犯人を見つけると一発銃をみまった。その弾丸は犯人の耳をかすり、驚いた犯人はサーティにひざまづいて許しをこうた。チンロコンは犯人に手錠をかけた』


 物語は学園ものをかすかに残しつつ、いつのまにか事件が起こっている刑事物語になっている。


 百歩ゆずって、いや千歩ゆずってバディでもいい。

 いや、やっぱりチンロコンとじゃなくて、アルセル王子だったらという話だけど。


 サーティは公爵令嬢なのに、なぜか銃の達人になっているし。


 もはやまったく別の話になっていた。




 さよ子はここでAIとの対話をやめた。


 素敵な物語をつくるなら。

 自分で一から紡ぐのが一番だわ。



 変わり果てたアルセル王子と公爵令嬢サーティを思う。

 ぶるぶると頭をふってその想像を消し去ると、パソコンへむかってキーボードを打ち始めた。


 彼女の王国、アルセル王子と公爵令嬢サーティの話をつむぐために。



 おわり

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文学少女は夢をみる 陽麻 @rupinasu-rarara

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