声劇台本【別れ紅葉は色褪せない】

汐音 葉月

別れ紅葉は色褪せない

【キャスト数】

4人 (※3人でも可能)

男:女:性別不問=1:2(兼役で1):1


【所要時間】20分程度


【配役】

①ハヤテ

男・高校生

とある出来事で人生に絶望し、龍田山を彷徨い歩く。ところが足を滑らせて転落してしまい、あの世とこの世の境目に迷い込む。


あかね

女・高校生

ハヤテの幼馴染。楓の姉。本来はハヤテと共に紅葉の名所である龍田山へ登山しに行く予定だった。人生に絶望して行方をくらましたハヤテを探しに独り龍田山へ行く。


かえで

※茜と兼役も可

女・高校生

ハヤテの幼馴染。茜の妹。病気で他界している。


龍田明神たつたみょうじん

性別不問

龍田山に住む神様。楓に瓜二つだが、中性的な見た目。性格は男勝り。あの世とこの世の境目に迷い込んだハヤテに出会う。

本来であれば人間の生死に介入する事は出来ない。


【本文】

ト=ト書き

()内=演技補足


※文中に出てくる“紅葉”の読みは“もみじ”に統一



〈ト:場面 ハヤテの夢の中〉


楓:ハヤテ〜!ほら、起きてよ!


ハヤテ:(うなされるように)う…う〜ん……


楓:もう、ハヤテったら!いつまで寝てるの?


ハ:うぅ…あ、頭が……痛い……


楓:ねぇ、遅刻しちゃうよ??


ハ:その声は……楓?楓なのか?


楓:仕方ないわね……先に行ってるからね?


ハ:……っ!!ま、待ってくれ!!楓!!



〈ト:ハヤテ、夢から覚める〉



ハ:ゆ、夢か……うぅ……頭いてぇ……

あれ??ここはどこだ……??

(記憶を思い出すように)えっと……

そうだ、確か俺は龍田山に来て……

途中で迷子になったんだ……

それで……ええっと……

足が滑って、そのまま落ちて……


ハ:よいしょっと……いてて。

はぁ。これからどうしよう。

手や足は折れてなさそうだ。

ただ……こんなに霧が濃いと、どっちに進めば良いんだろう……


ハ:いや……

こんな人生、生きていたってしょうがない。

このまま俺は、ここで——


龍田明神:おい、人間。


ハ:ひぃ?!


龍:ここで何をしている。


ハ:は、はい!

いや、俺は道に迷って……ん?え??

う…嘘だろ……??楓、か……?


龍:何を言っている?

私はここを守っている龍田明神だ。

人間が踏み入れて良い場所じゃない!

お主、どうやってここまで来た?


ハ:いや……確かに顔は楓に似てるが……

楓の方がもっとお淑やかで女の子らしかったよな……??

しかも変な服着てるし。


龍:サラッと失礼な事を言うでない!

神の前でよくもまぁズケズケと……!!


ハ:す、すみません。


龍:まぁ良い。私は懐がとっても深い神であるから、無礼の一つや二つ、どうってことない。


ハ:自分を神って言う時点でやばいよな……

関わらないでおこう……


龍:待て!!

勝手に神域を歩き回られちゃあ困るんだ。

許可なく移動をするな。


ハ:えぇ……


龍:仕方ない。一つ私の力を見せてやろう。

(力を溜めてから吐き出すように)……はぁ!!


ハ:うわ?!一気に霧が晴れた……

あんなに真っ白だったのに……


龍:これで信じてもらえたかな?


ハ:う、うーん……


龍:まだ疑っておるな?仕方ない。

本来であれば人間にすることではないが……

手を貸せ。

私の肩を掴んでもらって、と……


ハ:え?!きゅ、急になんですか。


龍:よし、こんな感じだ。さぁ!

離さないように、しっかり掴まるんだぞ。それ!


ハ:うわあぁぁぁぁぁ!!

と、飛んだ?!?!

待って待って待って!

こわいこわいこわい!!


龍:ちゃんと掴まってたら大丈夫だ。

さぁ、今日は特別に龍田山を案内してやろう!



〈ト:空を飛ぶハヤテと龍田明神、しばらく上空から龍田山を眺める〉



ハ:山を上から見るのって、初めてかもしれない。


龍:だろうな。しかも今は紅葉の見頃だ。

綺麗だろ?


ハ:……


龍:……お主がここに来た理由を聞いてなかったな。


ハ:……


龍:さっき言ってた“楓”が関係してるのかな?


ハ:あぁ……

あいつは紅葉が好きで、ずっとここを……

龍田山を登りたいって言ってたんだ。



〈ト:ハヤテと楓の回想シーン〉



楓:ねぇ、ハヤテ。


ハ:ん?なんだ?


楓:龍田山って知ってる?


ハ:いや、初めて聞くよ。

あんま山には興味ねぇからさ……


楓:(笑いながら)だよねぇ〜!


ハ:んで?龍田山がどうしたって?


楓:そこのね、紅葉がすごく綺麗なんだって。

だから、お姉ちゃんと、ハヤテと、3人で一緒に行きたいなぁって。


ハ:……


楓:わかってる。

ただでさえ、小さい時からハヤテには迷惑かけてるのに……

今はもっと身体が弱っちゃって、無謀なのはわかってるよ?

でも……死ぬまでに一度、綺麗な紅葉を見に行きたいなって、贅沢なこと思っちゃったの。

無理なのはわかっていても……


ハ:……無理じゃない。


楓:え?


ハ:無理じゃない!俺が!!

お前をおんぶして登る!!

茜も一緒なら、3人で何とかなるって!!


楓:……ふっ。ふふふふ。


ハ:な、なんだよ?


楓:なんか、ハヤテらしいね。


ハ:(照れながら)う、うるせぇ。


楓:……私、いっつもハヤテに迷惑かけてるなぁ。


ハ:そんなこと言うな。


楓:えへへ……ありがとう。



〈ト:ハヤテ、龍田明神に思い出話を語り終える〉



ハ:楓は結局、ここへ来る前に、もう……


龍:……そうか。


ハ:……


龍:で?お主一人でここまで来て、迷い込んだんだな。


ハ:あぁ……本当は、茜が提案してくれたんだけど……



〈ト:楓の死後、ハヤテと茜の回想シーン〉



茜:ハヤテ……久しぶり。


ハ:あぁ、茜か……


茜:あれから全然連絡も返してくれないから、家まで来ちゃった。


ハ:ごめん。


茜:んーん。いいの。

……昨日、楓の納骨おわったよ。


ハ:そうか……


茜:ねぇ。私たちで龍田山、行かない?


ハ:……


茜:楓が出来なかったこと、私たちで叶えよう?


ハ:(怒りを抑えるように)……楓が居ないと……意味ねぇだろ。


茜:……


ハ:(イライラしながら)なんで茜は平気なんだよ?

楓が居なくなって寂しくねぇのかよ?


茜:……私だって……私だって、つらいわよ!!


ハ:……


茜:私の、たった一人の妹がもう居ないんだよ?!

まだ、学校も卒業してないのに……

やりたいことだって沢山あったのに!!

先に行っちゃうなんて……

悲しいに決まってるじゃない?!


ハ:……


茜:だからって、いつまでもいつまでも!

ハヤテみたいに!

何にも手につかなくって、落ち込んでたら、楓が心配するでしょう?!


ハ:……


茜:……ごめん、言い過ぎた。


ハ:いや…俺が悪い……


茜:……今日はもう、帰るね。


ハ:わかった……


ハ:……あぁ、クソ!!



〈ト:ハヤテと龍田明神の場面に戻る〉



龍:それで、一人でふらふらとここまで来てたってわけか。


ハ:あぁ……


龍:茜には伝えて来たのか?


ハ:なにも言ってない……


龍:あーあ。


ハ:あれから気まずくて……


龍:喧嘩した挙句、楓の供養どころか道に迷ってやんの!

大の男が情けないねぇ。


ハ:このまま遭難して帰れなくても良かったんだ。

楓が見たかった景色を見ながら、そのまま死んでも……

そしたら、そこでアンタが現れたんだ。

まさか、神様に助けられるだなんて、思ってもみなかったよ。


龍:あのな、助けるとは一言も言っておらんぞ。


ハ:……え?


龍:今こうして飛んでいるのは、我らが美しい龍田山を案内してるだけだ。


ハ:えっ!


龍:ここは神域であり、あの世とこの世の境目だ。

いくら神とはいえ、人間の生死に介入することはできない。


ハ:えぇぇぇぇぇ!!!!

なんだよ……話に付いて行けねぇ……

じゃあ俺は生きて帰れるわけじゃないんだな……マジかぁ……


龍:……聞きたいことがある。


ハ:なに?


龍:お主が言っておった『楓』と『茜』についてだ。


ハ:え?あいつらのことか?


龍:私の神通力でお主のことを見させてもらった。


ハ:な、なんじゃそりゃ……透視能力ってやつか?


龍:厳密には違うが……わかりやすく説明するとそんなもんだ。


ハ:うわー。雑だなぁ。


龍:んで、お主の親しい楓と茜。

あの子らの家は神職なんじゃないか?


ハ:いや。おじさんとおばさん……

あいつらの両親は普通の会社員のはずだけど……

あっ……

そういえば、何代か前は神社の神主だったって聞いたことある。


龍:やはりそうだったか……

どおりで懐かしい感じがすると思った。

おそらく、あの子たちの先祖は……ここを守っていた神社の者だろう。


ハ:そんな、まさか……待てよ?

確かあいつらは分家で、元々は別の場所に本家があるって聞いたことあったな。


龍:その本家が守っていた神社が、ここにあったんだ。

……今はもう無いんだけどな。

そうか、楓と茜のところも、もう無くなってしまっていたか。

何世代も前に……


ハ:こんな偶然あるんだな……

楓の行きたかった場所が、先祖に関係していたなんて……


龍:……お主、このままさまよい続けるつもりか?


ハ:……


龍:今のお主は、生きる希望も気力もない。


ハ:……


龍:だが、このままじゃダメだと思っているだろ?


ハ:あぁ……


龍:命を与えられる瞬間はみんな平等なのに、寿命だけは平等じゃない。

これは本当に……人間にとったら残酷な運命さだめだろうな。


ハ:……あぁ。そう思うよ。


龍:お主が生き続けることは、楓も生き続けることになる。


ハ:どういうこと?


龍:茜や家族にはない、お主と楓だけの思い出もあるはずだ。


ハ:……そうだな。


龍:お主の命と記憶が無くなれば、その思い出までも失われることになるぞ。


ハ:……


龍:それに、お主が死んでしまっては、一度に二人も大事な者を失うことになる。


ハ:茜……


龍:今回だけ、特別だからな。


ハ:え?


龍:さぁ。もう少しで元の世界だ。


ハ:っ!!……ありがとう。


龍:それに……ちょうど良い頃合いで来てくれたな。



〈ト:ハヤテは上空から、山の麓に到着した茜の姿を確認する〉



茜:ハヤテ……本当にここ来たのかなぁ……

もし私の予想が外れてたら、どうしよう……


ハ:あ、あれは……茜!


龍:(ゆっくりと噛み締めるように)

……もう二度と、同じようなマネをするんじゃないぞ。



〈ト:龍田明神に帰されたハヤテ、気まずそうに茜に近付く〉



ハ:あ、茜……


茜:?!?!

ハヤテ〜〜〜!!!!

もう!!探したんだからね?!

家に電話したら行方不明だって言われて……

みんな心配してたんだよ?!?!

ハヤテの馬鹿……!!

(泣きそうになりながら)

本当に、本当に、良かった……


ハ:心配かけて、ごめん。

それに……今までのことも、全部ごめん。


茜:もう……仕方ないんだから。

(手を差し伸べて)……はい。一緒に帰ろう?


ハ:あぁ。


茜:ふふ……そうだ、今さらだけど。

紅葉……綺麗だね。


ハ:あぁ……そうだな。


〈完〉


※こちらはXのスペースで開催された『活動楽秋の演芸発表会2025』の参加作品です。

フリー台本化の許可を得て投稿しております。

どなたでも自由に上演可、使用時に作者とイベント主催側への連絡等は必要ございません。


〈追記〉

2025年8月18日

最期まで病と闘い、芸術と演技に情熱を掛けた友人に捧ぐ。


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